COMPANY
寄稿:松井 文恵さん(ホキ美術館 広報事務局) ※所属・部署は取材当時のものです
ホキ美術館の紹介
ホキ美術館は、2011年11月3日に、千葉市緑区あすみが丘に開館した、日本で初めての写実絵画専門美術館である。東京駅からJR京葉線・総武線で約1時間、外房線の土気駅が最寄り駅で、千葉市最大の公園である緑豊かな昭和の森に隣接しており、新興住宅地を抜けていくと忽然と現れる最新鋭の美術館だ。
写実絵画と一ロにいっても、その定義は難しいが、対象を見たままに描くことを基本に、作家の意図や想いが具現化された絵画である。所蔵作品は現在300点を越す。1部上場の医療メーカー、ホギメディカルの創業者であり館長の保木将夫のコレクションである。10数年前に、森本草介の描く美しい婦人像の作品に出会ったのをきっかけに、写実の中でも特に細緻画といわれる分野に特化して収集を進めてきた。作家はほぼ98パーセントが日本の作家で約40人、しかもほとんどが現役で活躍している。館内には8つの写実絵画のギャラリーがあり常時、約160点を展示しており、そのうち60点は、半年ごとに企画展として展示替えを行っている。これまで、「開館記念特別展」、「静物と風景画展」を行い、次は人物画の展覧会を予定している。
そもそも、ホキ美術館開館の構想に至った経緯を振り返ってみよう。館長が写実絵画のコレクションを始めた当時は自宅に作品を展示し、社員を集めてときどき披露していたが、やがてそれらを一般の方々に見ていただこうと考えた。そこで、自宅の隣を収蔵庫兼展示場に改築し、年に2回公開することにしたのだ。告知は、家の前に、「○月○日、公開します。」と貼り紙をしただけである。しかし、一歩足を踏み入れてその作品の細密描写のすばらしさに感銘を受けた人々は、次々に携帯電話で人を呼び、午後からまた人が増える。最初の年に200人の来場者であったのが、年を追うごとに400人、600人、と増え、1日1000人を超す人々が集まるようになった。館長は、写実絵画に対する人々の確かな手ごたえを感じ、これはもう美術館をつくるしかない、と思ったという。
ホギメディカルの赤坂の本社ビルを手掛けた日建設計の山梨氏に相談し、まず、美術館の土地探しから始めた。自分の足で候補地を回り、千葉の昭和の森のそばでまだ造成されていない土地を決めるに至った。6年ほど前のことである。美術館の建物について、設計者に頼んだことは、「そばを通った人が入ってみたいと思うような建物を造ってください」。館長のリクエストはただそれだけだった。やがて2010年9月に竣工した建物は、昭和の森に向かってゆるやかにカープを描いた回廊型の長い筒のような建物を5つ組み合わせ、しかも後方に突き出たギャラリーは30メートルが宙に浮いているというユニークなものであった。住宅地に隣接していることから高さは制限され、地上1階、地下2階の構造となった。昭和の森側から来た人々は、その特異な建物に引かれ、また窓があるギャラリーは外から作品を垣間見ることもできるため、道行く人々の興味をそそる。また、展示室はゆるやかなカーブをともなっていることから、隣の絵が見えるようで見えない。1点1点の作品に集中して鑑賞することができるのだ。企画展示室ギャラリー1は建物が鉄板でできているため作品は壁に強力なマグネットでつけられたフックにかかっており、ピクチャーレールやワイヤーなど、鑑賞の妨げになるものは何もない。あるのは白い壁と作品のみである。また特徴的なのは美術館としては初めての全館LEDの採用である。しかも赤系と青系の2種類のLEDを8000台組み合わせ、一つひとつの作品に最適な光を作り出している。さらに床には足腰に優しいラバー素材を採用し、長時間の鑑賞でも疲れないような工夫を行った。また、ギャラリー1には昭和の森側の低い位置にずっと窓があり、明るい光を採り入れながら、遠くには緑が見えるという、森と一体化したミュージアム環境を創出しているのが特徴である。このように、鑑賞者が、写実絵画を存分に楽しんでいただける工夫を重ねた建物になっている。
ギャラリー2以降は、常設展示室で、森本草介から始まり、野田弘志、磯江毅(故)など、作家ごとに作品が展示されている。中堅作家、若手作家と並び、ギャラリー5では、陶磁器作品も展示されている。ギャラリーごとに天井の高さや展示スペースの回廊の幅が違い、雰囲気の違いを味わっていただきながら、階段を降りて地下2階までくるとクライマックスは「私の代表作」のコーナーだ。こちらは、開館2年ほど前に館長から依頼を受けた15人の画家がこの美術館のために、自由なテーマで描いた100号以上の大作ばかりを展示している。5メートルごとにガラスのパーテーションがあり、スイッチを押すと音声ガイドをお聴きいただけるようになっている。それぞれ作家が制作にあたっての想いを文章にし、それをナレーターが読んでいる。現役作家のコメントをお聴きいただけるのもホキ美術館の醍醐味といえよう。
