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話し手:本庄 美千代さん(武蔵野美術大学美術館・図書館 事務部長)
ー新図書館が平成22年に開館されました。
開館前に思い描かれていた事や開館後の気づきについて本庄部長にお話を伺います。
図書館づくりは、「意匠と機能のたたかい」の連続でした。武蔵野美術大学(以下、ムサビ)では創立80周年記念事業のひとつとして図書館計画が構想されていました。計画の当初は図書館と美術館は独立別個の建築計画でしたが、学内協議の末、新棟旧棟の一体構想が必要であるとして図書館機能と美術館機能の一体化構想が打ち出されました。ムサビでは従来図書館と美術館は一体的な組織運営を伝統としてきましたので、基本構想においても新しい建物では「ムサビの伝統を継承し発展させる」という結論に至りました。
建築設計はプロポーザル方式により藤本壮介建築設計事務所が選定されました。設計者からのコンセプトは「書物の森」を実現したいという渦巻き型の図書館設計案が提示され、これまでの図書館の常識を180度転換せざるを得ませんでした。特に図書の分類配架は渦巻き構造の書架に馴染みにくく、配架計画に関して多くの時間を費やしました。しかし、私たちは与えられた条件を活かし智恵を出し合い、ムサビらしい図書館のあり方を追求しました。そうした「たたかい」の末、新図書館では配架動線と空問の視認性を計算したユニークなサインシステムや、美術館機能の融合とICT*を活用した図書館機能といった面で、結実できたと思います。
*ICT (Information and Communication Technology:情報通信技術)
外観
ームサビらしいとはなんでしようか。
組織的な運営面から述べると、本来図書館と美術館は別のものですが、ムサビでは1つの組織として運営しています。館長は1人、事務部も1つです。スタッフは業務の専門性(コア・コンピタンス)があるものの、図書館と美術館の業務を補完し合っています。例えば展覧会の企画も一緒に行います。個人的な負荷は重いかもしれませんが、各人は高いスキルを求められる分、やりがいのある魅力と活力に満ちていると感じています。今回の新図書館計画においてもコア・コンピタンスを保持し、業務全体の総点検や図書館機能の高度化について皆で検討を重ねてきたことが今日の活動につながっています。
館内の様子
アトリウム
ー学内外からの反響はいかがでしょうか。
外部の方には意匠と機能の双方において賞賛の声を頂いています。学生にとっても居心地の良い空間として歓迎されているようです。内外からの肯定的な反応にスタッフはとても満足しています。
ー図書館はよく「場」として例えられますが、ムサビではいかがでしょうか。
ひとつには、図書館は「共生する場」ともいわれますが、ムサビはモノづくりの大学であり学生の日常的な場は主に「制作の現場アトリエ」です。制作に行き詰まった時に図書館に来て美術資料をはじめ、図書館の空間全体から異分野のイマージネーションを発見して貰いたいと考えています。創作活動にインスパイアできる場(刺激の場)を提供していきたいですね。
ーインスパイアされる場とは、面白いです。さて重点を置かれたことは何でしょうか。
3つの図書館コンセプトを打ち出しました。1つ目が「ラーニング・コモンズ」の空間づくりです。学生自身にイメージの発見の場を提供することです。2つ目に「ユビキタス・ライブラリー」です。ICTの活用によって情報システムやデータベースを独自*に構築しました。
例えば書架側面に装備された「ブックタッチ」に図書をかざすと画面上に関連資料の情報や貸出ランキング等の情報が表示されます。学生から高い関心を集めています。レファレンス機能や検索機能のセルフ化と言えます。最後に当館独自の「ハイブリッド・ライブラリー」の考え方です。図書館にいながら美術館にいるような感覚を体現できる。例えば、デザイナーズチェアの配置やギャラリーを設置することで、学生が実際に見て触れ体験できる場を提供しています。デジタル情報、図書資料、本物の作品が同時に閲覧できるという仕組みです。
*新図書館構想にあたり、学生と新図書館プロジェクトを立ち上げました。その中での実際の訓査活動やミーティングを通じて学生のアイデアが活かされています。例えば他の学科の学生が何を読んでいるかを知りたいといった要望に応え、夫々の図書の学科別貸出履歴が表示されるようにしました。
ブックタッチ
ー開館後の気づきはありましたでしょうか。
配架して気づきましたが、地下のアクリルパネル仕様の集密書庫は非常に美しいですね。アクリル面に雑誌の表紙が映りこんでいる色彩風景が非常に美しい。雑誌は通常、製本されますがムサビでは行いません。雑誌の表紙デザインを作品と考えて大切にしているからです。特に海外では雑誌の表紙デザインはグラフィックデザイナーやフォトグラファーの登竜門と言われています。雑誌の表紙を残すことは美大生にとって、垂要な意味を持つと考えています。私が気に人っている場所の1つです。
ー図書館、美術館、民俗資料室、イメージライブラリーが一体化して完成となるとお聞きしました。
美術館の改修工事が現在進行中です。完成後は施設に一歩足を踏みいれると、図書館に入った時は自分が美術館にいるような気分で、一方、美術館に入った時は自分が図書館にいるような気分になるような場にしたいと思います。また貴重な椅子コレクションや映像資料コレクションが美術館棟のギャラリーやライブラリーで利用できるようになることも楽しみです。ムサビの特徴である図書館・美術館の力を最大限に活かし発展させていきたいですね。
ギャラリー
情報コーナー
視聴閲覧席
床へのサインシステム
ー本日は貴重なお時間とお話をいただきまして、ありがとうございました。
集密書庫
取材・文:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム
※所属・役職は取材当時のものです
(2010年)
武蔵野美術大学美術館・図書館
所在地:東京都小平市小川町1-736
TEL:042-342-6004(代)
URL:http://mauml.musabi.ac.jp/