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寄稿:岡本 洋幸さん
(財団法人 九州経済調査協会事業開発部 主任研究員)
会員制ライブラリー「BIZCOLI」(読み方:ビズコリ)は、2012年4月に福岡市渡辺通にオープンした。 BIZCOLlは意欲的なビジネスパーソンが集い、新たなビジネスを育むことで企業や地域に貢献する「知の集積・交流・創造」拠点を目指している。「BIZCOLI」とはビジネス(BIZ) とコミュニケーション(COMMUNICATION)、そしてライブラリー(LlBRARY)の頭文字を組み合わせた造語である。
1. シンクタンク「九経調」が運営
BIZCOLIは、シンクタンク、財団法人九州経済調査協会(略称、九経調)が運営している図書館である。 九経調は昭和21年の設立以来、地域経済のデータや書籍を収集しており、それらを活用した会員向けの経済図書館を運営してきた。この経済図書館は、利用者が必要な情報を得ることに加え、職員がシンクタンクとしての専門的な立場から経済の疑問質問に答えてきた。
九経調は2012年4月、福岡市の大名から渡辺通の電気ビル「共創館」に移転した。共創館は2012年2月に竣工オフィスビルで、九州を代表する経済団体が入居している。経済団体の職員の利用や共同のイベント開催に加え、天神と博多の中間に位置する立地によって、九州全域から多くの来館が期待されている。
2. 「知の集積・交流・創造」拠点にむけて
経済図書館はインターネットの普及とともに、利用者が年々滅少していたこともあって、「共創館」への移転を機に名称やコンセプト、レイアウトを大幅に見直した。BIZCOLlはビジネスパーソンまでの交流と、その交流から生まれる人脈形成やアイディアの創出に力を入れている。コンセプトは九州における「知の集積・交流・創造」拠点であり、コンセプト実現のために以下の3つの機能を利用者に提供している。
①ビジネスの最新情報・アイデアの提供
BIZCOLlでは、書籍・映像、研究会等により、ビジネスに役立つ最新情報やアイデア・ヒントを提供している。業界の変化や収支モデルが分かる書籍、業界の最新動向が把握できる専門雑誌をそろえている。新聞・企業・人事データベースの「日経テレコン21」を導入し情報収集のスピードアップをはかり、ビジネススクールとの協力により企業経営やマーケティング関連書籍を充実させている。情報の鮮度を重視し、書籍は刊行後5年までのものを中心に開架している。書籍情報はどんなに新しくても、刊行されるまでに数カ月経過することもあって、自治体や企業の公開資料、新聞記事を展示し、ビジネスマンが最新の情報に触れることができるように工夫している。
アイデアの創出や思考を深めるしかけとして、ブックディレクター幅允孝氏の協力のもと「ビジネスパーソンが仕事の原点を考える」書籍コーナーを設け、発想法やデザイン関連の書籍をそろえた。九州の発展に向けて必ず知っておくべき基礎的な資料や書籍をならべており、九州経済の課題と方向性が一目でわかる「九州経済・発展戦略マップ」を展示している。また、地方企業や行政とのコラボにより、ユニークな地元企業の映像放映、デザインに優れた製品、古地図や絵画などを展示している。
②ビジネス人脈の形成
BIZCOLIでは利用者同士、利用者と当会研究員との人脈形成を促進するために、セミナー・交流会を1週間に1~2回開催している。シンクタンクとしての調査研究成果の発表に加え、企画力やビジネススキルの向上に役立つ「事業セミナー」、文化教養を修得するための「まちセミナー」をスタートさせた。その他、BIZCOLI以外の企業や団体のセミナーでも、コンセプトにフィットする内容であれば会場の提供や集客で協力している。さらに会員の興味あるテーマに基づいて、BIZCOLIスタッフが会員同士の交流促進に努めている。
③スキルアップのための個室空間の提供
