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プラザ図書館3Fカウンター
話し手:田中 榮博さん(くまもと森都心プラザ図書館 館長) ※所属・役職は取材当時のものです。
1.はじめに
日本人の代名詞として、「誠実さと時間に正確」という言葉が挙げられます。しかし、明治まで時代を遡ると、諸外国からの評価は、日本人は時間にだらしがないということが定評でした。当時の政府は、時間のことを認識させることを目的として、時の博覧会というイベントを行い、これが現在の「時の記念日」に変化してきました。
時が流れて、2020年東京オリンピック招致でのキーワードとなったのが、“お・も・て・な・し”という言葉でした。日本の「おもてなし」にいち早く注目したのが、ディスニーであるとも言われています。
さて、図書館と接遇。接遇という言葉を、図書館を運営している立場、利用している立場で、どのように感じているでしょうか。お客様が100人いれば、100通りの接遇があると言われるように、理解しているようで、実状が伴わない、言い換えればつかみどころがないのが接遇ではないでしょうか。2011年開館したくまもと森都心(しんとしん)プラザ図書館が取り組んできた接遇と図書館運営への取り組みについて、ご紹介いたします。
2.プラザ図書館の概要
開館日 | 2011年10月1日 |
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開館時間 | 月〜土 9:30〜20:00日、祝日 9:30〜18:00 |
蔵書数 | 約15万冊(’13.3.31現在) |
休館日 | 毎月第3水曜日、年末・年始、蔵書点検期間(5日間程度) |
面積等 | プラザ3階 1,644㎡、閲覧席125席4階 1,844㎡、閲覧席125席、学習室36席 |
その他 | ネット検索用、DB検索用PC 計16席、AV閲覧席10席 |
そして、特筆すべき事項として、図書館4階には、ビジネス支援センターが併設されています。センターには、中小企業診断士が定席し、お客様からの相談に応じています。また、創業支援室が7室あり、手厚い起業支援も行っています。
図書館とビジネス支援という点について、通常では図書館が相談を受けたものを、二次的にどの部署が担うのかがポイントとなりますが、プラザ図書館では、ビジネス支援センターと連携しているため、常時問題解決が可能となっており、このような形のビジネス支援は、全国的にも非常に珍しく、今注目を浴びつつあります。
なにかがみつかる
みんながつながる
ここからはじまる。
くまもと森都心プラザのコンセプトです。
2階 | 観光・郷土情報センター |
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3,4階 | プラザ図書館 |
4階 | ビジネス支援センター託児室 |
5階 | プラザホール |
6階 | 会議室 |
これらの組織を、「情報」というキーワードで繋げているのが、くまもと森都心プラザです。
3.プラザ図書館の方針
①貸出・返却型から問題解決型へ
プラザ図書館は、県内では初めての問題解決型の図書館です。館内の閲覧席のうち、約3分の2が調べもの可能な席となっています。
②利用者からお客様に
プラザ図書館では、来館される方を、“利用者”ではなく、“お客様”とお呼びしています。そして、目線は常にお客様目線で統一しており、書籍の排架においても分類順ではなく、お客様の動線を考え書架を配置しています。
③待受け型から回遊型に
図書館スタッフは、カウンターに座っているだけではなく、フロアを回り、積極的にお客様と接点を持っています。
④図書館運用から図書館経営へ
業務上の無駄をチェックし、業務効率向上を図っています。知識よりも知恵を出し合うことが、これからの図書館を動かしていく上で、必要です。
⑤きちんとした接遇
来館いただいたお客様に対し、気持ちよく図書館をご利用いただくため、接遇研修を定期的に行っています。また、正しい情報の伝達は接遇の基礎であることから、情報の伝達は確実に行うことを実践しています。
⑥地域社会との協働
これからの図書館は、町づくりの中核を担う部署でなければならないと思います。町の賑わいを作るためには、地域に溶け込む必要があります。地域社会との一体感が必要条件であると考えます。
⑦高品質な読書空間の維持
図書だけでは良い読書空間は作ることができません。良い読書空間を作りだすには、図書館を利用するお客様の協力も重要な要素です。図書館スタッフとお客様が協力して、高品質な読書空間を作り上げているのも、プラザ図書館の特徴です。
