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話し手:荒木 弘訓さん(名古屋芸術大学大学院美術研究科美術学科日本画コース 教授)
※所属・部署は取材当時のものです
ー名古屋芸術大学美術学部のギャラリーに温湿度が管理された収蔵庫が設けられました。
導入経緯や特徴などのお話を伺います。
当学の元名誉教授であった故佐藤圀夫先生のご遺族より日展出展作品を中心に12点の寄贈を受けました。佐藤先生の日本画をきちんとした保存設備にて保管する為に整備する運びとなりました。
ー日本画の保存に関する留意点はございますか。
日本画は湿気を嫌い、取り扱いにはかなり注意しなければなりません。空気が乾燥すると紙を引っ張りますし、湿気によって材料のニカワにカビが発生します。そこで温湿度の管理が重要になります。
ー名古屋芸術大学では日本画を学ぶ学生さんはどの位いらっしゃいますか。
現在、日本画を学ぶ学生は120名程度がいます。日本画は絵具等の材料が高価で、一般店舗では取り扱っていないため、多くの学生が入学してから始めるという状況です。そのため入学後、基本となる技術をしっかりと身に付けてもらっています。
ー一般的な日本画の技法についてご教授願います。
日本画の基本は、写生です。自然物をしっかりと見つめ、描き写すことになります。日本画の制作では、まず下図に取りかかります。この工程が一番辛い、修正がきかないので何枚も何枚も書き抜く、半年から一年ぐらい掛かることもあります。また下図に重要なのが線です。線の描写が絵の善し悪しを決めるといっても過言ではありません。下図が整うと、最後の工程である絵具で描き始めます。その日本画の絵具は日本独特で、世界で一番高価と言われており、顔料の調合による色づくりは非常に難しいと言われています。
ー学生に対して、言い聞かせていることはなんでしようか。
学生には「出来栄えよりも、頑張ることが素晴らしい」と言っています。頑張ることへの機会を与えるために、学生には自由に描かせています。自由とは何か、自分が思っていることや本当に描きたいものは何かを自問自答し、必要に応じて私たち教員も一緒に悩みながら、自由に描くという創作活動にチャレンジさせています。昔は美大への入学前に塾に通い、下宿しながら大学を目指している時代がありましたが、同じ屋根の下では、極端に言えば画風が似てきて、系統化されていたようにも感じます。私は学生に「自由」を尊重することで、自分が思っていることを描く癖をつけ、大切なことを見失わず、カタチに変えられる人間になってほしいと思っています。確かに自分では見えない時もあります。まずは指示するのではなく、自分で見つけ出すことが大切だと思います。日展の審査の中で、ハッとすることがあります。作品を見て、「面白いなあ」って感じるのです。真似をしただけでは成長しません。自分で考え抜く力は、他の人をも圧倒します。
ー荒木先生も日展に多く入選されておりますが、日展という存在はいかがでしょうか。
多くの学生は日展(日本美術展覧会)や院展(日本美術院展覧会)等の公募展にチャレンジしています。公募展に参加することは、非常に重要です。公募展には提出期日があり、ある一定の期間で仕上げなければなりません。卒業制作の時期は、学生にとってその気持ちや意欲が最も燃えている時と言えます。切羽詰って全力で創作された作品は、愛知県美術館等で展覧会として展示されます。
ー最後になりますが、日本画の魅力についてお話を伺います。
日本画の魅力は、作り上げるまでに相当な時間がかかることです。言い換えれば、根気です。この根気が現代にとって大事ではないかと思います。先ほどお話した下図の段階や顔料の調合による色づくりは、すんなりとうまくいきません。そう言った創作へのもどかしさが、魅力なのかもしれないと感じています。
ー本日は貴重なお時間とお話をいただきまして、ありがとうございました。
荒木先生
荒木 弘訓「白い鳥」
(2012年)
名古屋芸術大学
所在地:愛知県北名古屋市徳重西沼65
TEL:0568-24-0325(代)
URL:http://www.nua.ac.jp