矢印アイコン

PAGE TOP

  • LIBRARY

利用者を熟知した「こころ」を打つサービス

国際日本文化研究センター

館内の様子

話し手:秋庭 公代さん(大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国際日本文化研究センター 情報管理施設資料課 課長)

ー国際日本文化研究センターの概要についてお伺いします。 
  
 国際日本文化研究センター(以下、日文研)は、大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の6機関のうちの1機関です。昭和62年(1987年)に創設し、今年5月に創設25周年を迎えた日本文化研究機関です。その研究は、単に日本という地域の文化研究を行うのではなく、「世界の中の日本」 、「アジアの中の日本」といった幅広い観点から日本を捉え、従来の学問領域の垣根を越えた発想を大切にしているという点に特徴があります。また、加えて世界の日本研究を支援することを重要な使命としています。 
 具体的な活動としては、次の4つが挙げられます。  
 1つ目は、共同研究です。国内外の大学等に所属する研究者が参加する共同研究会を主催し、特色のある様々な研究テーマに取り組んでいます。この共同研究は、一つのテーマにつき約3年の期間に行われます。平成24年度は19の研究課題について共同研究がなされ、これらの成果を発表する国際研究集会も随時間催されています。 
 2つ目は、外国人研究者の招聘と研究支援です。海外各地域から、日本研究者を公募し、年間15名ほど招きそれぞれのテーマにおける日本研究の進展を多面的に支援しています。  
 3つ目は、国際研究協力です。海外の日本研究者への支援のため、海外でのシンポジウムや「日本研究会」などの国際的研究協力活動を行っています。 
 4つ目は、教育事業です。総合研究大学院大学(博士後期課程)の文化科学研究科国際日本研究専攻が設置されています。国際日本研究専攻の大学院学生は、人文科学・社会科学・自然科学に渡る国際的・学術的な日本研究を行っており、日文研は優れた日本研究者の育成活動も行っています。 

カウンター

カウンター

館内の様子

館内の様子

館内の様子

館内の様子
  

ー図書館の役割についてお伺いします。 
  
 私たちの図書館では先程お話しした日文研の使命を果たすために、日本研究の研究者の研究活動や大学院教育活動に必要な研究資料や情報の提供を行っています。日本研究に必要な参考図書やそれぞれの研究テーマに墓本的に必要な「基本図書」に加えて、特徴的なコレクションを数多く所蔵し、収集しています。 
  
ー特徴的なコレクションとは何でしょうか? 
  
 創設時から収集している日文研の柱となるコレクションは、当センターで、「外書」と呼んでいる「外国語で書かれた日本研究書」(以下、外書)です。その他にも近世風俗資料(名所図会、艶本、妖怪絵巻、鯰絵等)、古地図や幕末明治期の古写真があります。日文研ではこれらのコレクションの電子化を設立当初から推し進め、現在では様々なデータベースが作成され、日文研のホームページから公開されています。多くの貴重な資料が公開されていますので、是非、ご覧ください。 
  
ーさて、2010年に「第二図書資料館(外書館)」(以下、外書館)が建築され続いて2012年に貴重書室が改修工事により増設されています。これらの新しい施設の整備計画に当たって配慮した点についてお伺いします。 
  
