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話し手:堤 エリさん(福岡共同公文書館 文書班)、杉谷 紋羽さん(福岡共同公文書館 総務企画班) ※所属・役職は取材当時のものです。
ー本日は、全国初の県と市町村の共同で設置された福岡共同公文書館を訪問し、色々と運営についてお話を伺います。はじめに、館の概要と経緯についてお尋ねします。
杉谷 福岡共同公文書館(以下、当館)は、福岡県と県内の地方自治体(政令市である北九州市と福岡市を除く)が共同で設置・運営する公文書館で、全国で初めての取組みです。当館1階に総合案内をはじめ、閲覧室や展示室、休憩コーナー、作業室があり、2階には文書保存庫、マイクロフィルム保管庫、さらに一般利用が可能な会議室や研修室、3階に文書保存庫が設けられています。
当館では、文書保存庫が7つ設けられ、収納棚の総延長は26.4km、約88万冊以上の文書を所蔵する能力を有しています。
昭和61年から将来の公文書館設置を視野に、歴史的文書の選別を開始し、検討してきました。しかし、公文書館を単独建設することは、財政的に非常に厳しい状況でした。そこに平成の大合併があり、各市町村では、合併によって重要な文書が散逸してしまう可能性が懸念されたことなどから、平成18年、福岡県と市町村が協議・連携して、国内発の共同公文書館構想を打ち出しました。「共同」のメリットとしては、施設建設や運営の財政負担の軽減、適切な管理の実現、ワンストップサービスによる利便性の向上などが挙げられます。
平成24年11月に開館したばかりで、まだ1年も経っていませんが、着実に公文書の受入と利用を展開しています。
ーそれでは、運営についてお尋ねします。まずは、どのような組織体制になっていますか?
杉谷 当館は、福岡県の出先機関として、また福岡県自治振興組合の内部組織として、館長の下に総務企画班と文書班が配置されています。非常勤嘱託職員等を含めると、総勢17名で運営しています。
ー各自治体からの受入について伺います。
堤 公文書は評価選別基準に従って、各自治体で一次選別を行い、歴史公文書と判断されたものが、当館に移管されてきます。移管された公文書は、職員が簿冊を一冊ずつ確認し、内容の入力等を行い、選別をしていきます。
そのデータをもとに、館長と文書班の職員全員で選別会議を行い、最終的に公文書館に保存される公文書を決定します。
整理された公文書は、燻蒸処理後、文書保存庫に配架されます。公文書は、中性紙の箱に入れて保存し、バーコード管理にて、保存庫と棚と簿冊のロケーションを管理しています。
ー利用について伺います。
杉谷 公文書の利用では、移管元自治体からの行政利用申込と、研究者や個人の方からの一般利用請求により手続を行う方法があります。その後、利用請求審査を経て、請求者へ決定通知書を発行します。数ある公文書の中から利用目的に沿った内容を提供できるよう、利用者の方と話し、利用請求後は来館する際に決定通知書を御持参いただき、閲覧等することとなっています。基本的には、請求から15日以内に決定通知書を発行しています。
ちなみに、利用請求の場合、請求された公文書の内容を確認し、審査基準に従って審査を行いますが、個人情報等がある場合は、移管元自治体に意見照会を行い、当館で複写したものをマスキングしています。利用に関しては、自治体の借覧は可能ですが(30日以内)、一般の利用は閲覧と複写しかできません。
なお、文書保存庫へ返却する作業では、配架ミスを防止するために、2名体制で作業しています。
ー文書保存庫の保存環境について伺います。
堤 文書保存庫は、24時間の温湿度管理を行っています。ほとんどが紙資料であるため、温度について冬は22℃、夏は25℃とし、湿度は55%に設定されています。簿冊は、中性紙保存箱に収納され、棚は免震機能を有した集密棚を導入し、火災対策としてはガス消火設備を有しています。
虫菌害対策としては、受入時の燻蒸処理だけではなく、文書保存庫へ入室する際は、出入口に粘着マットを敷き、靴の履き替えも行っています。
ーまだ1年未満の運営ではありますが、課題について伺います。
杉谷 来館者の方から「公文書館って何?」と言われることがあり、県民や近隣住民の方々の認知度は、非常に低いと感じています。各自治体においては、文書担当者しか認知がないかもしれません。私自身、広報も担当していますので、公文書館が何のための施設なのかを普及していくために、たくさんの課題があります。
それから当館の職員構成として、アーキビストと呼ばれるような正規の専門職員がいません。職員は、行政職であるため異動が伴います。開館時の職員マニュアルは、館全体で周知されていますが、実務を通じて分かった事務分担の追加・修正・見直しなど、細かな点を積み重ねながら、後任の職員へ業務をスムーズに引き継げるようなマニュアルのバージョンアップをしていかなければならないと思います。
堤 資料文化財等の分野で進展しているIPM、薬剤に頼りすぎない保存活動を実務的にどう取入れていくのかも課題として挙げられます。移管されてくる文書は、自治体ごとに保存状態にバラツキがあり、年代によって紙質の経年劣化やカビの影響も見受けられます。文書保存庫への配架入庫時に燻蒸処理していますが、保存・管理の具体的なルール作りについて課題として挙げられるかもしれません。
ーデジタル・アーカイブスについて、いかがでしょうか。
杉谷 資料の利用普及を進めるため、デジタル・アーカイブスに取り組んでおり、マイクロフィルム化、デジタルデータ化については、推進していきたいと考えています。デジタル・アーカイブスについては、まだ取掛かったばかりであり、今後は活動を通じて、資料やノウハウを蓄積していきたいです。
ー最後に展望について伺います。
堤 当館の運営はまだ1年も経っておらず、始まったばかりです。受入・保存・管理等の態勢の確立に向けて、スキルアップを行っていきたいと思います。具体的には、文書を見る目や技術、知識の蓄積、人材の育成・強化などが挙げられると思います。
杉谷 課題として挙げた、広報担当として認知の向上を推し進めていきたいと思います。公文書館というと敷居がものすごく高いと思われがちですが、当館は一般利用も可能な展示室や会議室・研修室も備わっています。企画展示においては、開館特別記念展として、「公文書にみる福岡140年のあゆみ〜福岡県の誕生と市町村合併〜」と題し、明治期以降の福岡県や市町村の誕生、合併などを紹介し、現在(平成25年9月時点)は、「公文書でひもとく福岡県の石炭産業〜山本作兵衛作品とともに〜」と題し、福岡県内の石炭産業を取り上げて、情報発信をしています。難しい公文書が多いなか、県民の方々に関心を持ってもらえる工夫、講演会や講座を開催し、多くの方々との接点づくりが重要だと考えています。開催告知については、色々と創意工夫をしていきたいです。
当館では、まだまだ今後取組むべき課題が山積みしていますが、1つずつ解決していきたいと思います。
−本日は、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
取材・文:木本 拓郎(金剛株式会社 業務本部)
原田 亜美(金剛株式会社 社長室)
PHOTO GALLERY
堤さん、杉谷さん
福岡共同公文書館
所在地:福岡県筑紫野市上古賀1-3-1
開館時間:午前9時 〜 午後5時(資料の利用請求・複写申込は午後4時30分まで)
休館日:月曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日(その日が月曜日に当たるときは、その翌日)、年末年始(12月28日から1月4日まで)、特別整理期間として館長が別に定める期間
URL:http://kobunsyokan.pref.fukuoka.lg.jp/