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話し手:奥山 典子さん(村山市立図書館 業務主査) ※所属・役職は取材当時のものです。
ー村山市立図書館の概要と建設経緯についてお話を伺います。
JR村山駅近くに、複合施設「甑葉プラザ」の中核として図書館がオープンしました。収蔵可能冊数は15万冊で、現在は9万冊の所蔵です。村山市には、大正9年から続く図書館があり、地元で親しまれてきましたが、老朽化のため新しい図書館が要望されていました。平成14年度には、市民や有識者による図書館構想検討委員会が発足、具体的な検討がキックオフとなりました。平成17年には、行政内部にも複合施設プロジェクトチームが置かれ、平成19年に公開プロポーザルで設計者が決定しました。基本設計が提示されてから、市民や小中学生との話しあいが何度も重ねられ、その都度設計者が出席し意見交換を重ねた結果、重要な設計変更やワンフロア化が実現していきます。また、構想段階から話し合いの場には、必ず図書館職員も参加させていただき、行政内部や外部の方々から図書館への理解が深められたことは、とてもありがたいことでした。
更には、複合施設コンセプト「交流と学習によるにぎわいの創造」が掲げられ、市長のリーダーシップと市民、行政との協働により平成22年5月に開館しました。
開架エリア
ー図書館づくりに老えたことはなにかありますか。
構想の初期段階から、図書資料全てにICタグを貼付管理する方針を打ち出しました。従来、貴重な郷土資料は紛失を怖れ、閉架で保管管理していました。ICを導入すれば、貴重な資料も全て、利用者が直接手に取ることが出来るようになります。またセルフ貸出機導入でプライバシーが守られ、BDSで無断持ち出し防止もできるなど、多くの派生効果があると思ったからです。
また、これまで図書館を利用したことがなかった方々へのPRと、より親しまれる図書館づくりのため、従来にない様々なイベントや仕組みを考えました。
ーイベントや仕組みとは、具体的にはどんなものですか?
代表的なものをご紹介すると、1つ目が「図書館からの贈り物事業」です。
村山市では国民読書年に図書館がオープンしたことを記念して、小学校入学と中学校入学時の2 回、希望する本を贈呈する事業を始めました。小学生は「はじめの1 冊」、中学生には「飛躍の1 冊」と名付け、希望する本をプレゼン卜しています。他の図書館ではブックスタート事業が行われていますが、村山市では、自らの力で読める対象者に、自ら選んだ本を贈ることに重要性を感じています。
更にこの贈りもの事業には、赤ちゃんを授かったお母さんがおなかのわが子に、「世界で1 冊しかない絵本」を手作りする、「プレママの絵本づくり教室」もあり、誕生、入学という節目を飾っています。
図書館からの贈り物「はじめの1冊」
「プレママの絵本作り教室」
2つ目は、「甑葉プラザ応援団」の立ち上げです。図書館のすぐ近くに商店街があり、主旨に賛同してくださる店舗と図書館、甑葉プラザのまちづくり推進室とが連携し、図書館利用者カードを提示するとお得なサービスが受けられる仕組みを構築しました。図書館の登録者数を増やすことが第一の目的でしたが、利用者カードにステイタス性が生まれ価値が高まりました。加盟店は年々増え、商店街には新たなお客様が訪れ、活性化に一役買っています。
3つ目は、「夜の図書館」です。春夏秋冬の各シーズンに1度、土曜日の21 時30分まで開館を延長して行っています。閲覧席以外の館内照明を落とし、書架照明だけという大人のピターなシーンを演出しました。この時だけ館内はオープンカフェになり、飲み物をはじめ、職員手作りのお菓子もチャリティで提供しています。夜の図書館を待ちわびているファンが、たくさんいるんです。
4つ目に「貸し切り図書館」です。近くの小学校から、学年で自由に利用したいんだけど、何とか出来ないかとの相談があったことがきっかけで、貸し切りサービスをスタートしました。平日の閉館後の2時間程度、親子で自由に来館し、読書を楽しんでもらいます。学年ごとの貸し切りなので、お友達と逢える楽しみもあると大変好評で、春明と継続的に実施しています。貸切は夜だけでなく、開館前の朝の貸切や、企業の社員教育やこども会、友達のサークル貸切などにも刺用を広げ、合わせて上手な図書館の活用法ガイダンスも行いたいと、市報にも積極的にアピールし利用を募っています。
ー今回のテーマでは、「感動できる利用者サービスの工夫」を挙げています。
何といっても、贈り物事業で本を受け取る子どもたちの表情です。教育長から一人一人本を受け取る際、はちきれんばかりの笑顔と、心からのお礼の言葉が聞かれるんです。「ありがとう、一生の宝物にします! 」 そんな子供たちの一言一言には力があり、見ているこちらも感動でウルウルしてしまいます。また、プレママの絵本づくりでは、これから生まれてくる赤ちゃんへの思いが形となったママたちの笑顔には、内面から光り輝くようなキラキラした美しさを感じます。最近は、夫婦二人の絵本合作もあり、微笑ましく感じています。
「人が楽しみ、何かを得る。」人が感性を磨き、ステップアップに繋がるきっかけを提供する場が図書館であり、本は世代をつなげる力を持っていると確信しています。また、様々なイベントは図書館職員や、開館前からバックアップしてくれたサポーターさんと協働で行っています。職員の前向きな姿勢、意欲、そして図書館サポーターとのいい関係のおかげだと思います。
ー最後に、今後の活動について展望を伺います。
総務省が全国の自治体の先進的な取組を紹介する2011年度「市町村の活性化施策77事例」に、村山市の「読書シティ宣言」プロジェクトが選ばれました。村山市は全市をあげて読書に取り組もうとする「読書シティむらやま」 宣言を打ち出し、イベント活動や仕組み作りを行っています。「全国読書川柳コンクール」創設も、その1つです。最近では家読(うちどく)のススメと言われていますが、結果的に街読(まちどく)へ発展できればと考えています。様々なイベントを通じて市民の皆さんに、本が身近にある生活って、ステキ!と感じてほしいですね。図書館はおもしろい、使い倒しちゃおう!と感じてもらえるように、今後も積極的にチャレンジしていきたいですね。
閲覧コーナー
閲覧コーナー
ー本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム
※取材当時
村山市立図書館
所在地:山形県村山市楯岡五日町14−20
TEL:0237-55-2833
開館時間:火~金曜日 10:00~19:00 / 土日祝日 9:00〜17:00
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始、特別整理期間
URL:http://www.shoyo-plaza.jp/library/
設計監理:高宮眞介(計画・設計工房)+日総建