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(注意)本記事は、金剛株式会社が1995年3月10日に発行した機関誌「PASSION VOL.16」の内容を、当時の記録として公開するものです。記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。
本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。
CDの生産量は国内No.1静岡プロダクションセンター
昭和57年、世界初のCD製品化以来、常に技術開発を続け、現在CD生産量では国内No.1を誇る㈱ソニー・ ミュージックエンタテインメント。その心臓部とも言うべき2つのプロダクションセンターが富士山を背景に、大井川をはさんで並び建つ。「越すに越されぬ」と詠まれたこの川も、今は国道を始め、東名高速、東海道新幹線がまたぎ、東京まで2時間、大阪まで4時間とかからない。スタジオで録音された多くのスター達の作品を編集したテープが即日のうちに運ばれ、CD に加工、リスナーの手に届けられるのである。

(株)ソニー・ミュージックエンタテイメント Sony Music Entertainment(JAPAN)Inc.
本社 | 東京都新宿区市谷田町1-4 |
静岡第1プロダクションセンター | 静岡県志太郡大井川町相川2001 |
静岡第2プロダクションセンター | 静岡県榛原郡吉田町大幡1300-1 |
資本金 | 196億6000万円 |
設立 | 昭和43年3月 |
事業内容 | レコード(CD、LD、MD等)及びビデオソフト等の企画・制作及び 販売 |
世界に唯一のマスターテープを自社保管
同社はこれまで、自社のマスターテープを自社スタジオと東京の保管業者に依頼し、分散して保管してきた。しかし、音楽ソフト会社として、財産であるマス ターテープの保管体制の確立が重要と判断。今後のマルチメディアの進展で、音源と映像の多重活用拡大に対応すべく、静岡第1プロダクションセンター内に、万全の防災対策を施した保管倉庫・MT棟を建設した。平成6年10月よりテープの移設を開始している。
震度7の激震にも耐える免震移動棚の仕様
倉庫MT棟の1~4階、延べ1614㎡に8連・9連の 特別仕様のハンドル式免震移動棚が第1期工事として73台、テープの収容本数にして約13万本分が納入され た。現在計画中の収容数は約26万本だが、西暦2004年には保管物が満載になる予定。世界に1本しか存在しない貴重なテープを守るため、ユーザー側よりの要望は、以下のような厳しい条件にまとめられていた。
1.条件
- (1)震度7の激震に十分耐えること
- (2)人、 収容物に対し、安全であること
- (3)女性が軽く動かせる駆動方式であること
- (4)磁気の影響がないこと
- (5)デザインが良いこと
(1)については同社では特に重要視し、すでに建物も震度7まで耐えられる頑丈な耐震構造で建築してあった。それらの資料・データを元に、KONGOの新免震プロジェクトチームでは移動棚の構造を検討し、自社実験場で大がかりな加振実験を十数度行ない、ユー ザーの設定する震度7の場合でも、全く問題はないことを証明した。(P.8参照)
(2)~(3)に関しても実験データなどを提出し、ユーザ 一の納得を得た。
(4)収容物が磁気テープであるため、装置からは一切の磁気発生要素(マグネット等)を除いた(写真2)
(5)棚のカラーは、SME本社CIルームのデザイナーより淡いグリーンとアイボリーの金剛の標準色が評価され、それを主体に内装が決められた。またサインパネルの取り付け位置を棚側板中央にし、ロケーショ ンにより見出しの色が分けられている。(写真2)


2.収容物
音楽・映画などのマスターテープ、フィルム等約13 万本
3.棚サイズ、数料

4.棚構造
(1)本体
棚板:見付20㎜(1段当り70㎏積載)
天板:耐震用ガセット構造
側板:Aパネル、Bパネル共パンチングメタル加工
支柱:2.3t
棚フレーム:背面ブレース(連方向)
(2)駆動部
駆動方式:チェーンダブル(2ヵ所)後輪駆動
車輪:材質 S45C
軸受:ピローブロック(特殊仕様)
駆動力:女性でも楽に動かせる機構
(3)埋込みレール:
材質:ステンレス(SUS304)下部転倒防止装置付き
(1)側パネルは、通気性と消火時にガスが行き渡ることを考慮し、パンチング加工とした。特にユーザーからの強い要望である地震対策に応えるため、免震装置以外にも本体構造として、連方向の強度追加のため、背面ブレースを取付ける等の特別仕様となっている。
(2)8連と9連という非常に長い連数であるため、中間シャフトから駆動輪に伝わる力をダブル後輪駆動とした。駆動力を中央寄りにして台車の斜行を防ぐと同時に、駆動力も増している。
5.免震構造
水平加速度1階450gal 4階800gal (MT棟の構造計算により算出)に十分機能する事とし、免震対策として下記の装置を取付けた。 (免震装置の詳細はP.1参照)
(1)車輪ロック解除装置
(2)ESC装置
(3)リリース機能
(1)~(3)の装置により、最も問題となる棚の走行方向の転倒、スリップなどの事故の問題はクリアしている。例えば、人や台車などが通路に存在すると仮定した加振実験でも、作業者の安全性が立証できたと同時に、被試験体の台車にも全く損傷は見られなかった。 (P. 8参照)
日本初のスーパー倉庫・MT棟
建築名 | MT(マスターテープ)棟 |
設計管理 | (株)SME・CIルーム、(株)竹中工務店 |
施工 | (株)竹中工務店 |
構造 | 地上4階 鉄筋コンクリート造 PC工法(スラブ厚450㎜ ピアノ線450ピッチ張り) 床耐荷重1.75ton/㎡ |
工期 | 平成5年11月~平成6年8月 |
消火設備 | イナージェン(窒素・二酸化炭素・アルゴンの混合ガス)消火システム (国内で初めて導入された設備) |
空調 | 室温20~23℃ 湿度50~55%を維持 |
同倉庫は地震を始め、あらゆる災害に対して、厳しすぎるほどの条件を設定し、その全ての問題を解決した強堅な建築物となっている。 ソニー・ミュージック エンタテインメントで組織されたMT棟建設プロジェクトチームで取り上げられ、検討された個々の問題点は、以下のように解決された。
1. 災害に対する安全対策
①地震:・震度7まで耐える耐震構造とする・インフラ復旧までの非常用発電機設置
②液状化:・砂礫層の地質で液状化の発生なし
③津波:・被害地域外(海岸から5km)
④洪 水::・洪水被害はないと予想できるが、安全上2階床高さ5mとする
⑤火災:・外壁: 耐火コンクリート・内部防火 、イナージェン消火設備など
⑥落雷:・避雷導線
⑦台風:・過去の最大風速・雨量より設計
⑧塵埃:・塵埃を生じない内装材・空調は中性能フィルター使用 (15μ以下)
⑨磁気:・電気設備を遠ざける・消磁された移動棚を採用・高圧鉄塔より離す
⑩防犯:・無窓の堅牢な建屋・カード式電気錠
⑪鉄塔倒壊:・風速40m・震度7で設計されているが安全上倉庫は鉄塔より20m離す
⑫温湿度維持:・常時空調・災害に強い方式・火災時温度が異常にならない構造

