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話し手:工藤 巧さん(紫波町図書館 館長)、手塚 美希さん(紫波町図書館 主任司書) ※所属・役職は取材当時のものです。
—はじめに、紫波町図書館の概要と特長についてお尋ねします。
紫波町図書館は、官民複合施設「オガールプラザ」の情報交流館内にあります。
このオガールプラザは、行政と民間がパートナーを組んで事業を行う官民連携事業(PPP:Public Private Partnership)「オガールプロジェクト」の一環で建設されました。
オガールプロジェクトは、もともとは紫波中央駅前の都市開発を主な目的として計画された事業です。行政の財政負担が軽く、且つ地域の方のためになるPPPの形態を取って都市開発に取り組むことになりました。官民のヒアリングを丁寧に重ね、建設する施設の内容を詰めていく中で、かねてより町民の方から多く挙がっていたけれども財政的に実現が困難だった「市民で図書館を作りたい」という声もまた取り入れられ、このオガールプロジェクトの中核施設であるオガールプラザ(情報交流館と民間テナントの複合施設)の情報交流館内に紫波町図書館が建設されることになりました。オガールプラザの竣工は2012年6月、図書館の開館は同年8月末でした。
現在当館には開架4万冊、閉架3万冊の蔵書数があります。運営は町の直営で、一部の業務は地域のNPOに委託しています。紫波町職員から館長1名、事務局長1名、司書4名、そして業務委託しているNPOから司書5名の計11名の職員で運営しています。
—次に、図書館ができるまでの経緯をお聞きします。
まず紫波町教育委員会と、図書館をつくろう委員会が連携してヒアリングを重ね、『図書館基本構想・基本計画』が策定されました。その時点でオガールプラザ全体の建物は形になっていましたが、図書館にあたる施設の内部設計はまっさらな状態でした。次に、その『図書館基本構想・基本計画』をもとにしながら、紫波町公民連携室と設計事務所、外部アドバイザー※1、オガールプロジェクトのSPC(specific purpose company:特別目的会社)であるオガール紫波(株)にて打合せを重ね、より具体的な計画へ落とし込んでいきました。打合せは週に1回以上は行いましたし、他館の見学にも行きましたね。
最初に策定された『図書館基本構想・基本計画』において、7つのミッションが策定されていましたので、それらを運営方針へ落とし込み、3つのスローガンと3つの運営の柱にまとめました。 【図参照】そしてそれをもとに、ゾーニングや選書を進めていきました。
※1 外部アドバイザー:秋田県立図書館副館長 山崎 博樹氏、㈱アジール代表 佐藤 直樹氏
—図書館づくりの中で配慮した点はありますか。
まずは、上記のスローガンと運営方針に沿うことです。例えば 3つの運営の柱①の「子どもたち(0歳から高校生まで)と本をつなぐ」に沿って、0歳の赤ちゃんを連れたお母さんでも気兼ねなく入館できる図書館にするために、館の入口から奥へ向かうにつれて静かになるようなゾーニングを考えました。具体的には、入口近くに児童書架や「あかちゃんのへや」、その奥にティーンズ向け書籍のコーナー、さらにその奥に一般図書を…といった具合のゾーニングです。 3つの運営の柱②の地域資料については、収集前に実際に私自身も紫波町の風土・環境を見て回りました。そこで感じたのですが、紫波町は歴史がある町なのに意外と知られていないのです。それをもっと知ってもらうために、資料の収集方針にも反映させて地域資料を可能な限り多く集めるようにしました。 3つの運営の柱③の産業支援に関しては、館内に特設コーナーを設けています。とくに紫波町で盛んな農業に関しての資料を一箇所に集めて置いています。
また、地震対策も配慮した点です。ちょうど図書館の計画段階で東日本大震災が起きたこともあって、地震への対策を強く意識して書架を採用することにしました。
そして、利用者の方々に対して図書館の敷居を下げ、この図書館で出会った人と人、人と情報の間に生まれる「つながり」や「コミュニケーション」を大事にすることも配慮しました。これまで紫波町には教育委員会施設内の図書室(蔵書6万冊)しかなかったため、地域の方々にとって「図書館」というものに関する印象や先入観がほとんどゼロの状態でした。だからこそ、「図書館=誰でも入ることができる」という印象からスタートさせるチャンスでした。そのため「にぎわいのある図書館」というものを意識して、館内には飲食可能なスペースを作ったり、BGMを流したりと、できるだけ「誰でも入りやすい」と感じてもらえる雰囲気作りに努めました。開館後の利用者の方の反応としては、「カフェみたい」という意見を頂いたり、オーディオの不具合でBGMが止まった時には「音楽がないと逆に落ち着かない」というお声を頂いたりしましたので、雰囲気作りが効を奏しているのではと思います。いつかはレファレンスカウンターでもコーヒーを出しながら利用者の方の相談に乗る…というのが夢です(笑)。