また、1階にはイタリアンレストラン「はなう」とミュージアムショップを、地下1階にはカフェを併設している。「はなう」は東京・西麻布の有名店「アルポルト」の片岡護シェフがプロデュースしており、地元の旬の素材をふんだんに使った本格的なイタリアンを提供している。レストラン内にも写実絵画がかけられ、美術鑑賞の余韻そのままに美しい料理をお楽しみいただく、これもホキ美術館が目指しているものだ。
常設展示ギャラリー
ホキミュージアムショップ
イタリアンレストラン「はなう」
ホキ美術館の開館以来の取組み
2010年に開館したホキ美術館が最初に力をいれたのは、建物、コレクション、そして展示はもとより、人々に認知していただくための広報活動である。まず開館半年前に、有楽町の外国人記者クラブで代表作家をまじえて、100名ほどのマスコミ関係者の前で記者発表を行った。報道資料の配布とともに、ホキ美術館とマスコミをつなぐ「ホキニュース」の発行も行った。開館直前には、交通広告をはじめ、主要新聞での全面広告をうち、かなりの認知を集めるに至った。また開館前日にはプレスのための内覧会とレストランの試食会を行い、東京からバスでご案内した。また、同時に充実したホームページを立ち上げ、最新情報を更新している。こうした広報活動により主要テレビ、新聞、雑誌の取材が相次ぎ、開館と同時に多くのお客様にお越しいただくことになった。3月の大震災により、しばらく来館者数は低迷したが、ゴールデンウィークには1日2,000人を超す日もあり、10月現在で来場者数は13万人を超えた。
このほかのホキ美術館の取り組みとしては、まず特徴的なものの1つ目が、月に1度行っている画家によるギャラリートークだ。作家の生の声が聞けるということで好評を博している。2番目に建築家による建物探検セミナーで、これは美術館の外や中を丁寧に解説し、建築家のさまざまな工夫や意図を知っていただくもので、やはり人気が高い。ホキ美術館の建物は、2009年にスペインの建築祭の設計部門でベスト5に入賞しており、建築界でも大きな注目を集めている。3つ目には、東京からバスで美術館までご案内し、作品解説を行い、レストランで特別メニューをご堪能いただき、東京までまたバスでお送りするというツアーや、作家とふれあう機会も創出している。4つめにはミュージアムグッズの充実があげられる。開館以来、ミュージアムグッズは好評で、展示作品のすべてをポストカードにしているほか、作家の描き下ろしによるマグカップや皿、千葉県産のピーナツバターなど、こまめに変わるグッズを楽しみに来館する方も多い。5つめには、ホキ美術館年間パスポートなどの発行とともに、美術館ン発信のツイッターも行い美術館からの情報発信と、来館者との交流を深めている。
今後の展望
今後の展望として、館長が第一に考えているのは何よりも「よい作品を収集し、展示すること」。来館者のために、よい作品を、魅力的に展示していくことである。半年ごとに展開される企画展として、現在考えているものは、「ホキ美術館傑作展」。これは、ミュージアムショップで販売しているポストカードにみる人気なども考慮しながら選ばれた作品60点が並ぶことになる。また、数人の人気作家の作品のみで構成する三人展なども検討中である。
これまで写実絵画は、画廊や、公募展などの会場でしか一般の人々が鑑賞できる機会はなかった。しかし、このホキ美術館ができたことにより、一気に注目が集まり、全国各地から多くの方々が写実をご覧にいらっしやる。それだけではなく、作家から美術館へ絵を展示しほしいという依頼も後をたたない。作家同士も、美術館に一堂に展示されることで触発され、それまで以上に切磋琢磨し、より技術を磨いてきているといえる。ホキ美術館は、所蔵作家との交流を行いながら、また、新人作家の発掘を行いながら、写実絵画の発展に寄与していきたいと考えるとともに、新たな美術館のありかたを模索していきたいと考えている。
外観
ホキ美術館
所在地:千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
TEL:043-205-1500(代表)
開館時間:10:00~17:00(水・金・土は18:00まで)
休館日:火曜日(火曜日が祝日の場合開館し、翌日休館)
URL:http://www.hoki-museum.jp