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寄稿:藤田 励夫さん(九州国立博物館 学芸部博物館課 保存修復室 室長)、志賀 智史さん(九州国立博物館 学芸部博物館課 保存修復室研究員) ※所属・部署は取材当時のものです
九州国立博物館には11部屋の収蔵庫がある。修復施設に付随した1部屋を除く10部屋の収蔵庫は2階中央部に互いに隣接して配置されており、その周囲には廊下が巡り、さらにその周囲に研究室等が配されていて外界との間に十分な隔たりを有している。
全ての収蔵庫は、収蔵品の材質に応じて個別の温湿度設定が可能である。収蔵庫の
壁面と天井は九州の4産地の杉材を用い、その選定には棚材と同様の配慮がなされている。
材料の調達
棚材の材料の調達は、他地域からの原木混入が無い特性の市場を選んだ。酸性成分含有量の少ない白太部分を中心とした材料を確保するために、樹齢60~80年の原木を使用し、各市場・製材加工・集成加工・2次加工・組立搬入工程をルート分別化し、材料の混入が起こらないようにした。材料は極力無垢材を使用したが、無垢材で大きな部材をとれば赤味や節が出てくるため、白太を中心とする集成材も使用した。桐箪笥については会津三島産(国産)のものを使用した。桐材は塗装などを行なわず白木を使用した。
材料の品質管理
棚材の品質管理については、棚を構成する部材の全てをチェックした。特に積層加工する際に隠蔽部となる箇所については専任の係員を配置した。仕上材でサンダー仕上げをしたものは目詰まりをおこしやすいため、機械による除去に加え現場にて木綿の雑巾でふきあげた。
棚に使用された接着剤については、揮発する化学物質を特定し、その揮発量低下に関する情報を得ることを目的として恒温恒湿実験を行った。棚に使用したのと同じ6種類の接着剤で、棚材と同じ材料を用い実験試料とした。接着直後の揮発性有機化合物として、一部の試料からアセトアルデヒドが、また全試料からトルエンが検出された。約1ヵ月経過後では、全ての化学物質濃度が定量下限値未満にまで低下していた。
棚の構造
棚の構造は、原則として木製棚を基本とし、重量のある文化財を収納する棚のみ金属棚を採用した。
10年前に発生した阪神淡路大震災以来、棚の扉・側板・背板を取り付けて落下防止対策とする傾向が強く見られたが、建物免震に加え木製棚を採用したことでこれらを極力排除し、原則として四周が開放された構造で棚板をスノコ状にした。棚板は摩擦を大きくするために横方向に渡した。棚足は15cmの足高とすることで床面の清掃が容易に行えるようにした。金属棚の棚板表面には地震の際に摩擦を生じて飛び出しを防止するために杉板を貼っている。以上により収蔵庫内の局所環境の保持にも大きな効果が期待され、IPMの一環としても意義のあることと考えられる。
材料の環境影響、構造、防災、使い勝手、局所環境、清掃のしやすさ等について総合的観点から調査をおこない、最終的には非常にシンプルな構造の収蔵庫棚となった。これらの収蔵庫棚は現在実際に使用されており、非常に使いやすいものとなっている。
※2005年5月14・15日に東京芸術大学で開催された文化財保存修復学会第27回大会研究発表のポスター発表「九州国立博物館設収蔵庫棚の研究」(藤田励夫・志賀智史・松川博一・有野克己・本田光子・鳥越俊行・森田稔・多田隈卓司・川村秀久)を加筆・修正し、転載した。(同要旨集140-141頁)
【原材料:スギ】
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スギ原木市場
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蒸気式人工乾燥
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モルダー(自動カンナ)加工
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積層接着加工
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棚組立工場
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収蔵棚の出荷前養生
【原材料:桐】
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伐採直後の桐
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天然乾燥アク抜き
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矯正(反り・曲りを取り除く)
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欠点(節等)の除去
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接着加工
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組立風景(木クギを使用)
(2006年)
九州国立博物館
所在地:福岡県太宰府市石坂4-7-2
TEL:092-918-2807(代)
URL:http://www.kyuhaku.jp