COMPANY
話し手:菅 和禎さん (学校法人明治大学 調達部施設課)、折戸 晶子さん(学校法人明治大学 学術・社会連携部 図書館総務事務室)、田中 義之さん(株式会社松田平田設計 総合設計室第三建築設計部 部長)、山﨑 敏幸さん(株式会社松田平田設計 総合設計室第三建築設計部 主管)
外観
ー平成24年5月に明治大学和泉図書館様(以下、和泉図書館)が開館し、運用がスタートしました。今回、図書館づくりに携わった様々な方々をお招きし、ここ和泉図書館にて対談形式で図書館づくりについてお話をお伺いします。
はじめに和泉図書館づくりに考えたことについて、各お立場での話をスタートしてみたいと思います。
菅 明治大学では大学創立130周年の記念事業の一つとして、老朽化した和泉図書館の建設計画を着手しました。当初は図書館の単強計画でしたが、正門近くの立地環境や動線アプローチの重要性を認識する一方で、不均一なアスファルト舗装仕上げや既存校舎との位置関係、うっそうとした樹木による視認性の悪さや暗さに課題もあり、大学の玄関口としてキャンパス全体の計画と捉え、解決を図りました。この図書館をきっかけに、学生の皆さんの記憶に残り、誇れ、キャンパスの原風景となる施設が完成したと思っています。
折戸 今回、学内には建設委員会が組織され、図書館職員もその事務局として携わることができました。築50年が経過し老朽化した上、学生の教育支援機能が時代の二一ズに合わなくなってきたことから、新図書館では、グループ学習機能やリテラシー教育をより充実させた滞在型図書館を目指し、コンセプトを立案しました。
山﨑 整備計画はプロポーザル方式で選定後、打合せを重ねていく中 、当初の条件と大幅に変更することになりました。当初の条件では旧図書館の一部を残し新図書館を建てる計画で、図書館の位置が限定されていましたが、キャンパス全体の最終形を視野に入れた「一括整備」手法が大学側より提示されたことから、正門からのアプローチや既存校舎との適正な隣棟間隔、キャンパス全体のランドスケープを考慮した図書館の配置計画が可能となりました。
田中 段階整備を一括で建替えるという計画条件の変更は、大学側にとって大きな決断だったと思います。その結果、既存図書館の代替施設として、工事期間中はプレハブでの図書館の運用が必要となりました。
折口 代替施設での図書館サービスについては、学生への不便が無いように、図書館内部で協議を重ね、無事運用を行うことができました。
菅 私たち施設課はよりよい施設を整備すると同時に、コストマネジメントを行います。移転・解体・ 建設といったトータルでコストを管理しなくてはなりません。但し、代替施設であっても学生への図書館サービスのレベルを落としたくはなかった。
折戸 図書館でもお金を掛けずにサービスを提供することをテーマに協議しました。例えば、段ボール箱を活用した書架を思いつき3段積みに配架しました。色々と工夫した結果、新しいアイディアが次々と生れてきました(笑)。
山崎 段ボール箱の書棚について、何段積めるか設計打合せで議題となりました(笑)。
集密書庫
新聞コーナー(1F)
ー図書館サービスの運営面はどうでしたか?
折戸 基本コンセプトとして、「人と人・人と情報を結ぶ*架け橋(リ工ゾン)*」を掲げました。和泉キャンパスの特性としては1・2年生が多く、教養課程を学びますので、入学後間もない学生にとって、図書館の敷居が高くなってしまってはいけません。気軽に入れて、みんなで利用してほしいと思っています。こういった中で、図書館サービスとして、初年次教育の必要住を強く感じていましたし、そこに力を入れています。
ー初年次教育とはどんなものでしょうか。
折戸 大学入学直後の学生に対して行う導入教育ですが、例えば、レポート作成の方法や文献の探し方・集め方を身に付けるための教膏などですね。これは、どんな授業でも必要となるもので、授業の一環として図書館職員が教えています。また、学生同士が討論したり、資料作成を行えるグループ学習の場も充実させ、導入教育の支援をしています。グローバルなコミュニケーションが要求される中、討議できる場が図書館にあります。一方で、従来からの静寂性を保つ場所も必要です。静寂と賑わい、この2つの要素を取り入れながら、どう区切っていくかがポイントだったと感じています。
田中 それぞれが評価する空間とは何か、具体的なイメージの共有化が重要でした。そのために、図書館担当者と施設課担当者、設計者の3者で多くの図書館を見学し、ゾーニング、空間をはじめ家具や照明等のインテリア、外装・内装の素材に至るまで細部にわたって、関係者で議論を重ねたことで、この図面館の方向性を見出すことができました。
菅 確かに、コンセプトを掲げながらそれを完成させるまでのプロセスでは40以上の大学・公共施設の見学が非常に参考になりました。その中で本学に合った図書館像を創りあげていきました。また、施設だけではなく、キャンパスの雰圃気についても見学する視点を置いたことも良かったと思います(笑)。
折戸 今まで図書館のゾー二ングや家具だけを見ていましたが、外壁についても関心を持ったことは面白かったですね。施設外観の重要性も認識が高まりました。特に印象に残ったことは、キャンパスの中での図書館の位置です。学生たちが日常的に通る動線に配置しなければならいと強く感じました。
