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(注意)本記事は、金剛株式会社が1990年2月20日に発行した機関誌「PASSION VOL.6」の内容を、当時の記録として公開するものです。記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。
本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。
※logistics:後方業務、兵たん業(調達。貯蔵、輸送、宿営、糧食、交付、整備及び人員、器材、補給品の護送などの業務)
吉井(株) 「医專事業本部」新物流センターが、西日本流通経済の要である熊本市流通団地に地域経済の期待と注目を浴びて完成しました。 本社物流部門、営業部門の病専部・試薬部並びに中央店(医薬部)を移転、統括した医専事業本部の誕生です。
競争激化の薬品業界において、いち早く物流合理化に着手し、最も合理化が難かしいとされている薬品卸の物流自動化構想を構築。九州各地の情報ネットワークを統合し、地区別に37店舗の支店営業網が組織されており、主に医家向部門、次いで薬局、薬店への薬粧部門、動物薬、養豚、養鶏、養殖向けの動物薬部門、役場関係部門、一般会社向けの商事部門の5部門に分かれ、特に病院、医院向けのマーケットは全体の82%を占めます。
年々、新薬開発が進み年間40~50種類の新薬が市場へ進出する中15,000点にも及ぶと言われる医薬品を厳しい基準で高品質に保ち、生命関連商品である為の薬事法をはじめとする各種の厳しい法的規制をクリアしながらの営業活動は高度な技術を要求されるものです。このような条件の中で、地域医療のニーズに対応できるサービスを実現した物流センターが完成しました事は、物流システ ムメーカーとしての誇りであり、喜びでもあります。
吉井㈱様「医專事業本部」新物流センターに導入載いたコンゴー自動搬送システムの全容を紹介 し、バーコードシステムの応用について読者の参考に供しうれば幸いと存じます。

沿革
吉井(株)は、寛永16年、上林町で酒屋として創業。明治10年に起きた「西南の役」の戦火で店は焼け落ちたが、造り酒屋の他の生薬を扱う部門だけがかろうじて焼失を免れた。以来、薬品部門が吉井商店となり現在の吉井株式会社の前身となる。昭和23年株式会社となり、今年42周年を迎える。創業350年の古い歴史の中で、数々のターニングポイントを乗り越えて、現在もなお、そのフロンティア精神は、脈々と息づいている。平成元年、スタートに相応しい年に誕生した物流センターは広大な土地と素晴らしい環境、深い緑に囲まれて、活気に満ちあふれている。


代表取締役会長
吉井 邦元 様
九州全域をネットする唯一の卸に
社長室には木でできた一枚の大きな看板があります。伊勢屋の揮毫は、初代が始めた「かみなり伊勢屋」の屋号です。 今から350年前、細川家の御用商人として両替商と造り酒屋を営み、そのかたわら、生薬の製造を手がけていました。すでにその頃から人々の健康に奉仕するという素地ができあがっていたと言えるでしょう。昭和7年に合名会社吉井薬品を設立。戦前は熊本から海外へ移住した人々のために、遠くハワイやブラジルまで薬を送っていたことがあります。
戦後の昭和23年、吉井株式会社となり、医薬品総合商社として新たなスタートを切りました。これまでに密度の濃いサービス活動と着実な営業活動を展開して、営業エリアを拡げ、現在、九州全域をカバーする唯一の卸として、地域医療の一端を担っています。これからも、多くの医薬品メーカーや医療機関、薬局・薬店から頂いた信頼を基に努力を続ける企業です。また、ややもすると体質が古いと言われる医薬品業界のイメージを打破すべく、新しい医療制度や時代にふさわしい流通システムを研究し、サービス体制の充実に努めています。
会社概要
- 創 業 寛永16年(1639年)6月
- 設 立 昭和23年2月
- 資本金 3億円
- 代表者 代表取締役社長 吉井憲章
- 従業員数 700名(男580・女120)
- 事業内容 (1)医薬品を中心にした関連商品(動物薬、水産薬、試薬、医療機器、介護用品など)の販売
(2)血液配送業務
(3)その他健康関連商品など販売 - 所在地 〒860 熊本市世安町356番地
TEL096-353-3351 - 事業所 本社/熊本市 支店/福岡支店、長崎支店、鹿児島支店、宮崎支店を中心に九州内の37ヶ所
をネットワーク - 売上高 343億円(平成1年2月期実績)

