創立120周年記念整備事業
実践女子大学・実践女子大学短期大学部
渋谷キャンパス
学生の動線・視線を意識した空間づくり
話し手:輿石 秀人 (大成建設株式会社 設計本部 建築設計第五部 設計室長)
聞き手:永沼 麻子 (金剛株式会社 社長室)
はい。この計画ではまず学園様の基本計画がありました。建物の概ねの規模や高層建築となる事は想定されていて、私は学園様の要望される建物と構成を実現するべく、基本設計段階から完成までの建築設計を担当しました。
学園様の創立120周年記念事業という大変重要なプロジェクトであったことから、設計に対する思い入れも強く、記憶に残る仕事の一つとなりました。
―設計においてのご苦労や工夫した点をお聞かせください。
―どの様な課題や解決が考えられたのでしょうか?
都心の限られた敷地のキャンパス建設ですので、必然的に高層建築となり、大量の学生の上下階移動が問題になってきます。屋外スペースが広くはないため、授業後に下階へ降りるのではなく、上階へ行く又は各階で留まっていられる様な滞留するパブリックスペース造りが必要でした。またアトリウムはキャンパスを立体的に繋げ、見通せることで学生のアクティビティが表出するコミュニケーション空間となることをテーマに、ラウンジの配置やガラス張りの教室を配置しています。
―実際に建物が完成して学生さんの動きはいかがでしたか?
各階に常にまんべんなく学生さんがいて、授業時間以外で過ごす場所がキャンパスのいたる所に散りばめられ、また授業中の風景が見え、学生さんの様々な活動が感じられる所がこの建物の最大の魅力だと思います。
―他にも設計上の工夫や狙いはありますか?
学園様の学校理念、「品格高雅」をイメージして、建物内部の家具以外の色を白とグレーのシックなモノトーンで統一しています。そこに主役である学生さんの個性によって彩りが加わる事により、初めて建物内がキャンパスとして賑わう空間になっています。
―廊下に照明が少なくても、機能上の問題はないのでしょうか?
廊下全体は最低限の明るさは保たれていますし、目的地が明るいのであまり問題にはなりません。均一で明るい照明より、光を絞って効果的な照明配置計画をすればエコにもつながります。建物内での人の動きをイメージしながら明るさが必要となる、人のいる場所には明るい照明を取り付けました。一方、ラウンジやレストラン、1階のプラザはデザイン性を重視した照明を取り付けてランドマークになる様な効果を持たせています。その場所に合った照明を取り付け、建物内の特性や変化を自然に感じ取れるように意識しました。
空調も照明と似ている所があります。居住域を快適にするという考え方です。人がいる場所に空調を配置し、必要なエリアの空気が快適になる様な空調配置になっています。また、冬は暖かい空気が上に逃げることから足元の寒さを防ぐため、1Fのプラザには床暖房を設置しています。逆に夏は上部の換気口から暑い空気が抜ける仕組みになっています。
―音に関してはいかがですか?吹き抜けですので、人の声が響きそうに感じますが。
―照明・空調・音・色彩など様々な点から建物の構成を考えて、バランス良く効果を出していく訳ですね。
建築設計者だけでは出来ませんので、それぞれの分野に詳しい社内外のデザインパートナーとチームを組んで、ひとつの建物を作り上げていきます。あらゆる関係者が関わって初めて実現可能となっていくと常々感じています。
―建物が完成してみてご自身の満足度はいかがですか?
この建物の最大の魅力は、様々なものが開放的に“見える”事です。教室や図書館もそうですが、地下の集密書庫においても、側面が透明アクリルパネルの書架を使用し、書物が側面から見える様になっています。“見える”事で生まれる教師間・学生間の相互作用により、キャンパス内のコミュニケーションが活性化していく、学びの場にふさわしい空間に仕上がったと思います。この建物が実現出来たのは、特にこの計画を立案され、総合監修をされた高田教授の存在が大きかったです。このようなプロジェクトに携われる機会を得たことを大変感謝しています。
―本日は、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
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