2. 人に対する安全対策
①一人作業:緊急呼出無線式ペンダントを常時着用
②消火ガス:消火効果があり、安全なイナージェンガス
3.公害対策
①電波障害:近隣2軒に電波障害対策をこうじる
磁気テープという環境に左右されやすい性質の、貴重な品物を永久に保管するため、温度・湿度は常に 一定に保たれている。また、日本で始めて導入されたイナージェンガスによる消火システムも非常に興味深い。これは二酸化炭素とは異なり、倉庫内に人が取り残された場合でも窒息せず安全で、温度低下もないため、結露による保管物のダメージも防げるという画期的な消火システムである。
また、内装やインテリアに関しても、ソニー・ミュ ージックエンタテインメント本社のCIスタッフと竹 中工務店のデザイナーが協力し、統一した形やカラーリング、サインパネルの文字にまでこだわった逸品揃い。理想的なアメニティ・ファクトリーの実現に若いワーカーも喜んでいるという。
バーコード、オンラインを利用した検索・入出荷システム
テープ、フィルムの保管状態は、社内のあらゆる部署やスタジオなどからも、コンピュータ画面で検索でき、急な出庫要請もオンラインを通じてMT棟に指示することができる。マスターテープ1本1本に貼付された個別認識のためのバーコードと、棚に貼付されたロケーションコードをハンディターミナルで読み取り、コンピュータによる管理システムにデータを転送する。1日の入出庫数は約200本。現在は男女各1名の専門スタッフが、このデリケートな作業を担当している。(写真4)


ユーザーとメーカーの協力体制から生まれるより良い製品
現在移動棚は、その計画の2/3度の第1期の納入工事が完了している。西暦2004年までに26万本収容定だが、それ以降の増加を考え、既に増設用のレールは設置済み。
平成5年2月に倉庫の建築計画か特ち上がってから、プロジェクトチームでは懸案事項の解決に精力を傾けてきた。上層部の理解・承認を得るために、担当者自らもそれらについて深く研究し、メーカーへ幾度も突っ込んだ質問をぶつけ、話し合ってきたのである。その中からベストの答えが導かれ、更にはより良い改修案が生まれ、製品化された。ユーザーのこだわり、メーカーの営業担当の真摯な対応、ユーザーの要望を満足させる開発スタッフの技術力――どれかが欠けても、この日本でも類を見ないマスターテープ保管棟は完成しなかったであろう。(写真5)

資料<ソニー・ミュージックエンタテイメント仕様 移動棚耐震試験結果>
試験目的
(1)免震装置の性能試験
- ロック状態からの解除
- ロックしたままの状態
- ESC装置、リリース機能のチェック
(2)通路安全バーの地震時における安全確保のチェック
(3)落下防止金具機能のチェック
(4)作業通路内での作業台車の安全確保のチェック
(5)その他、ラックの構造などのチェック
試験概要
気象庁震度段階と参考事項(1978)は日本で使われている震度階で、諸外国では別の震度階が使われている。説明欄の数字は地動の加速度で、単位はガル(gal:㎝/sec2 )。この加速度は正式には震度階級にはないが参考のために記した。

入力地震模擬波
(1)震度5レベル(加速度周期波形)最大加速度 400gal

(2)震度7レベル(加速度周期波形)最大加速度 800gal(振動数3.1Hz)

(3)震度7レベル(変位周期波形)最大加速度 800gal(振動数1.5Hz)

試験内容
加振方向


解析と結果
1.試験の解析
震度5の421galの場合は、震度4に相当する277galにエネルギーが軽減され、震度7の821galの場合は、実に半分以下のエネルギーに抑えられ、357gal(震度5程度)となり、地震の揺れの抑制に、かなりの効果があることが判る。
連方向の加速度の増加を考慮し、棚構造上の対策として①ブレース②ガセット付天板③転倒防止金具で対応している。

2.結果

今回、入力加速度が最大800galと、これまでにない試験であったが、走行方向、連方向とも異常は発生しなかった。収容物の落下、破損はなく、移動棚機能の低下にも認められず、通路安全バーにより作業者の保護も確保された。免震装置の機能により、巨大な地震エネルギーが約半分になり、作業者や荷の安全性が証明されるという理想的な結果に、実験に立ち会われたユーザー側も非常に満足された。
(1995年3月10日刊行)