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寄稿:鈴木 琢郎さん(宮城県公文書館 専門調査員) ※所属・役職は取材当時のものです。
明治時代、日本は文明開化や近代化を進めていました。「この時代に活躍した女性は誰でしょう。」と問われれば、以前は多くの人が「津田梅子」と答えました。しかし今はどうでしょうか。2013年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公、「新島八重」と答える人が多いのではないでしょうか。
新島襄と八重夫人
ドラマをご覧の方はご存知のことと思いますが、八重は新島襄と結婚して新島姓を名乗ります。福島県の会津に生まれた彼女は、スペンサー銃を持ち戊辰戦争を戦い、戦後は夫の同志社の運営に助力し、夫の死後は日本赤十字社の社員として看護婦の職に就くなど、波乱万丈の人生を送りました。今回はこの夫婦にスポットを当てて、宮城県での足跡をたどってみたいと思います。
先ずは宮城に旅立つ前に、京都の新島邸の中から「宮城」を探して見ましょう。新島邸には八重の茶室「寂中庵」があります。その茶室の中に一つの拓本が屏風の形で飾られています。その拓本とは「壺の碑」として有名な多賀城碑の拓本です。なぜ多賀城の拓本が八重の茶室にあるのでしょうか。新島襄が設立に関わった東華学校との関わりで当時の宮城県知事から送られたものではないか、という説があります。東華学校の「東華」は多賀城で没した万葉歌人、大伴家持の歌からきています。新島襄への贈物として多賀城碑の拓本を選ぶとは、何とも気が利いているではないでしょうか。裏千家の茶道を学んでいた八重も、この東北の古碑の拓本を見ながらお茶をたてていたのでしょう。
続いてはこの東華学校を頼りに、宮城と新島夫妻の足跡を探してみましょう。明治維新の後、仙台には多くの学校が設立されました。官立のものはもとより、東北学院大学の前身である仙台神学校、メジャーリーグで大活躍のダルビッシュ有投手の出身校である東北高校の前身の東北中学など、多くの学校が開設されています。東華学校もその一つで、設立当初は校名を宮城英学校といいました。
多賀城碑文と李樹廷の書の屏風(新島旧邸所蔵)
この宮城英学校は仙台藩出身で第二代日本銀行総裁となる富田鉄之助などが中心となって活動していた東華義会という教育振興団体を母体として設立されました。この宮城英学校の初代校長に就任したのが新島襄です。もちろん新島襄の活動の中心は京都ですから、彼が毎日校長室の椅子に座っていたわけではありません。今風にいえば非常勤校長といったところでしょう。
ここで一つの疑問が湧きます。なぜ新島襄が校長に就任したのか、です。この答えは新島襄の日記『出遊記』の中にあります。新島襄はアメリカ周遊中にリウマチを療養しようとサナトリウムに滞在していたことがありました。その時の日記には東北に英学校を設立したいとの思いが記されています。当初は仙台にするか、福島にするのか迷っていたようですが、富田鉄之助などとの手紙のやり取りを繰り返し、最終的には仙台での開学に踏み切ったようです。つまり新島襄は宮城英学校開学の主唱者としての校長の任に就いたのです。
東華学校
明治20年6月、宮城英学校は校名を東華学校と改称し開校式が行われました。この時、新島襄は夫人の八重を従えて仙台にやってきています。一足先に京都を発っていた八重とは上野駅で待ち合わせて仙台に向かいました。途中、岩沼・名取の付近で大雨にあたり道路の冠水などの災難に遭いましたが、6月15日に夕方に仙台に到着します。17日には榴ヶ岡にある梅林旅館に宿を移し、その翌日に開校式に参列しています。
宮城県公文書館には、この時の学校設立に関する申請書が残されています。自筆ではありませんが、校長の名として「新島襄」と明記されています。ただしこの部分は申請書には不要だったようで、上に紙を貼って消しています。今とは異なり、紙と筆の世界です。一度記されたものは簡単に消すことはできません。ですが、おかげで「新島襄」の名が残りました。
宮城県公文書館は平成25年3月に新島夫妻の足跡残る榴ヶ岡から、仙台市郊外の泉区紫山に移転しました。新島襄が「有名ナル榴カ岡」と讃えた地からは遠く離れてしまいましたが、木々に囲まれた自然豊かな場所です。また、理想的な環境を維持することができる空調設備やガス消火設備を備え、貴重な歴史資料・行政資料を保管することができるようになりました。宮城英学校設立に燃えた新島襄の記録はこの新しい公文書館で大事に保管されていきます。
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宮城県公文書館
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