薬のことならとても詳しい社員がいます
「業務は、優れた医薬品を、適正な価格で各医療機関に提供すること。既に九州大学病院をはじめ、九州各県の大学病院や公立病院、一般の病院や医院との間に永年培ってきた取引実績を誇ります。薬の製造や患者の診察・治療とは異なり、あくまで、そのお手伝いではありますが、とてもかけがえのない仕事だと認識しています。ひとつの新薬の開発に、数十年の歳月と数百億円の研究開発費を要するという話や、提供した医薬品が治療に効を奏したということを経験することもあり、そのたびに業務の重大さを痛感します。また、九州全域を営業エリアに持つために、競合が多いことも事実です。当社の営業スタッフは、日常のきめ細かい営業活動により、取引先の信頼を得るとともに、今、医療の最前線で何が求められているのかを迅速かつ的確にキャッチできるよう努めています。さらに社内研修をはじめ、社外研修、社外講師による研修会などで、業界を取り巻く動向には常に注目しています。おかげさまで当社は、現在の様な企業に成長することができました。しかし、この数字に満足することなく、高齢化社会や医療に関わる諸問題に立ち向かいながら、いっそうの躍進を続けていきたいと考えています。」と熱っぽく語る吉井社長の言葉は最終責任者としての重みをひしひしと感じさせてくれる。
これからの医療をみつめて
医薬品は人命にかかわる商品だけに、迅速かつ安定した供給体制が求められます。徹底した商品管理と顧客管理に取り組み、全支店網をオンライン化して、品切れのない品揃えとスピーディな配達を可能にしています。また、医薬品メーカーと医療機関のパイプ役は、この医薬品の配達だけでは語れません。営業スタッフが医療の最前線でキャッチした情報を医薬品メーカーにフィードバックしたり、医薬品業界の動向など最新の医療情報を医療機関に提供するなど、情報の橋渡し役ができるよう努めなければなりません。
九州全域に37ヶ所の営業網と取引先があり、医薬品の売れ筋の把握や医療現場、薬局からの健康情報収集力はどこよりも正確であることが要求されます。こうした情報を医薬品と一緒に提出できることによって配達に付加価値をつけることができ、よりニーズに対応した供給体制ができると考えます。また医療機関から要請があった場合、30分以内での配達を目標に、サービスエリアの拡充に取り組む必要があり、医薬品の24時間体制の確立が社会的使命としてクローズアップされてきました。これからはコンピューターシステムの全面的な見直しと、物流センター用地の確保、物流専任スタッフの編成と研究体制の確立により新しい流通システムの完成が目標です。
物流センター建設の方針
物流センター建設にあたってはプロジェクトチームが編成され、物流構想の構築に2年余りの歳月が費やされ、基本方針は熟成されています。
[1] 本社物流部門、営業部門病専部・試薬部・医専部を統括して営業活動を行う
[2] 医薬品の品質管理の強化
[3] 迅速かつ安定した医薬品供給体制・サービス体制の確立
[4] 新しい医療制度や時代にふさわしい流通システムの研究
[5] 時代を先取りする情報管理システムの確立
[6] コンピュータ制御による物流管理システム、在庫管理・入出庫管理・高効率の保管システムの実現
[7] 物流センター作業環境の向上
[8] 医薬品配送ルートの確立
[9] 全支店のオンライン化による商品管理と顧客管理の推進
[10] EOS、VANシステムの積極的導入と運用
吉井株式会社 医専事業本部 建築概要
- 名 称 / 吉井株式会社 医専事業本部
- 所 在 地 / 熊本市流通団地1丁目69番地
- 規 模 / 敷地面積 5,139㎡ 建築面積 2,014㎡ 延面積2,679㎡
- 構 造 / 地上1階~地上2階、塔屋2階、S造
- 設計監理 / 大原設計事務所
- 施 工 / 住友建設株式会社
- 物流設備 / 金剛株式会社
- 工 期 / 平成1年3月~平成1年7月31日

物流センターの設備・特長
吉井株式会社 医專事業本部新物流センターの 設備・特長についてまとめてみました。
建築設備
①立地条件を十分考慮した建築設備である為、日照や風向き、道路事情に適合している。
②棚列に合わせた照明配置と照明器具をふんだんに用いて作業環境を向上させる。
③最新の空調設備により、作業環境の向上と医薬品の品質管理が可能となる。全窓にエアカーテン設置。
④広い駐車スペースにより、より効率的な配車、 補給体制を取り、サービスの向上を目指す。
⑤屋上駐車場の設置により社員駐車場の確保と、 営業車との切り離しが万全 (配車効果の向上)
⑥入庫口~出庫口各々独立配置により入出庫のス ムーズな運用が可能。
⑦物流管理室により作業場が一望でき、業務の集中管理が可能となる。

