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(注意)本記事は、金剛株式会社が1997年2月28日に発行した機関誌「PASSION VOL.19」の内容を、当時の記録として公開するものです。記事内の情報は発行当時のものであり、現在の状況とは異なる場合があります。また、当時の社会情勢や倫理観を反映した表現が含まれている可能性があり、現代の基準に照らし合わせると一部不適切と感じられる箇所もあるかもしれませんが、資料的価値を考慮し、原文のまま掲載しています。掲載されている商品やサービスは、既に販売・提供を終了している場合があります。
本記事は、著作権法上の引用の範囲内で掲載しています。当時の記録として、皆様に楽しんでいただけましたら幸いです。
寄稿者:
鹿島技術研究所
第三部第5研究室主任研究員 田上淳
平成8年5月に、当社の大型振動台を利用して免震移動棚の振動実験を実施する貴重な機会を得たので、その概要について紹介させていただく。
移動棚に要求される耐性能
移動棚に要求される耐震性能とは、概ね以下のようなものであろう。
- 本を落下させない。
- 移動棚がら壊れたり、脱輪したり、転倒したりしない。
- 人に危害を加えない。
これらの性能を、実際の加振を通して確認することが今回の実験のねらいである。
加振の条件
表1には今回の実験で使用した加 3波形の最大加速度と最大速度の一覧を示している。家具の転倒を問題とするような実験の場合には、加速度と速度の2つの要素が重要な実験条件となってくる。
【解説参照】
3波のうち2波は建物の応答波であり、壁の多い鉄筋コンクリート造5階建ての建物が、震度7相当の地震に遭通したときの5階位置の応答を振動台上で再現しよう、とするものである。なお、震度という量は物理的な定義が難しい量であるが、ここでは、“震度7”を“最大速度50cm/sの地震動”と読み換えている。
日本の超高層ビルの耐震設計においても、最終的な建物の安全性を検討するための地震動のレベルを規定する数字として、この ”50ms” が最も一般的に用いられている。最後の1波は1995年の兵庫県南部地震において神戸海洋気象台で観測された地動記録であり、最大速度が90km/sにもなるような極限クラスの地震である。今回の実験では、これを原波のまま再現した。
加振は全て3方向(水平2方向と上下方向)同時加振である。使用した振動台の性能は表2に示したとおりである。移動棚は4連を1ユニットとし、振動台上に施工したフローリング床上の走行レールに4ユニットを設置し全てのユニットに本を満載した状態で実験を行った。

種別 | 名称 | 最大加速度 [gal] | 最大速度 [cm/s] |
---|---|---|---|
応答波 | エルセントロ *¹ 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:887 間口(耐震)方向:631 上下方向:558 | 奥行(免震)方向:60 間口(耐震)方向:46 上下方向:12 |
タフト *² 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:1054 間口(耐震)方向:910 上下方向:312 | 奥行(免震)方向:57 間口(耐震)方向:49 上下方向:20 | |
地震波 | 神戸海洋気象台 観測波 | 奥行(免震)方向:818 間口(耐震)方向:617 上下方向:332 | 奥行(免震)方向:90 間口(耐震)方向:75 上下方向:40 |
*¹ 1940年Imperial Vally地震によるカリフォルニア州エルセントロでの強震記録。
*² 1952年Kern County地震によるカリフォルニア州タフト市での強震記録。
項目 | 仕様 |
---|---|
テーブル | 寸法 5m×5m 自重 30トン |
搭載重量 | 定格 30トン 最大 50トン |
最大加速度 | 水平 ±2G 上下 ±2G |
最大速度 | 水平 ±100cm/s 上下 ±50cm/s |
最大変位 | 水平 ±20cm 上下 ±10cm |
振動数範囲 | DC~60HZ |
加振方式 | 電気・油圧サーボ方式 |
制御方式 | アナログ・デジタル制御 |


