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コンゴーHi-Power開発ストーリー

金剛株式会社 環境科学部 TL 池永一郎

ロングセラーモデルHPZSにつながる開発秘話です。業界初のDCモーター採用、人間工学に基づいた操作パネル、高度な制御システムといった、数々の革新的な技術によって生まれました。この開発ストーリーは、技術者たちの探求心と、ユーザーへの深い洞察力を物語っており、HPZSが今もなお愛され続ける理由がそこにはあります。

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コンゴーハイパワー(以下HPZと表記)について紹介を行う。

HPZは全く新しいコンセプトにより開発された製品である。「お客様にとって使い勝手の良い移動棚とは何か?」を改めて取り上げ、開発の主眼に据えた時、新たな技術への挑戦が始まった。それはユニバーサルデザインを纏った、人に優しく、安全且つシンプルな「第三の移動棚」とも言うべき新しいスタイルの移動棚へと発展していった。

新開発した多くの技術はどのような経緯で形作られていったかを振り返る。

HP開発ストーリー

HPZの開発当初には、移動棚と使う側の関係を再度見つめ直すところから始まった。過去、丸ハンドル式移動棚SMZの開発の際、デザインコンセプトであったユーザビリティを今回も継承し、収納効率追及ではなく、あくまでも使う側ユーザーに着目し、何がメリットとなるかを主眼とした。収納スペースは、多くの場合共有化される。棚には性能向上を、人には作業の快適さを念頭に開発に着手した。

『ユーザー』視点からのアプローチ

これまで、ユーザーへは、移動棚に要望機能の付加という形で対応してきた。様々な機能を持った機種が出来上がり実績となったが、今回はよりシンプルに『使い勝手』を追究することとした。

また、同様に『省スペース』化を取り上げた。省スペースは移動棚にとって、使命となっている効能で、従来の移動棚以上の省スペースを図る必要があった。開発は、棚寸法を最小にし、収納量を最大にする方向とした。開発指針は「誰もが重たいものを、いかに早く正確に動かし、いかに早く正確に停止させるか」という、移動棚にとっては基礎的性能を向上させることとした。つまり、機能重視から性能重視へと開発の方向転換となった。そのキーワードは『誰もが使用できる移動棚』である。開発指針の現実のための再構築ポイントは大きく3つ。

  1. 新しい駆動系開発
  2. それに対する制御系開発
  3. 人間工学に基づくデザイン

『使い勝手』の検討

何をもってユーザーの使い易さ『使い勝手』とするかは難問だった。開発メンバーは、襖や引き戸の様に棚を扱えないかと言う操作仕様に着目した。
従来、電動棚は操作スイッチを一度押すと棚主導で動作し、その動きには基本的に立ち入ることが出来ないものだった。棚の動きを人間側に置くことで『使い勝手』の向上とした。

駆動系開発担当者は、人の動きに追従できる応答性と移動棚の駆動特性と同特性を有しているDC(直流)モーターを選択した。業界初のDCモーターの採用により10tの積載荷重のものを100gの力で駆動させる走行性と、積載荷重の重軽に左右されない業界最短停止距離のブレーキシステムを確立することにより安全性を高め、アシスト押動駆動方式の採用により、高効率(省エネルギー)駆動を実現した。DCモーターの特性は今回求めるものに最適の性能であった。

制御系開発担当者はAUSMC(高度無段変速マイコン)制御を新開発した。この新制御方式は、人間工学により人の動きを分析しマイクロコンピューターに書き込んでDCモーターを制御するものである。制御対象は人の動きとした。スロースタート及びスローストップの各制御系を人の動きから接点(タイミング)を取って信号化し、その信号により各制御が組み合わされて(シーケンス回路)行うことで、人の動きに棚が違和感無く倣うように制御することができた。この技術により人の意思で自由自在に移動棚が可動する操作性と作業通路内での安全性確保を実現した。

『誰もが使える』=優しいインターフェイス

操作部開発担当者は、これらの新技術をひとつにまとめ上げ、最終ユーザーの操作感の向上と、誰もが使える『使い勝手』のよさを目指した。

欧州デンマークのユニバーサルデザインによる、直感的に操作が解る矢印をモチーフとした操作パネル形状の開発を行った。また、人間工学を駆使し、襖や引き戸を取り扱う人の動きによる手の動きの角度変化を追及し、従来は正面に取り付けてあった操作スイッチを、業界では初めてパネルの側面に取り付けた。スイッチの設定には、見易さと操作に最適な15度の角度(正面からは75度)を付けた。スイッチが点灯(点滅)することでの視認性、“引き戸”操作を行う上での手の角度、共に最適な設定とした。並行して、作業通路に人が入ったことを検知するセンサー位置の研究を行い、作業通路の確実なロックシステムを実現した。これにより、身障者の方にも健常者の方にも同次元で安全に操作の簡単な「使い勝手の良い移動棚」が完成した。

『省スペース』の検討

省スペース機器の移動棚を更に省スペース化することは、乾いたタオルから一滴の水を絞り出すのに似ていた。もともと、当社の製品は他社に比べ開口方向の有効寸法は業界最大(注:柱芯々一間口900mm条件の場合)である。残された方向性は奥行き方向の有効寸法拡大と棚外(周)部取付パネルのスリム化であった。当社棚は、他社の棚のようなブレース構造でなく、ガセット構造のため堅固な構造体である。この独特で堅固な構造を利用し、支柱前面から30mm棚板を出すことが可能となった。これにより、奥行き有効寸法を拡大させると同時に、操作パネルの厚みと幅をスリム化することで、業界でも最小サイズ、最大収納量を実現した。ユーザーにとって1mmでも有効に利用したいニーズにマッチする「超省スペース型移動棚」が完成した。

HPZS奥行き等従来品との比較
HPタイプと従来タイプのサイズ比較(平面図)
※積載容量は同じです

最後に

HPZは以上に紹介した開発項目以外にも様々な検討・試作を積み重ね完成した「第三の移動棚」である。その本質は『使い勝手』と『省スペース』とを併せ持った21世紀型移動棚として、今後更に進化していくことになる。以後もお客様第一・品質第一主義を実践することを肝に命じ、開発者の思い込みによる開発でなく、あくまでユーザーの視点に立った開発を続けていくために皆様のご意見をお聞かせ願いたい。益々複雑になる製品開発において、コンピュータに使われるのではなく、それを意識することなく使い切るシンプルな製品開発に心がけていきたいと考えている。

(2001年12月17日刊行)