また、人と情報、人と人との「つながり」の場にするという意味では、館内で月に1度行うイベントや企画展示も重要な手段であると意識しており、図書館単独ではなく他の団体・組織等と連携・コラボレーションした催しにしています。今は「わたしの一冊」という、紫波町内在住のものづくり職人の方が推薦する本と制作された作品を展示する企画を行っています。推薦された本だけでなく、推薦者が携わっている地元の伝統技術・産業も紹介することで、地域との「つながり」を創出する狙いがあります。こういった企画の準備の際には、職員自ら出かけて行って相手のお話を直接伺ったりもします。料金制のイベントと連携を行い、集まった料金の一部を図書購入費としていただいたこともあります。このような様々な企画を通じて、人と情報、人と人をつなげていきたいと考えています。そして当館に来て下さった方が、さらに多くの人へとその「つながり」を展開して下さればと願っています。
その他、オガールプラザ全体の『デザインガイドライン』もありますので、当館も運営をしていく中で色々な配慮をしています。館内のサインを少なくし、ポスターも貼りすぎないようにしており、そのかわりに図書館の利用に関して分かりにくそうにしている利用者の方がいれば職員が進んで声かけしてご案内する方針にしています。声かけに関連して言えば、来館者の皆様へ職員からすすんで挨拶をするという点も意識しています。これらもまた、図書館の敷居を低くすることにも繋がっているかと思います。
また、交流館に音楽スタジオがありますので、楽譜の収集・貸し出しなども行っていますよ。
—課題について伺います。
構想・計画段階での一番の課題は、それまで得た知識や経験が役に立たなかった点でした。図書館をゼロから建てるプロセスは全く知りませんでしたので…そのため、色々な方へのヒアリングを積み重ねたり、見学・視察を通じて図書館のイメージを膨らませたりしながら、具体的な形を作り上げてきました。
また、運営面において、まだまだ日常業務の定着が完全ではないという点が課題だと思います。企画やイベントにもっと力を入れたいのですが、そこまで至っていないというのが現状です。企画専門の部門がほしいくらいですが、人手も足りません。この点については交流館や外部団体・組織との連携を図っていきたいと思っています。
—今後の展望について教えて下さい。
やはりPPPによって設立されたという背景もあって、これからも人を集めて「にぎわい」を創出し続けながら、財政予算・コストパフォーマンスも同時に考えなければなりません。「志」と「算盤」のバランスを取りながら進めていくことが重要だと思います。
そして人を集めることで、色々な交流の場をつくり、この図書館から他の何かに繋がる場にしたいと考えています。実際に今、来館者の20%以上は町外からいらっしゃった方だというデータもあります。これからも「外へつながる図書館」でありたいですね。
さらには街づくりや、盛岡のベッドタウンである紫波町ならではの居住環境から一歩進めて「都市と農村を楽しむ」という新しいライフスタイルの創造にも貢献できればと思っています。統計でも、最も利用が多いのは30代・40代という結果が出ていますので、地域の方のライフスタイルに定着しつつある手ごたえは感じています。
そして、ここで過ごした時間・出会った人々・経験したイベントが、利用者の皆さんの人生に深く関わり、「ここに紫波町図書館があってよかった」と思ってもらえるような図書館にしていきたいです。
—本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 業務本部
原田 亜美 金剛株式会社 社長室
※取材当時
PHOTO GALLERY
入り口近くの児童書コーナー
地域資料
農業支援コーナー
飲み物を飲みながら本を読める閲覧スペース
飲食可能な「読書テラス」
企画展示「わたしの1冊」
地元の作家の作品を紹介
楽譜コーナー
工藤館長、手塚さん
紫波町図書館
所在地:岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前2丁目3-3 オガールプラザ中央棟 情報交流館内
開館時間:火〜金 10:00〜19:00、土・日・祝日 10:00〜18:00
休館日:毎週月曜日(祝日にあたるときは翌日)、館内整理日(月末さいごの平日)、特別整理期間(年7日以内)、年末年始(12月29日〜翌年の1月3日)
URL:http://lib.town.shiwa.iwate.jp