 蔵書数の増大で保存スペースの狭隘化が顕著となったことへの対策として、以前より外書館の建設を計画していました。その際、配慮したポイントは、①資料保存環境の整備、②省エネ、③地震対策、④利用者利便性の向上です。 
 まず、外書館についてお話しいたします。資料保存環境については、まず、温湿度管理があります。カビの発生しやすい環境であった1階には除湿装置を壁内に設置し、併せて各階書架を中心に温度湿度計を置き日々計測、記録しています。また、紫外線による資料の劣化を防ぐため、開架エリアの窓には紫外線防止シールを貼り、加えて紫外線防止仕様のレールカーテンも採用しました。他にも図書の倒れからくる資料のゆがみや傷みを防ぐために磁石式のブックエンドをこまめに置いています。  
 省エネの点では、照明に人感センサーを採用しています。  
 地震対策においては、電動集密書架を免震構造とし、書架の転倒を防ぐ仕様としました。 
利便性の面では、各階に無線LANを設置しインターネットへの接続環境を整えました。また、蔵書数とスペースを考慮し、多くの電動集密書架を導入していますが、安全バーに加えセンサー感知式とし、利用者が書架から退出したタイミングで自動的に書架の開口部の占有が解除されることで利便性の向上も付加できました。 
 次に貴重書室の増設についてお話いたします。新しい貴重書室は、1994年に建設された「図書資料館」の3階に位置しています。貴重書の電子化作業を行う「情報工房」を同じフロアに設置するプランに基づいた改修により従来の貴重書室に加えより広い「貴重書室2」を設けることができました。このことによって、今まで貴重書室に入りきらなかった貴重資料はすべて収めることができ、ほっとしています。新しく増設した貴重書室は、紫外線の出ない蛍光灯を採用し、地震対策として書架に落下防止用バーを設置、湿度管理として、壁面に湿度調整ボードを貼ることや書架の側板にパンチング孔を開けたものを採用しました。 
  
ー温度・湿度測定はどのように実施されているのですか? 
  
 開架エリアの各所にデジタル式の温度・湿度計を十数個配置しています。日々、職員が測定値を記録し、館内の温湿度をチェックしています。このデータを積み重ね今後の適切な資料保存環境の参考にしていきたいと思います。 
  

本棚に設置された温度・湿度計

温度・湿度計による計測と記録
 

磁石式ブックエンド

磁石式ブックエンドの活用

パンチング孔加工パネルの集蜜書架

集密書庫 パンチング孔加工パネル

  
ー本誌の今回のテーマとして「感動できる利用者サービスの工夫」を掲げています。どのようなサービスに取り組まれているのか、ご紹介願います。 
  
 感動できる利用者サービスというテーマを伺って、最初はとても華々しい特別なサービスのことかと思い戸惑ったのですが、これは、「利用者のこころを打つサービス」という意味と捉えられるのではないかと思います。言い換えれば「利用者を知っているサービス」です。
 日文研の図書館を訪れる研究者は、非常に広範囲かつ多岐に渡る研究テーマを持っています。日文研では、これらの利用者に対して、研究に必要な資料や求める情報をきめ細いコミュニケーションをもとに把握しサービスをしていくというこれは創設当初からの良き伝統があると思います。日本研究者及び日本研究者を志す利用者一人一人にそういった姿勢で臨むといった伝統を今後も生かしていけば、「感動できる利用者サービス」が見えてくるのだと思います。また、海外の日本研究者という「利用者を知る」ためには、世界の日本研究の状況、研究施設や日本資料の状況について知ることが大切です。日文研では、毎年、欧州で開催される日本資料専門家欧州協会総会(EAJRS)に研究者とともに図書館職員を派遣し、所蔵している日本研究資料の紹介や人的ネットワーク作りを行っています。こうした機会を通じて「利用者を知る」とともに「利用者に知ってもらう」努力をしていきたいと思います。 
  
ー最後に、今後の展望についてお話をお伺いします。 
  
 まずは日文研の特徴あるコレクションを一層充実させていきたいと思います。発展性としては、コレクション形成の中核である外書の資料収集について、ヨーロッパや北米の資料が充実していますが、より多言語を視野に入れ、東アジア地域の日本研究書の収集にも力を入れていきたいですね。また、コレクションをはじめとした資料の保存環境への取り組みも一層整えていきたいと思います。さらに、大学共同利用機関として、内外の日本研究者を支援するため、日本研究の研究支援拠点として日文研図書館の存在と資料についてより広くアピールし情報を発信してまいりたいと思います。 
    
ー本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
取材・執筆:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム

      ※取材当時 

大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国際日本文化研究センター
所在地:京都市西京区御陵大枝山町3-2
開館時間:月曜日~土曜日 9:00~17:00
休館日:日曜日・祝日・年末年始
URL:http://www.nichibun.ac.jp/