COMPANY
寄稿:成田 聖さん(奈良文化財研究所 飛鳥資料館 学芸室研究員)
私どもの飛鳥資料館は昭和50(1975)に開館した、奈良文化財研究所の博物館です。6世紀に飛鳥寺が建立されてから藤原京を経て、8世紀初頭に都が平城京へ移るまでの聞を飛鳥時代と呼んでいますが、この時代の飛鳥・藤原地域における奈良文化財研究所の研究成果を展示すること、そしてこの地域へ来られるお客様達のガイダンス施設としての役割を果たすことが当館の建てられた目的です。これまでに400万人以上のお客様がご来館され、その役割を十分に果たしてきました。
外観
しかし、当館は開館以来37年が経とうとしており、様々な問題が出てきています。老朽化に関るもの、社会のニーズや時代の変化、来館者の減少と高齢化など、問題は数え出したらきりがありません。そのどれもが深刻な問題で解決は一筋縄にはいきません。
そして当館は小さな博物館ですので、国や県の大きな博物館と比べると、どうしても人的にも予算的にも限りがあります。さらに僕自身も、一人で沢山の仕事があります。しかし、飛鳥には遠方からも沢山のお客さんがお越しになります。遠足で子供達が訪れます。何度も来ていただけるリピーターの方々がいます。こうした方々に少しでも喜んでいただくために、飛鳥で楽しく歴史に接してもらうために、どんな理由や困難があろうとも、良い博物館にしていかねばなりません。そして、「良い」という状態を長く維持していかなければなりません。一部のマニアや研究者にだけ好まれるような施設ではなく、子供から大人まで幅広く飛鳥の文化や歴史に楽しんで接していただき、この地域を研究する意義と成果を多くの人に知ってもらうような姿が当館の本質的なあり方だと思っています。こういった良い展示の根底には、もちろんそれを下支えする研究、展示公問、収蔵環境、何よりも働く人々の志が無ければ始まりません。ですが、素晴らしい展示はどうしたら創ることができるのでしようか。大きな博物館にしかできないのでしようか。僕はそんなことは無いと思っています。
僕が目をつけたのは、「これが普通、これが常識」という部分です。皆さんが考えている常識は本当に正しいものでしょうか。「これが当たり前・昔からこうやっているから」という部分に大きな落とし穴があると僕は思っています。それを決めた当時は意味があることだったのかもしれませんが、現在においてはさほど効果が無かったり、社会のニーズが変化していたり、極端な話で言えば、誰かが決めた最初の常識が間違えているかもしれません。小さな博物館で様々なことにお悩みの学芸の方、博物館に関る何らかかのお仕事やボランティアをされている方々、皆さんの苦労は、博物館業務に関る一人として十分にわかっています。毎日様々な工夫を凝らしていらっしゃると思いますが、あえて「常識」に挑んでみてはいかがでしょうか。何かがガラリと変わるかもしれません。閉塞的な現状の打開を求めるならぱ、これまでの常識に挑むぐらいの覚悟が必要だと思っています。そして、いつまでも「常識」に対して挑み続ける姿勢が必要だと思っています。
ダイナミックに常識や構造を改革する他にもやれることは沢山あると思います。僕も仕事で地方の小さな博物館に行くことが多いのですが、日本全国のどこも人・時間・お金が足りずに困っているのを目の当たりにしてきました。ですが、アレがないコレが無いから何もできない!と言っている間にもでさることは沢山あります。もちろんちょっとしたことです。館内の隅っこの埃をきれいにする、剥がれた壁紙に糊をつけて直す、展示物を見て首をかしげている人に解説してあげる、古くなった看板をパソコンで作り直してみる、休みの日に何かイベントを開いてみる。そうした、「ちょっとしたこと」の積み重ねが最後には大きな差になるのではないでしょうか。
そして心がけて欲しいのは、社会的に自分達の博物館がどう見られているか?と客観視することです。もし、自分が一般の人だったら自分の博物館に来るかな?家族・友人・恋人を自分の博物館に連れてこようと思うかな?自分が子供だったら遊びに来るかな?そうした客観性を踏まえると、いろんなことが見えてくるような気がしませんか?
また、組織内での仕事の進め方も気を配らねばなりません。仕事に関る人を多くすれば、作業人員・意見・アイディアは増えるでしょう。しかし、意見や好みがまとまらず、みんなの意見を取り入れるうちに、発案した段階での個性がだんだんと打ち消されて、果てには最初の意義が薄れ、これと言って特徴の無い平凡な仕事になってしまったご経験はないでしょうか。そうならないためには個人~少人数で思い切ってやる仕事、大人数で協力して成し遂げること、目的や仕事量などを勘案して、関るべき人数を判断しなければいけません。何でもかんでも1人で作業、逆に全てを皆で薄く作業というやり方では、必要以上の困難に出会ったり、いいアイディアを生かせなかったり、満足できる結果は生まれないと思います。個のメリット・組織のメリットの二つをうまく組み合わせるべきです。
仕事で遭遇する種々の問題の中には、一定の猶予期間を過ぎると、残念ながらどうにもならない手遅れという事態があります。そうならないためには、自分自身の仕事の優先順位がみえてくるはずです。何が何でも「今」やり遂げなければならないこと、逆に回りに迷惑をかけてでも延期しなければならない仕事、極論的には中止するという判断もありえると思っています。ダイナミックな発想と実行力、組織の使い方、仕事の優先順位の判断、日々のちょっとした工夫、一見するとあたりまえのようですが、これらの常識に挑んでみると、皆さんの博物館を取り巻く様々な環境が大きく変化するのではないでしょうか。改革を人任せ・政治任せにしてはいけません。まずは自分からです。
飛鳥資料館は昨年度から2~3年かけて大改装を進めています。僕はこの改装を単なる内装と展示のリニューアルという意味では捉えていません。無駄を省き、必要なところは予算をつけダイナミックに更新。他機関、民間企業、ボランティアとの新たな連携。速報性や柔軟性。何十年先を見通してやるべきこと・心がけるべきことは山のようにあります。そして、ソフト・ハード面での改革を成し遂げ、中小規模博物館の成功事例として全国に飛鳥資料館を紹介できるような、小さな博物館の☆にしたいと考えています。
当館は、さまざまな新たな試みに挑戦しています。飛鳥の地域や文化までをも巻き込むような変革へ挑戦したいと思っています。これらの改革を「改悪」ではなく、恒久的に続く「改良」にしなければなりません。飛鳥の今後に期待していてください。
重要文化財 山田寺東回廊
展覧会へ見学に来たこどもたち
写真コンテスト—入賞者へ「飛鳥資料館官位」の授与
須藤元気さん率いるWORLD ORDERとコラボした
「光の回廊2012-蘇る古の記憶-」
独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所 飛鳥資料館
所在地:奈良県高市郡明日香村奥山604
開館時間:9:00~16:30
休館日:毎週月曜日(祝日と重なれば火曜日)、12月26日~1月3日
URL: http://www.nabunken.go.jp/asuka/