矢印アイコン

PAGE TOP

  • OTHERS

保管から「保存」へ

金剛株式会社

はじめに
 今回のパッション32の編集に当たり、図書館や博物館の実務の方々からの取材や寄稿文を通じて、「保存」の重要性を改めて感じることができた。図書館に当たっては郷土資料や学術資料、古文書等や、博物館に当たっては様々な材質の文化財に対して保存活動に労力が払われている。新たな保存の対象として注目されるであろう公文書、特に特定歴史公文書の取扱については、「保存」のノウハウを大いに応用できると考える。
 
公文書とは
 公文書とは①行政文書、②法人文書、③特定歴史公文書等のいずれかを意味する。(公文書管理法 第2条第8項)。一般に文書は作成、利用、保管、移管(保存、廃棄)といったライフサイクルを有し、官公庁や民間企業、病院等の各組織体において文書管理のルールが決まっている。利用及び保管に関して言えば、一般の書庫への保管とその文書の検索とロケーション管理で迅速に取り出しできることが求められてきた。ただし今回の特定歴史公文書等の永年保管になれば、「保存」的視点が重要になってくる。
 
保管から「保存」へ
 公文書もまた、貴重書や文化財と同様に唯一性を踏まえるならば、その「保存」については同様の対応が必要になってくると考える。また移管後、文書そのものをただちに廃棄するのではなく、「歴史資料として重要な公文書等」に該当するかどうかの判断が必要となる。何か「歴史資料として重要な公文書等」であるのか、主体的に判断し保存し利用の措置を講じていく必要がある。歴史資料として重要な公文書等を残すためにどうしたらいいのか。しかし、何かそれに該当するのかを判断するための考え方、基準といった「物差し」まで用意しているところは多くはない。歴史資料となるべき公文書の保存に向けて、具体的にどのように作業していったらよいのかについて、以下のような方法を考察する。
 
 
1.保管・保存へのルール決め

  • 保存基準の策定(期限のランク付け)
  • 基準に応じて資料を選別 
  • 目録整備(記録管理) 
  • 電子化(検索)
  • 出納管理&ロケーション管理
  • 受入体制(目視確認と必要に応じて燻蒸処理等の保存に必要な措置を施す)
  • レプリカの作成(利用閲覧用)
  • 職員教育

 
2.保管量及び人員計画の想定

  • 保管量と年間受入量の概算算出(ファイルメーターに換算)
  • 占有面積の算出
  • 出納頻度及び人員計画の算出

 
3.保管場所の特定

  • 既存の施設(保存設備を有している)→博物館・図書館・文書館
  • 既存の施設(保存設備を有していない)→庁舎・空き教室・公共施設の用途変更リノペーション
  • 新規の施設

 
4.考えられるリスク

  • 火災(消失)
  • 人災(盗難)
  • 震災(破損)
  • 生物劣化(虫害)
  • 化学劣化(光害や空気質環境)
  • 経年劣化(温湿度環境)

 
5.保存設備の検討

  •  (1)保存
  • 出入り口(扉・入退室管理・監視カメラ)【耐火性・防盗性・気密性】
  • 壁、内装 【耐火性・調湿性】
  • 保管什器、家具 【収納性・効率性】
  • 空調設備
  • 消防設備

 

  • (2)利用
  • 閲覧什器・家具
  • 検索用PC
  • (3)展示
  • 展示ケース
  • (4)管理
  •  近年の施設整備において、IPM的視点による環境問題や虫害対策の導入が図れている。
  •  九州国立博物館や国文学研究資料館では建設時からIPM活動を行われた。今後増えていくことであろう。

 
 6.予算の算出

  • 導入費用(イニシャルコスト)
  • 維持費用(ランニング&メンテナンスコスト)

 
 
 以上の項目を検討しながら、保存計画を立案していくことになる。  現在、全国的に耐震改修が行われており、その際に保存環境も考え直す機会だと思われる。保存計画の実践ステップは案外知られていないし、試みようとしても踏みとどまってしまうことも多くはなかろうか。また職員の異動に伴う保存計画業務の引き継ぎも複雑化すればするほど引き継ぎが満足できない傾向にある。今回、寄稿いただいた東京大学の小島先生の「戦略的保存」の考え方や、MLA(博物館・図書館・文書館)の専門機関として保存活動の取り組みや実践について国文学研究資料館の青木先生の話は興味深い。 
 
最後に
 これまでは施設整備時点の話が焦点になりやすいが、整備後もきちんとした環境保全が重要になる。日常管理である清掃や温湿度管理、害虫管理、公文書や資料の状態確認等のIPMメンテナンスも実践することになる。我々メーカーも、設備システム納入後の確実なメンテナンスやサービスをサポートできる体制を維持し、次世代への文化の継承に役立っていきたい。なお金剛はこれまでの「保存」の実績とノウハウを携えて、お客様に最適なソリューションプランを提案していく。
 
 文:木本 拓郎(金剛株式会社企画チーム)

(2012年)