近年、街中の力フエでは、ビジネスパーソンがパソコンを持ち込んで作業をしている姿をよく見かける。公共図書館は開館時間、立地など、多忙なビジネスパーソンにとっては利便性に欠け、知識習得や企画書作成等に集中できる空間もない。BIZCOLIでは15のブースを設け、静かに集中できる空間をつくっている。
3. レイアウトとサービス
交流ラウンジの窓は床から天井までガラス面になっており、光を取り入れる解放感のある空間となっている。また、壁は本の背表紙が壁画から数センチ飛び出しており、BIZCOLlの象徴的なデザインとなっている。ラウンジの中央にはパーカウンターを備え、イベント開催時にアルコールを提供することもできる。ラウンジは打合せや懇談だけでなく、イベント会場としても利用される。企画展示ゾーン(「知の回廊」) には天井まで続く書棚があり、映像放映や製品展示を行い、優れたデザインやアイデアにふれることで、みる者の感性を刺激している。
閲覧ゾーン(「知の森」)には書籍1万冊(別置きの閉架書庫に約19万冊を所蔵)とともに、1950年代に設計されたシンプルなデザインの椅子26脚がある。会員専用のミーティングルーム(24名収容)は、長さ約7メートルの巨大ホワイトボードがあり、勉強会やワークショップに利用されている。マイデスクゾーン(個室)には、人間工学に基づいて設計された高機能チェア15席が設置され、長時間の業務・仕事に集中できる。月単位で契約できるロッカーも準備している。
書架では、利用者が書籍を手に取っていただくための工夫をしている。スペースの許す限り書籍の表紙を見せる形で配架し、関連の新聞記事、図表、害奏、模型をあわせて並べ、利用者の好奇心を刺激している。また、ビジネスの緊張を弛緩するしかけとして、レゴなどの玩具、飛び出す絵本、図鑑、写真集をそろえており、交流ゾーンにはクラッシック音楽やJAZZが流れている。
BIZCOLlは賛助会員からの会費で運営されており、20歳以上のビジネスパーソンをターゲットにしている。当会賛助会員企業・団体に所属されている方は、平日10~18時までは無料で利用できる。18時以降の利用については、月額・個人4,000円の利用プランが用意されている。このほかに一般向けの利用プラン(月額・個人6,000円~)、 1日利用プラン(1日1,700円~)がある。なお、空間デザインや什器選定においては、地元デザイナーの協力を得た。
交流ラウンジ
交流ラウンジ壁面
知の回廊—企画展示
知の森:ビジネス情報閲覧
ミーティングルーム
マイデスクゾーン
4. 図書館の既存概念を超えて
オープンから半年が経過し、1ヵ月の利用者数は約800名と順調に増加している。イベント参加者や会議室利用者を加えると、毎月約1,000名が来館していることになる。
9月には、九経調のオフィス部分とあわせて日経ニューオフィス賞を受賞した。知の交涜拠点づくりにむけたソフト面での多様な取組みに加え、宮崎・新燃岳の火山灰を混合した煉瓦、佐賀・七山の和紙を利用した照明器具など、地元の素材や伝統工芸品を活用した内装や什器が評価された。
これからも、地域のビジネスや経済に密着した図書館を実現したいと考えており、今後、利用者向士が情報やノウハウを共有するコミュニテイの形成を目指すことにしている。同じ興昧を持ったグループや同様の資格取得を目指す人の集まりといった、多様なコミコニテイの形成によって、ビジネスの質を高めることに寄与したい。また、マーケティングの勉強会やビジネススクールの同窓会などの誘致を検討中である。
全国的にも、BIZCOLIと同様の機能を持つ施設は存在しておらず、図書館の既存概念にとらわれない、新たな知の拠点として挑戦を続けていく。
財団法人 九州経済調査協会 BIZCOLI
所在地:福岡市中央区渡辺通2-1-82 電気ビル「共創館」3階
TEL:092-721-4909
開館時間:10:00~22:00(土曜日10:00~18:00)
休館日:日曜日・祝日
URL:http://www.bizcoli.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/bizcoli