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商業施設に併設された図書館の現状と可能性
近年、図書館は利用者数の減少がみられます。文部科学省が発表した「令和3年度社会教育調査の中間報告」によると、図書館の利用者数は2017年度をピークに減少傾向にあります。その背景には、以下のような要因が考えられます。
- インターネット普及による情報収集の容易さや、少子化による利用者数の減少による社会構図の変化
- 行政の予算削減による図書館の開館時間短縮などのサービス低下など。
しかし、図書館は単に本を借りるだけの場所ではなく、地域住民の学習や交流の場としての役割も担っています。そのため、図書館の活性化は重要な課題と言えます。図書館のあり方が見直されつつある中で注目されているのが、商業施設を活用した図書館です。従来、図書館は静寂と秩序を重んじる空間として、独立した建物に設置されることが一般的でした。しかし、商業施設に図書館を併設する動きは、全国的に広がりを見せています。商業施設と図書館の共存から以下のような相乗効果が生まれます。
1.図書館の活性化を促進
図書館を利用するために図書館へ行くという従来のスタイルから、誰もが気軽に立ち寄れる、地域の生活に根ざした図書館を目指したスタイルです。
- 駅前や商業エリアに立地することで、アクセシビリティが向上し利用者の利便性が大幅に高まります。商業施設は元々バリアフリーに配慮されていることが多く、図書館スペースも同様に入口や館内、書架周辺など、物理的なバリアフリーが必要になる場所で親和性が高いと言えます。
- また、商業施設の高い集客力によって、図書館の利用者増加が期待できます。特に、若年層やファミリー層へのアプローチに注目が集まっています。日常の買い物のついでに寄ることも出来、利便性の向上につながることが期待されています。普段本を読まない方にも、読書の楽しさを発見していただけるような機会となります。
- 商業施設には、休憩スペースや飲食店など、図書館利用者が快適に過ごせるための設備が充実しています。
以上のように商業施設ならではのメリットを生かしたバリアフリー化が期待できます。
- 事例)荒尾市立図書館(熊本県):荒尾市立図書館は、ゆめタウンシティモール内にある、2022年4月にリニューアルオープンしたばかりの図書館です。「干潟の図書館」 をコンセプトに、明るく開放的な空間で、約15万冊の蔵書を誇ります。館内には シアトルズベストコーヒー が併設されているので、コーヒーを片手に読書を楽しむこともできます。
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- 事例)大田区立池上図書館:太田区立池上図書館は、池上駅直結の商業施設「エトモ池上」内にある、アクセス抜群の図書館です。明るく開放的な空間で、池上線のカーブを模したユニークな通路が特徴的です。畳ベンチや地元出身者を紹介するコーナーなど、地域色も豊かです。さらに、関東初導入の予約本自動受取機など、最新設備も充実しています。隣接するカフェでは、図書館の本を読むこともできます。
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2.商業施設の付加価値向上のため
図書館は、知的好奇心を刺激し、地域住民の交流を促進する場としての役割を担います。商業施設に図書館を併設することで、商業施設にとっても回遊性の向上、滞在時間の増加、施設全体のイメージアップなどを通して集客効果が見込まれます。
図書館利用者が商業施設を利用し、その逆も起こることで、双方にメリットがあります。
3.地域貢献:商業施設に図書館を併設することで、地域コミュニティの活性化に貢献します
図書館は、単に本を借りる場所ではなく、子どもから高齢者まで、あらゆる世代の人々が集い、交流や学習を支援する場としての役割も担っています。商業施設に図書館を併設することで、読書会や講演会など様々なイベントを身近なものとし、また、生涯学習ももっと気軽に挑戦しやすくなります。
- 多世代交流の促進: 子供から高齢者まで、幅広い世代の人が集まる商業施設に図書館を併設することで、自然な形で多世代交流が生まれます。
- 新たなコミュニティ形成: 読書会やワークショップなど、図書館が主催するイベントを通して、共通の趣味を持つ人々が集まり、新たなコミュニティが形成される可能性があります。
- 地域情報の拠点: 地域のイベント情報やボランティア募集情報などを発信する拠点としての役割を担うことで、地域住民の地域活動への参加を促進できます。
- 子育て支援: 子供向けの絵本コーナーや読み聞かせイベントなどを充実させることで、子育て中の親子が気軽に集える場所となり、子育て支援にも繋がります。
- 文化・教養の向上: 図書館が提供する書籍や情報を通して、地域住民の文化・教養レベルの向上に貢献することができます。
- 事例)牧之原市立図書交流館「いこっと」(静岡県):牧之原市立図書交流館「いこっと」は、“つどう、つながる、ひろがる” をコンセプトに、2021年4月にオープンした図書館です。特徴的なのは、なんといってもその立地と空間構成です。図書館が、本を借りるだけの場所から、人々が集い、交流し、新たな発見をする場へと進化していることを感じさせます。
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商業施設併設図書館の課題と解決策
商業施設に図書館を併設する際には、以下のような課題があります。
床荷重(㎡荷重)の制約
商業施設の床荷重は通常300kg/㎡程度の場合が多く、これは一般的な図書館の床荷重よりも低い値です。この制約により、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 書架の段数が低くなる
- 蔵書数が制限される
- レイアウトの自由度が低下する
解決策
これらの課題に対して、以下のような解決策が考えられます。
- 床荷重の検討と補強:専門業者による㎡荷重の検討。また、必要に応じた床の補強工事を行うことで、より多くの蔵書を収容できる可能性があります。
- 効率的な書架設計:低い段数でも効率的に本を収納できる書架デザインを採用することで、限られたスペースを最大限に活用できます。
- 定期的な蔵書の入れ替え:人気の高い本や新刊を中心に、定期的に蔵書を入れ替えることで、限られたスペースでも多様な本を提供できます。
- オフサイト保管の活用:利用頻度の低い本は別の場所に保管し、リクエストに応じて取り寄せるシステムを構築することで、限られたスペースを効率的に活用できます。
これらの解決策を組み合わせることで、魅力的な図書館空間を創出することが可能となります。
結論
以上のように、商業施設を活用した図書館は、図書館と商業施設、そして地域社会の三者がwin-winの関係を築ける可能性を秘めています。
図書館と商業施設が連携していくことで、従来の図書館の枠にとらわれない、より魅力的な図書館が創造されると考えられます。