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寄稿:西浦 直子さん(国立ハンセン病資料館 学芸員)
本年4月1日、一昨年より増改築・展示更新工事を続けていた高松宮記念ハンセン病資料館が、国家賠償請求訴訟後の国のハンセン病対策事業の一環として、国立ハンセン病資料館としてリニューアル・オープンした。国立療養所多磨全生園に隣接し、あふれる緑に囲まれた白亜の建物である。受付からプロムナードを抜け、2階へ上がると常設展示室・企画展示室・図書室が設置されている。1階は映像ホール、研修室、ロビー等のほか、3つの収蔵庫、作業室、学芸・事務室、その他バックヤードに力点を置いたつくりになっている(延床面積約4,282㎡)。特に、保存環境に配慮した収蔵庫が新たに設置されたことは、学芸員として嬉しい限りである。
映像ホール:語り部活動
収蔵庫
収蔵庫
収蔵庫
当館は今から14年前、1993年(平成5)に開館した。療養所入所者自身の手で全国15ヵ所の療養所や関係施設から資料を集め、多くの関係者を含めた方々からの寄付金をもとに建設された。そして入所者手作りの展示や語り部活動などによって、日本におけるハンセン病患者・回復者の歴史とハンセン病に関する理解を広めるための活動を行ってきた。
新しい常設展示は3つの展示室で構成されている。ハンセン病患者・回復者と政策の歴史を伝える「第1展示室・歴史展示」、不治の病と言われた時代の療養所生活を再現した「第2展示室・癩療養所・雑居部屋」、そして化学療法開発後を中心に、辛い中にあっても人生を価値あるものとするための回復者の活動等を展示した「第3展示室・生き抜いた証」である。第3展示室には証言コーナーも設置され、約40人の回復者、関係者の語りの映像も見られる。すべてのコーナーは、来館者か自らに「もしその場に自分が患者として、あるいは患者のそばにいる人間としてあったらどうするか」を問いかけることを目標として展示している。
第1展示室:歴史展示
第2展示室:癩診養所・雑居部屋ジオラマ
第3展示室:生き抜いた証
証言映像ブース
ハンセン病は慢性の感染症であり、現在、日本での新発生患者数は非常に少なくなっている。しかし古くより業病、天刑病等として患者は貶められ、また近代以降は恐ろしい伝染病という宣伝も重なり、強い偏見と差別にさらされてきた。そして隔離政策によって家族、故郷、それまでの生活をすべて失い、絶望と闘いながらの生活が長く続いたのである。らい予防法廃止、国賠訴訟勝訴と大きな変化を経て、盛んに啓発活動が行われるようになった現在も差別は根強く続き、家族や故郷から拒まれる孤独を生きる回復者が存在する。
2007年5月現在、日本のハンセン病療養所入所者の平均年齢は78歳を超え、新発生患者の減少と高齢化により回復者は加速度的に減少している。この人々の人生から学ぶ「苦しむ人の立場に立たない」ことの残酷さ、そうした中でも生き抜く強さを少しでも伝えていきたい。そして、今もさまざまな病気や障害等に苦しむ人々への共感を引き起こすことができる博物館であるために、博物館としての機能によって、人間の尊厳を問い続けるための活動を充実させていきたいと考えている。
外観
(2007年)
国立ハンセン病資料館
所在地:東京都東村山市青葉町4-1-13
TEL:042-396-2909
開館時間:9:30~16:30
入館料:無料
休館日:月曜日、国民の祝日の翌日 ※但し、月曜日が祝日の場合は開館
年末年始、館内整理日
URL:http://www.hansen-dis.jp