菅 見学やヒアリングにより得た情報をレポートにまとめ、その図書館の「良い部分」「悪い部分」について分析し、みんなでその認識を共有化することが出来ました。結果的にはその分析と認識の共有化がその後の設計作業を進める上で非常に役立ちました。
山﨑 一般的に入ってみたくなるとか、心地良いとか言葉だけでは捉えにくい所もあります。見学や協議を通じた共通認識のお蔭で、建屋をガラス張りにする~「見える」~「興味の喚起」 といったハードウェアについての具体的な提案が行い易くなりました。
また図書館とは単に本を借りにくるだけではない「滞在型」だったり、グループの様々な活動ができる「ラーニング・コモンズ」 といったものの具現化に着手していきました。特に大学側からの要望で、「音のゾーニングの設カ噌案で設定」が懸念でした。遮音性のあるサッシやガラスの反響等の建築資材の選定に細部にまで考慮しました。フロア毎に、又奥に向かう毎にだんだんとグラデーションしながら「静けさが段階的に変化する空間ゾ一二ング」を実現しました。
菅 機能を重視する図書館職員とデザインを加味する設計事務所のバランスを取りながら、調整していくのは苦労しましたね(笑)。最近の良い図書館といわれるところは「アクティブ・ラ一二ング」をキーワードとして様々な試行錯誤が行われています。本施設の計画においてもその部分の語論が重要でした。
田中 関係者の中で共有化していった空間ゾーニングは、下層階では、交流空聞を中心にカジュアルさを感じさせ、上層階へ行くと落ち着きと個人の集中度のアップにつなげるような計画でした。設計側では、1・2Fはガラス張りの透明感、3Fはルーパーを設け、4Fは外部の緑の環境に親しみながら集中度を深めるオンとオフの変他を意識しました。
菅 その中で、課題となってきたのが、床面積に対し、膨大な蔵書量でした。そこで見学先の事例からヒントを得て、集密書架を積層に出来ないかという要望を設計者に依頼し、検討がはじまりました。その積層集密架の占める面積が大きかったため、どこにプランニングしたらよいか、設計者にも色々と検討してもらいました(笑)。
山﨑 積層集密書庫の空間性やデザイン性を考えると、当初はポジティブな空間構成要素とは考えていませんでしたが、これだけの量の本が置かれるスペースは他にないため、前面を吹抜にすることでその圧倒的な本の力を最も端的に表現できる場所になるのではないかと考えました。
田中 吹き抜けに面した6層分の積層集密書庫のショーケース化は、綺麗な表装の大型本、圧倒的な本のボリュームにより、学生へ知識への興味と欲求を高める「本の持つ力」を引き出しています。また、使われ方によって交流活動の場としても繋がっていきます。その例として先日、写真部がギャラリーとして活用していました。
折戸 この積層集密書庫は開架の扱いで、配架されている工リアには学生が自ら入っていけるのです。直接、本を手に取り、ブラウジングをしながら、判断することを重視しています。ですので近年、導入が増えている自動書庫計画は一切考えませんでした。やはり利用者への使い勝手を優先させたことが良かったと思います。
菅 集密書庫は一般的には閉架書庫ですが、図書館の方針や、見学に行ってみんなで議論したことから生まれた、新図書館への思いを踏まえ、開架書架としての積層集密書庫を実現できたと思います。
吹き抜け・ガラス張りの集密書庫の様子
共同閲覧室・コミュニケーションラウンジ(2F)
ーその他、ゾーンごとの空間性や音への配慮についてお聞かせください。
田中 これまでの6人掛けの閲覧テーブルは、2 ・3人が利用する度に1 つの椅子が荷物置場になり効率が悪くなっていました。今回、プライバシーを考慮した、使いたくなるキャレルができないかと様々な工夫をしました。
山﨑 利用者の視点を重視し、書架や家具や閲覧席など細かい配慮を行いました。閲覧席の衝立の高さや透明度までも、利用者の気分や雰囲気で場所を選べ、個人の占有度が選択できるようにしました。また書架配置を斜めにしたことが大きな特徴です。結果的に、利用者に本が近く、本が見えやすい計画となりました。
菅 平面形から生まれた斜めグリッドを構造計画やディティールにまで展開しました。書架や家具の形状、サッシュの方建や石割までも斜めグリッドとして計画全体を整合させていきました。その中で運用面において、本当にこれで問題がないのか協議を重ねました。
折戸 確かに、最初はひし形の建築プランの中で構造や書架配置は直行グリッドでしたね(笑)。書架を斜めに配置することは、国内で調べてみましたが、あまり事例がなく珍しいことでした。そこで事例となる図書館に、書架配置の使い勝手について、利用者の声、管理者の声を確認しました。
山﨑 確かに。通路から見た時に、本が目立ちますね。
折戸 他大学の見学者からも、「本が見える」という評判をいただき、あらためで本の力を実感した次第です。
開架エリア・閲覧席
館内フロア(2F)
ーさて、次のテーマとしては図書館づくりでの苦労点についてお話をお伺いします。
課題や3者のコンフリクトについてはどのようなものがありましたか?
