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寄稿:西村 貴美さん(株式会社NTTドコモ法人営業本部 モバイルデザイン推進室)
図書館と弊社の関わりについて
弊社では早くから無線技術の一環として「RFID」に関する技術動向には深く関与しており、法人営業本部が行っているシステムインテグレーション事業においてもその強みを発揮している。2002年には経済産業省実証実験e!プロジェクトに参画し、未来型ライブラリを構築・運用してきた。これは、書棚に埋め込まれたアンテナが書籍のICタグを読み取り、書籍位置がPCまたは携帯電話からの検索により棚単位でリアルタイムに把握できるというものである。(参考文献1「センサー技術を活用した未来型ライブラリ」)このようなリアルタイム書籍位置管理は日本初であったといわれている。その後、この実績を活かし、I市立中央図書館においても、図書情報管理システムを導入し、実運用している。
ICタグとは
ここであらためて、RFID、ICタグについて少々解説を加えたい。RFIDとはRadio Frequency IDentficationの略で、電波(電磁波)を用いてタグに内蔵したメモリのデータを非接触で読み書きすること、もしくは読み書きできる情報媒体のことである。情報媒体自体の名称は、JIS(日本工業規格)ではRFタグとされているが、一般的にはICタグ、無線タグ、RFIDタグ等さまざまな呼び方をされている。図書館業界ではICタグと呼称されることが多いので以降、ICタグとする。
ICタグ内のデータを読み書きする方法、すなわち、ICタグとリーダ/ライタのアンテナ間の伝送方式に利用する周波数帯にはさまざまあり、使うものによって伝送距離や特徴が異なっている(表1)。また、ICタグに電源(電池)を搭載するかどうかという区分けも存在する。電池なしICタグをパッシブ型、電池付きをアクティブ型とよぶ。アクティブ型は数十メートルの交信が可能であり、ICタグ自ら情報処理や情報の発信ができる。パッシブ型はリーダ/ライタのアンテナからの電力供給を受けて動作するので、交信距離は数メートルで自ら情報処理や情報の発信はできない。
図書館におけるICタグの拡張性
図書館では、はやくから分類記号等を書籍に添付してきているが、これを一次元バーコードにしているところが多かった。これが、複数同時読取や、耐久性の面ですぐれているICタグに置き換わるという動向が2002年頃より起こってきている。(バーコードとICタグの違いについては表2を参照)
ICタグ化は、昨今の図書館に多くよせられる要望(図書購入費の削減・職員数の見直し・開館時間の延長・インターネット予約等)に、効率的に答えていこうということに端を発している。また、図書館整備は目に見える住民サービスであるので、市町村合併などを機に強化しようという動きも加わった。現在ICタグを導入している公立図書館の数は2005年9月時点、日本図書館協会の把握で50館程度であり、その後も増加傾向にある。
図書館でのICタグの利用目的は、貸し出し処理の自動化・迅速化、セキュリティゲート方式による盗難防止、蔵書点検の簡略化・自動化、検索図書のサーチである。ICタグ導入効果は、カウンターの自動化、貸出・返却が一括処理できることによる稼動削減、盗難防止ゲートにより紛失件数が9割抑制、蔵書点検稼動の削減、開館日の増加、などである。
図書館ICタグの今後の動向
ICタグの活用は、まだまだ新しい分野であることから、経済産業省が業界ごとにいくつかの実験を行っている。出版業界については、2003年度に日本出版インフラセンター(JPO)が中心となり、昭和図書と三省堂書店において実証実験を行った。(参考文献2)この中には図書館ワーキンググループもあり、公共図書館、大学図書館、出版流通関連企業が参加し、複数の公立図書館を実験会場として実験が行われた。この実証実験では、出版業界が書店での盗難防止のために飛距離のあるUHF帯のICタグを用いたいとしたため、UHF帯のEPCGeneration-2という512ビット規格のICタグが用いられ、本の製造過程より取り付けて実験が行われた。
他方、図書館では飛距離よりも一括処理とタグ単価に重点が置かれ既に13.56HZのタグを採用しているところが多い。今後、出版物にこの実証実験で提唱されたようなUHFタグが添付されるとタグが混在する可能性がおきてくる。また、図書館は既存の図書の管理もしていくため、製造過程からICタグが添付されたとしても既存図書に遡及的にタグを添付していかなくてはならない。さらに、今後図書館問での図書の流通は進むと思われるため、各図書館が独白のフォーマットで、特定の図書館の資料は特定のリーダでしか読み取れないという形では、ICタグの誤読は少ないというメリットはあるものの、情報の共有化・効率化はすすまない。これらの課題に対応するため、日本図書館協会は2005年秋「図書案におけるICタグのデータフォーマット標準化について」を発表した。(参考文献3)このフォーマットではUHF帯、13.56HZの両方に適用できる。今後は図書館の意見を取り入れながら、このフォーマットを基本とした標準化がすすみ、ICタグの導入はますます進んでいくものと思われる。
弊社の役割
弊社は、RFIDに関する今までの実績を活かし、今後も利用者の利便性の向上や図書館スタッフの稼動削減に貢献していきたいと考えている。
利用者の利便性向上の面では、現在複数の図書館に利用者カードを携帯電話に載せるということをご提案させていただいている。携帯電話のメーカやキャリアを問わず、利用者カードを携帯電話に載せることのできる仕組みである。利用者カードを忘れてしまっても気軽に図書館に立ち寄れるということになれば、ますます身近に感じてもらえるお役にたてるのではないかと思う。今後も未来の図書館のお役にたてるよう、知恵をしぼっていきたい。
参考文献1 多機能都市街区におけるマルチデバイス環境を活用した高度な情報提供サービス基盤の構築に関する調査研究 平成14年
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/rikatuyou/rikatuyou_e-pro_5.htm
参考文献2 出版業界における電子タグ実証実験に関する調査報告書
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/tag/book.pdf
参考文献3 図書館におけるICタグのデータフォーマット標準化について
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/ictag.pdf
(2007年)