物流システム機器構成
コンペア自動搬送システム
- 駆動ローラコンベアストレート……………………………… 117m
- フリーローラコンベア……………………………………………. 35m
- 駆動ローラ(90°、60°、45°、30°、ハネアゲ装置含)…1式
- 移載装置…………………………………………………………………….. 1式
- ターンテーブル………………………………………………………… 1台
- ベルトコンベア(傾斜、水平)…………………………………… 1式
- 自動積込機………………………………………………………………… 1台
- エアー式ストッパー………………………………………………. 15台
- ジャンプユニット…………………………………………………… 11台
- ローラ脚、ガイド ………………………………………………….. 1式
制御システム
- 分電盤、動力制御盤No1(自立形) ……………………………. 1面
- 動力制御盤No2、No3(自立形 )………………………………… 2面
- フォトセンサー・パトライト ………………………………….. 1式
- 操作盤 …………………………………………………………………………… 1式
- バーコードリーダーシステム ………………………………….. 1式
- バーコードカード、バケット ………………………………….. 1式
- コンプレッサー制御システム …………………………………. 1式
- エアーコンプレッサー ……………………………………………… 2台
保管ラックシステム
- 固定棚 W1800×D300W (S)×H1950(天地7段) …… 37台
- 固定棚 W1200×D300W (S)×H1950(天地7段) …… 2台
- 移動棚Z KZU663-307W(連動照明付) …………………… 7台
- 流動棚(4列×5段) W1500×D1800×H2300 ……………….. 16台
冷蔵庫1、2、3、4、少量危険物庫、麻薬庫 - 移動棚 KSCJ 462-267W ………………………………………….. 1式
- 固定棚 W1800, W1200×D300S (W)×H1950(天地7段) 1式

物流システム
- オーダーピッキング方式(リアルタイム)
- IQ別固定ロケーション (ABC分析による)
- コンペアシステム及び垂直搬送機・移根装置を 使い搬送効率を向上させている。
- 流動棚による先入れ先出し、オーダーピッキングシステム。
- 移動棚・固定棚を使い格納効率の向上とロケーション管理(連動照明により照明効果を向上。)
- 入出庫・在庫管理のコンピュータ制御により在庫管理・効率保管を実現。
- コンベアシステムにバーコードシステムを連動させて、品名、入出庫数、在庫数、ゾーン区分のデータを瞬時に読み取り、物流システムの制御、各ラインの自動仕分けが可能となっている。
- 制御間の信号伝送に光ケーブルを用い、情報伝 達の高速化と信頼性を向上させている。
- ロケーション管理の充実によって、ベテラン作 業者だけでなく、だれでも商品検索が可能とな る。
- 注文一出荷 納品の格段のスピードアップによ 「御客様サービスの向上」 「省力化・コスト ダウン」の実現。
- ツインコンプレッサー方式により安定した空気圧が供給できる。
- 最新のバーコードシステムの採用により、読み取り誤差が生じない為、正確な情報管理と制御が可能となる。





システムの運用
物流センターの運用をまとめてみました。 大別すると、入荷、保管、出庫に分けられ、各々 に検品、搬送、仕分け等の動きが加わり、更にコンピュータからの情報支援によって円滑な物流セ ンターの運営管理が行われます。
入荷
医薬品メーカーより商品が納品伝票とともに入荷バースに入荷する、納品伝票に基づき入荷情報をコンピュータ入力する。次に入荷予定情報により商品の数量単位でセンター内の行き先保管ゾーンエリアを管理しているコンピュータから入荷商品の行き先、数量指示を入庫指示書として発行する。入庫指示書に従い、コンテナに商品を入れ、バーコードカードを挿入し、自動搬送ラインに流される。コンテナは指定されたラインに自動的に流れ、商品はピッキングゾーンの指定されたロケーションに補充入庫される。出荷物流管理室に収集された受注データは物流センター内のEDPよりリアルタイムにピッキング指示書を発行する。(EDPはピッキングゾーン別に設置してある。) 作業者は指示書に従い指示ロケーションからピッキングを開始する。ピッキングした製品と指示書をコンテナに載せて行き先指示に従い、バーコードカードを挿入し、自動搬送ラインに流される。 コンテナはバーコードリー ダーによって行き先情報を読み取り、各ゾーンを通過し、自動的に方面別に仕分けされ検品・出荷となる。又、入庫作業と出庫作業は同時運転が可能でありスケジューリングによる制約を受けな い。
コンベア仕様
- 機 高 600 m/m
- ローラー幅 500m/m
- ベ ル ト 丸ベルト
- 速 度 24m/min
- ロ ー ラ 100P(ピッチ)、Φ38
- フ レ ー ム 90×30×3.2t







