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話し手:本田 光子さん(九州国立博物館学芸部博物館科学課 課長) ※所属・部署は取材当時のものです
ー以前、本田課長は「九州国立博物館ではIPM*活動を通じて市民協同型ミュージアムの実現を目指したい」とおっしやっていらっしゃいました。開館から5年経ち、その後についてお話を伺いたいと思います。
*IPM (Integrated Pest Management : 総合的有害生物管理)
九州国立博物館(以下、九博)では建設時からIPM活動に取り組んできましたが、市民ボランティアの参加は極めて重要でした。IPM活動は短期間で効果を判断しにくいので評価は難しいですが、活動は経験の積み上げであり、縁の下の力持ちになっています。見学者の方の感想からは、九博は他の博物館とは違って見えるとの声もいただくことがあるようです。この違いとは何なのかを考えています。
九州国立博物館主催のIPM公開シンポジウム
シンポジウム参加者
ー私見ですが、館内では子供連れの家族を良く見かけます。
表現は難しいですが、雰囲気的な感じですか?
私も雰囲気について時々考えることがあり、その私の答えとして市民と協同で作り上げてきた雰囲気だと感じています。よく「九博は国立の施設だから」と言われますが、職員や業務委託だけでは運用は困難です。開館当初より市民ボランティアが直接運用に携わるようになったことが極めて重要だと考えます。
環境ボランティアへの研修会
IPMメンテナンス:収蔵庫の清掃活動
ーそれは何故でしょうか。
私の職務部門に限って申せば、これまで文化財の保存分野は特別な専門性が必要であると言われております。専門性=研究者や技術者だけでやらなければならないことになっていましたが、部分的には市民の支援を得られる部分もあるのではないだろうか。例えば社寺においては、大切なものは氏子や信徒の方々の寄進や清掃等により守ってきたのではないでしょうか。誰でも参加できる市民化への取組みが、九博の挑戦でもありました。現在では多くの市民ボランティアやNPOに支えられています。
ー大切なもの=文化財ですか。
「文化財は大切だ」とのキャッチフレーズは社会へ普及しています。「大切とは何か?」金銭的な尺度ではなく、人々が大切だと、又残したいと思った結果であり、それが文化財として認識されることになります。
ー大切なものを守るといった市民活動がIPM活動と連携したのですか。
九博は新しい博物館ですので、市民が主体的に積極的に関係づくりを実践するのに、IPMは取組み易かったのです。一般の方が参画できる分野として、展示室のトラップや温湿度計、定点観測が可能です。九博では、文化財がない時は収蔵庫の清掃(IPMメンテナンス)にも参加していただいています。
ー環境ボランティアの方々への支援はいかがでしょうか。
環境ボランティアの方々には、IPMに関するステップアッププログラムを準備し、研修会を開催しています。言わばIPMのカルチャースクールのようなものです。マニュアル整備もボランティアご自身で模索し、作成しています。ボランティア活動の延長線上でNPOが発足し、頼もしく感じています。
ー研修の継続性は重要なのですね。
研修や研究会へ参加の方々には、新しい事を知ることへの喜びや楽しさが生まれ、「やる気」につながっていると伺っております。文化財の保存活動は、私たちの身近な生活にも存在します。例えば家庭での目通し・風通し・虫干しなどがあります。研修や活動を通じて、生活に身近な発見や意外性の連続は、生涯学習の一つと言えるかもしれません。
ー今後の発展についてお話願います。
市民参加の要件には、「役割分担」と「協同」が重要だと考えます。館と市民ボランティアがお互いに尊重し合う関係が必要です。一般に博物館には収集・展示・保存・研究の4つの機能がありますが、これらを成り立たせる基盤には「交流」が必要です。博物館は多様な交流によって存在するのです。人は、文化財についての知識だけでは感動しません。感動をどのようにして体感するか、博物館の課題です。九博では環境ボランティアの方々がご自身で感動を維持できるようなIPMプログラムを模索し続けています。次の世代に、文化財を継承していくために、ものを見る目を養い、意識を高めることに努めていきたいと思います。IPM活動を通じて市民協同型ミュージアムの実現をさらに追求していきたいものです。
NPO法人の活動
ー本日は貴重なお時間とお話をいただきまして、ありがとうございました。
取材・文:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム
(2012年)
九州国立博物館
所在地:福岡県太宰府市石坂4-7-2
TEL:092-918-2807(代)
URL:http://www.kyuhaku.jp/