実験結果
実験結果を表3に示した。いずれのケースも移動棚本体の損傷は皆無であり、本の落下も殆どなかった。なお、今回の実験では移動棚のほかに足元を床に固定した一般的な形式の書架についても実験を行っているが、こちらの方は大半の本が落下・飛散してしまい、免震効果を発揮した移動棚とは対照的な結果となってしまった。【写真2】
加振後の観察では、移動棚各部の損傷の有無を確認する以外に、走行動作の確認も実施した。
いずれのケースについても動作異常はみられず、スムーズな走行動作が確認された。また、移動棚4ユニットのうちのユニットについては、ユニットの四隅の加速度(3方向)を計測している。ユニット各方向の最大加速度(4点の平均値)を、それぞれの方向の振動台最大加速度で除して応答倍率を計算したところ、免震(走行)方向では、いずれのケースも倍率0以下とすなわち、入力レベルより応答レベルの方が小さくなり、免震効果が発揮されていることが計測データの上からも確認された。
試験体 | 入力波 | 移動棚の最大加速度 gal | 応答倍率 | 移動棚の損傷 | 加振後の走行動作 |
---|---|---|---|---|---|
電動式免震移動棚 (AEX) | エルセントロ 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:216 間口(耐震)方向:662 上下方向:816 | 奥行(免震)方向:0.24 間口(耐震)方向:1.05 上下方向:1.46 | 特になし | 正常 |
タフト 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:397 間口(耐震)方向:1104 上下方向:616 | 奥行(免震)方向:0.38 間口(耐震)方向:1.21 上下方向:1.97 | 特になし | 正常 | |
神戸海洋気象台 観測波 | 奥行(免震)方向:636 間口(耐震)方向:1184 上下方向:861 | 奥行(免震)方向:0.78 間口(耐震)方向:1.92 上下方向:2.59 | 特になし | 正常 | |
ハンドル式免震移動棚 (KZ) | エルセントロ 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:623 間口(耐震)方向:854 上下方向:797 | 奥行(免震)方向:0.70 間口(耐震)方向:1.35 上下方向:1.43 | 特になし | 正常 |
タフト 50cm/s5F応答波 | 奥行(免震)方向:653 間口(耐震)方向:1349 上下方向:1086 | 奥行(免震)方向:0.61 間口(耐震)方向:1.48 上下方向:3.48 | 特になし | 正常 | |
神戸海洋気象台 観測波 | 奥行(免震)方向:652 間口(耐震)方向:1019 上下方向:965 | 奥行(免震)方向:0.80 間口(耐震)方向:1.65 上下方向:2.91 | 特になし | 正常 |

移動棚の耐震性を評価する
現行の建築物の耐震規定(建築基準法施行令)は、1981年に改訂されたもので、地震に対して表に示すように、2種類の地震動レベルを想定した2段構えの設計をすることとなっている。(ただし、小規模な建物に 関しては必ずしもこの限りではない)
このうち、「建築物の耐用年限中に1度遭遇するかもしれない程度の地震」のレベルが概ね50m/s (ある いはもう少し小さい) に相当すると考えて良い。従って、この規定との対比から今回の実験結果を評価す ると、「今回の移動棚は、建築物の耐用年限中に1度遭遇するかもしれない程度の地震 (これは大地震である)が起こったときの建物の揺れに見舞われても殆ど何の損傷も受けず、移動棚としての機能を保持した」となる。建築物の耐震規定を、軽々とクリアしたこととなる。
なお、今回の実験では想定しなかったが、移動棚としての性格を考えると、ユニットがいつも走行レール上のある決まった位置にあるとは限らない。従って、地震が発生したときの位置によっては、ユニットがエンドストッパーに衝突する可能性も大いにあるわけで ある。従って、このような現象をも想定した各種対策が図られているか否かが、最終的な性能を決定する大きな要因となるであろう。
ただし、今回確認した性能はあくまで「鉄筋コンクリート造5階建て程度の建物に設置した場合」と言う条件付きである。今後、この条件を外していくためには、地震時に移動棚が受ける建物の揺れという入力条件をもっと総合的、包括的に捉えた上で適切に評価していく必要があろう。もっとも今回の実験では、「50km/s 応答波」以外にこれよりもさらに入力エネルギーの大きい「神戸海洋気象台観測波」を用いた実験でも、機能上問題ないことが確認されたことを考え併せると、まだまだ余裕がありそうである。
地震のレベル | 建築物に要求される性能 | 今回の結果 |
---|---|---|
Ⅰ | 建築物の耐用年限中に数回遭遇する程度 (震度5程度) | 建物の機能保持 (建物は基本的に無損傷) |
Ⅱ | 建築物の耐用年限中に1度遭遇するかもしれない程度 (震度7程度) | 人命の保護 (建物の多少の損傷は許容するが転倒、倒壊を防ぐ) |
【資料:建築物の耐震規定における基本思想】
新しい規定では、地震力の強さに、2段階のものを考えている。まず、建築物の耐用年数中に1度遭遇するかもしれない程度の地震の強さとして、関東大震災級のものを考え、これに対し、建築物の架構に部分的なひび割れ等の損傷が生じても、最終的に崩壊からの人命の保護を図る。また、耐用年数中に数度は遭遇する程度の地震に対しては、建築物の機能を保持することとする。
— 改正建築基準法施工令新耐震基準に基づく構造計算指針・同解説 p199より抜粋 —
(1997年2月28日刊行)