田中 やはり一番の苦労点としては、冒頭でも話した整備手法の変更という大学側の大きな判断がポイントだと思います。
菅 そのことは、我々施設課及び図書館の担当者が学内を調整するのに大変でした。
折戸 お陰様で蔵書計画や各工リアの配置が要望通り叶って本当に助かりました。この他、図書館にとって照明や音の対策は、閲覧や学習環境において非常に重要な課題でした。
山﨑 設計期間が十分に取れたので、相違も協議できました。高速道路が隣接するという立地でしたが、遮音対策についても色々と検証することができました。
田中 音については外から、中から、学生の声やフローリングの音など色々な反響を検討しましたね。また光についても斜光や柔らかい光なども考慮し、実際にモックアップで反響音や照度などを再現することができました。
菅 閲覧空間の照度や光環境についても議論を重ねました。和泉図書面の書架、閲覧空間には天井に照明がありません。見学先の図書館をヒントにし、間接光をとりいれながら光源を直接見せない計画にこだわりました。特に3Fのルーパーからの間接光による閲覧空間は読書に最適な環境とすることができたと思います。
折戸 設計者からの説明だけでは理解できないところは、各建材やインテリアなどのモックアップの現物を見ながら確認できたことは良かったですね。図書館職員のほぼ全員が何かしらのモックアップを見学しています。百聞は一見にしかずと言われますが、説明+体感して認識を高めたことが非常に有意義でした。
ー最後になりますが、図書館を通じた期待についてお話を伺います。
山﨑 図書館の魅力を引き出し、魅力的であり続けるためには、学生の方たちに利用し続けていただくことが一番です。学生の利用を促すような様々な企画に対して、建築計画や空間デザインが柔軟に対応できることを期待しています。またキャンパス全体の外部空間も今回整備した部分からキャンパス全体へと展開してほしいと期待しています。
田中 この計画の当初、大学側から質問がありました。「図書館におけるデジタル化の進展で、本の存在は変わっていくのか?」と。私たちは、図書館における本の役割があると考えていました。それは、本のにおいを感じ、本に囲まれることで、知識欲を刺激するということ、その「本の力」を最大限に引き出し学生に刺激を与える、セレンディピティ*の高い空間づくりを目指しました。本に近い閲覧席、本が目に入る書架配置、そして、吹き抜けに面した積層集密書架などです。さらに、ラーニング・コモンズや交流空間を併せ持った、新しい大学図書館のプロトタイプができたと思います。
菅 我々はキャンパス整備の中で学生の学びの揚や活動の揚をつくったり整備したりしています。今回の図書館建設はその一つですが、その中でこれからの学生がどのように施設を利用していくのか、学生自身が建物の使い方を自由に考えアレンジして利用していってもらえたらと思います。そういうことがおそらくいつまでも学生に愛され続ける図書館になると思います。
折戸 今回の整備計画の狙いの一つに、学生の利用だけではなく、これから明治大学を目指す受験生への関心も期待しています。今、和泉図書館では充分な学習環境や活動環境が整備されました。施設に負けないような、利用者サービスを継続的に、かつ時代の流れと共に新しいサービスの拡大や発展につなげていきたいと思います。
ー本日は貴重なお時聞をいただきまして、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム
※取材当時
明治大学泉図書館
所在地:東京都杉並区永福1-9-1
開館時間:平日8:30~22:00 土曜日8:30~19:00 日曜日10:00~17:00
URL:http://www.lib.meiji.ac.jp/
設計監理:株式会社 松田平田設計