システムの詳細
今回の自動搬送システムの特徴を述べると
[1]入荷口と出荷口は区分され入荷口に2本のコンベアラインが設置され、ABC分析に基づ いて入荷仕分け保管される。
[2] 高精度のバーコードシステムを利用して、正確な搬送、仕分けと情報管理を行う。特にP Cとの情報通信は光ケーブルを使い高速化を実現している。
[3] コンベアシステムは、データ解析を基に医薬品搬送に最適な速度と処理能力で設計されている。
[4] 限られたスペースの最大活用を図るため、ハ ンドル式移動棚Zを活用している。又、Zに は、開閉連動照明を使い、照明効果を向上させ、かつ電力費を節減している。棚には、可動仕切り板を使い、流動的に棚位置が設定変更可能。
[5]コンベア制御はシーケンサを用い、将来のライン変更やグレードアップ等に対してフレキ シブルに対応が可能となる。
[6] ライン各所にパトライトを設置し、動作状況や異常を知らせるモニターとして活用している。
[7] コンベア駆動に必要なエアーは、2台のコンプレッサーで交互運転され、常時適正なエア ーを保つツインコンプレッサー方式である。
[8]入庫口、冷蔵庫側壁面の出入りは、コンベア脚 を高く設定することで解決。 搬送ラインによって作業者が出入りに制約を受けることを防ぐ。
[9] コンテナの回収は綿密なスケジューリングに よって、入出庫のタイミングを計らい、搬送ラインの逆転運転によって行っている。

出荷作業システムフロー図

出荷作業システムフロー図

バーコードシステムの特長
物流システムの抱える問題点の1つに、搬送物を計画通りに正確に動かすかということがあります。物流システムを正しく設計すること、及びあらかじめリアルタイムのデータを収集することが管理上の問題の重要点です。その手段として搬送物を識別し、追跡する手法が取られます。オプティカルエレクトロニクスの技術的進歩により各々の品目の識別が可能になり製品管理が容易に可能になります。製品データを自動的に読み取ったり高速で動いている物体上のコードでも遠隔読み取りができるようになっており正確でスピードのあるスキャンニングが実現できます。
バーコードシステム仕様
- 読取り距離 300mm max
- 読取り視野 270mm max
- 走査速度 150スキャン/秒
- 最小分解能 0.20mm~0.38mm
- 出力インター 出力 RS232C
フェイス 出力 RS422 - 読取りコード JAN/EAN13-/UPC-A、2 out of 5 ファミリー 、JAN/EAN-8/UPC-E、
コード39’、コーダーバ、MSI - 動作温度 0~50℃
- 動作湿度 90%RH(結露なきこと)
- 保護構造 IP64仕様
- 電源電圧 90~130V (50/60Hz)
バーコードリーダーからのシリアルデータ(RS232C or RS422)をBCDコードに変換し、6桁をパラレルに出力しPCに6桁一括入力が可能。
バーコードカード仕様と運用
物流センター内で打ち出されたピッキングリストは伝票No.と配送先及び配送ルートが割り当てられています。バーコードカードの情報を読み取ることで自動搬送・自動仕分けが可能となります。


明日の「医療」を支え、九州の「健康」を願う
「いま、吉井株式会社は、医薬品メーカーと医療機関のパイプ役として、九州一円にネットワークを擁する医薬品総合商社となりました。各方面から厚いご信頼をいただき、感謝と同時に、生命関連産業に携わる者としての責任の重大さをひしひしと感じています。」(吉井社長)の言葉にあるように、常に、ひとりでも多くの人の健康のお役に立ちたいと願いを込めて、吉井株式会社は歩んで来ました。こうした、人々の健康への願いにどう応えるべきか、さらには、医薬品業界を取り巻く厳しい環境にどう対処すべきか、課せられた使命を全うするため、時代を先取りする情報管理システムの確立と、着実な営業活動で未来を切り拓いてこられました。
「今日もどこかで新しい生命が誕生しています。どうか健康で、元気に育ちますように。誰もが、まず、そう思うはずです。人には様々な願望がありますが、一番の願いは、健康で長生き出来ることではないでしょうか。」(吉井社長)
この切なる願いを込めて創られた吉井株式会社医専事業本部の誕生を心から祝い申し上げます。また、当社の自動搬送システムをご採用され、地域医療の一助を担う姿を見ますと、誠に感慨深く誇りに感じます。新らたな使命感を抱いて物流システムの創造に更に情熱を注いでゆきたいと思います。今回、吉井株式会社様には取材協力を戴き感謝いたしております。近年の医療に関わる諸問題に立ち向かいながらいっそうの躍進をされることを確信いたしました。
参考資料
『YOSHII CO.,LTD. 1989』
『くまもと経済 6 1989』
『バーコードシステムハンドブック』
『JIS X0501、JIS X0502』
(1990年2月20日刊行)