プラザ図書館は、図書館員のための図書館ではありません。図書館を利用する人のための図書館なのです。しかし、決してお客様の言い分を通すということではありません。お客様のご意見を十分に伺ったうえで、プラザ図書館の方針をしっかり伝える。それがコミュニケーション力だと思うのです。コミュニケーション力こそが、これからの図書館司書の必須条件だと思うのです。
4.プラザ図書館の活動
プラザ図書館が行う企画は、おはなしかいなどの恒常的なもの、自主的に行うものを合わせて、年間150回以上に上ります。その中から、代表的なものを紹介いたします。
①おはなしかい
おはなしかいは、幼児対象のものと小学校低学年までを対象としたものを、それぞれ週一度行っており、毎回多くの人が集まり、最近では、参加する人たちの中から、コミュニティーが出来上がりつつあります。
②ビブリオバトル
ビブリオバトルやサイエンス・カフェは、プラザ図書館開館当初から積極的に行っています。今では、開催方法も市内図書館や大学との共同開催など、活動範囲も広がり始めました。
③市民グルーブとの協働活動
プラザ図書館では、「アートを図書館に」という事業を熊本に在住する芸術家の皆さんと共に展開しています。これは、芸術家の皆さんに対して、作品発表の場を提供しつつ、作品に関する書籍を、来館されたお客様にご覧いただくというもので、絵画、写真、彫刻など芸術家の個性あふれる作品と本のコラボレーションが、館内で憩いのスペースを創出しています。
このように、図書館と地域社会の協働活動から、新しい形の図書館サービスが生まれました。
5.図書館とビジネス支援
今、全国でも数多くの図書館が積極的にビジネス支援を展開していますが、図書館単独でのビジネス支援には限界があります。また、図書館とビジネス支援センターの設置場所の関係でも大きな影響が出るのではないでしょうか。図書館で“調べたこと”、センターで“教えられたこと”の確認が容易にできるかどうかが、ビジネス支援サービスの一番重要なことだと思うのです。
前述の通り、プラザのビジネス支援センターは、プラザ図書館4階に併設されており、“調べたこと・教えられたこと”が直ぐに確認できるという全国でも絶好のポジションであることから、近年、ビジネス支援センターが注目されつつあります。センターでは、年間約100回程度ビジネスセミナーを開催していますが、その中には、小中学生を対象としたジュニア・ビジネススクールも含まれています。ビジネス支援という言葉から、ともすれば、大人を想像しがちですが、プラザでは、将来を担っていく小中学生に対し、起業するということを、センターと図書館が協働で、“調べること・教えること”に取り組んでいます。
6.まとめ
くまもと森都心プラザは、開館1年後の平成24年11月には、来館数100万人を達成しました。そして、25年11月に200万人の来館数に達する予定であり、来館数の中で、7割近くを占めているのが図書館です。また、人口動態調査においても、熊本駅前では、25年度の調査での増加値は、前回調査時の1.5倍であったという結果となり、その要素は、新幹線の開業と、くまもと森都心プラザ効果であることが明らかになりました。
これらの数値が物語るように、これからの図書館は、従来からの図書館機能のみではなく、町の賑わい作り、地域の活性化、市民にとってのコニュニケーション作りの場となる必要があります。その中核になる人こそ、図書館司書でなければなりません。図書館だけの司書ではなく、町の顔、町の案内人としての司書である必要性が求められているのです。それこそが、新しい時代の図書館ではないでしょうか。新しい時代の図書館機能を担うためには、停滞した図書館ではなく、常に躍動する図書館作りを目指さなければなりません。くまもと森都心プラザ図書館は、これからも町の中核としての図書館作りを推進し、“くまもとブランド”の定着を大胆にそして着実に浸透させるため、プラザ図書館の接遇への取組みは、動き出したばかりです。
—本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 業務本部
原田 亜美 金剛株式会社 社長室
※取材当時
PHOTO GALLERY
くまもと森都心プラザ全景
おはなしかい
ビブリオバトル風景
アートを図書館に
ビジネス支援セミナーの風景
こどもまつり
くまもと森都心プラザ図書館
所在地:熊本市西区春日1丁目14-1
開館時間:月曜〜土曜 9:30〜20:00、日曜・祝日 9:30〜18:00
休館日:毎月第3水曜日、年末・年始、蔵書点検期間(5日間程度)
URL:http://stsplaza.jp/