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図1:九州国立博物館の構造と位置
寄稿:今津 節生さん(九州国立博物館 学芸部博物館科学課 室長) ※所属・部署は取材当時のものです
博物館は文化財を公開・活用すると同時に長期間にわたって安全に保存するという重要な役割をもっている。収蔵庫は博物館の最も重要な施設である。正倉院に代表されるように、収蔵庫は木材の調湿作用を利用しながら機械設備に頼らない環境管理を目指している。
収蔵庫には国宝や重要文化財などの貴重な文化財が長期的に安全に保管されなければならない。九州国立博物館の収蔵庫は、万が一の時にも収蔵庫の温度や湿度を一定に保てるように工夫している。
九州国立博物館では、図1のように、チタンの屋根と免震装置に囲まれた巨大な空間に空気を環流させることで、展示室と収蔵庫が外壁や地面に触れることの無いように配慮している。収蔵庫を建物の中央に配置することとで、外部からの温湿度変化に影響されず、火災などの災害や盗難からも安全性を保っている。
空調設備は恒温恒湿仕様の空調機を採用し、設定した温湿度環境に近づけるように配慮している。また、空調機に設置したエアーワッシャー(循環する空気を水で洗う装置)や化学吸着フィルターによって、埃や酸アルカリガス、各種の室内汚染物質を除去しながら収蔵庫内の循環空気を清浄化させている。
収蔵庫はさらに空気層を設けた二重構造になっており、外部環境からの影響を極力受けない構造になっている。図2のように、収蔵庫内とコンクリートの外壁との間には60cm程の空気層を設け、断熱性と調湿性能を高めた内装材を境に収蔵庫内部と空気層をそれぞれ空調して温湿度を調整している。特に、内装材料は九州各地から運ばれた杉板と調湿材を壁と天井に使用して空調機械に頼らない環境作りを目指している。壁と天井に使用した杉板は酸性度が低く文化財に影響を与えにくい無節の白太材だけを使用している。このように白太の杉板材に囲まれた収蔵庫は、高い調湿作用と共に、杉材特有の柔らかさと人工成分を含まない安心感を与えている。
図2:収蔵庫壁の模式図
収蔵庫の安定性を推定するために、昨年7月に収蔵庫の空調運転停止実験を実施した。その結果、図3のように、完全に空調を停止した8日後の変化は温度が1℃の上昇、湿度は1%未満の変化であった。このように高い断熱性と調湿性によって、万が一、空調機が停止するような事態にも収蔵した文化財を安全に保つことができる。
図3:収蔵庫の空調停止実験
九州国立博物館では、この世界最高性能を誇る収蔵庫を一般の人々も見ることができるのも他にはない特徴である。図4のように、防犯扉と防火ガラス・強化ガラスで守られた窓から、収蔵庫の壁の構造や内部を見ることができる。
図4:収蔵庫の窓
図4:収蔵庫の窓
このように、九州国立博物館では、世界最高性能の収蔵庫を設置して文化財の保存を進める一方、安全と性能を維持しながら収蔵庫施設を公開している。
今津さん
(2006年)
九州国立博物館
所在地:福岡県太宰府市石坂4-7-2
TEL:092-918-2807(代)
URL:http://www.kyuhaku.jp