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「土間と蔵」が作り出す空間に、自然光が活かされたミュージアム

株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ

話し手写真

話し手:井原 正揮さん(シニア アソシエイト)、磯谷 直昭さん

※所属・役職は取材当時のものです。
 

ー本日は、高志の国文学館を設計されました株式会社シーラ力ンスアンドアソシエイツへ訪問しました。設計された井原さんと磯谷さんへ高志の国文学館の施設づくりとそこで考えたことについてお話をお伺いします。 
  
井原 この計画は富山県の旧知事公館を改修し、県ゆかりの作品や作家の展示・収蔵・人々が気軽に集まることのできる場を有したミュージアム棟を増築することで、県の文学館としての再生を期待されていました。【写真A】私たちシーラ力ンスアンドアソシエイツ(以下、CAn)がプロポーザルで最優秀に選定され、この計画に携われたことは名誉なことです。 
 
文学館というミュージアム施設なので、基本的には様々な展示品や収蔵品が主役になります。それに加えて魅力的な環境も大切です。プロポーザル時に提示されていた要望やスペックを満たすように、意匠と収蔵保存環境および利用者の居住環境の機能の2つのバランスを考慮し設計を進めました。プロポーザルや打ち合わせでは一貫して「土聞と蔵」というコンセプ卜を用い、それに基づいた説明をすることで、イメージの共有を図りました。 
 「蔵」は、言葉の通り貴重な展示品や収蔵品を収納する蔵であり、独立した閉鎖的な空間です。「蔵」は全部で7つあります。それぞれの蔵に展示室、収蔵庫、荷解き室や学芸室、研修室などの機能や性格を与えながら分散配置させ、「蔵」そのものに空間バリエーションを与えることができました。展示の蔵を分散させることで、来館者が蔵を行き来するような動線計画とし、空閣のメリハリをつくることで、展示物の面白さがより感じ取れるように意識しました。 
  「土間」は、蔵と蔵との間を繋ぐ開放的な空間です。回遊性を持たせることで、建物全体に水平方向への奥行と広がりが生まれています。2つの異な高さの天井があり、自然光を高窓より取込むことで、空気感を感じ取れるようにしています。また、空気、熱や音などに対してして、外部からの緩衝領域としての性格を持たせています。【写真B】 
 
 

プロポーザル最優秀選定案

【写真A】プロポーザル最優秀選定案
 

蔵と土間のイメージ

【写真B】蔵と土間のイメージ

  
ー配慮したこと、新しく採用したこと、工夫したことはどんなことでしょうか。 
  
井原 まずは、ミュージアム施設なので光や温度湿置等の影響に十分に配慮しなければなりません。そこで、蔵の構造に壁式のコンクリー卜を採用しています。というのも、コンクリートは熱容量が多いために外的な環境変化に左右されにくい特性があるからです。また、庭園が眺望できるライブラリをはじめとした「土間」の構造では「蔵」の壁式コンクリートが「土間」の屋根を構成する鉄骨トラスを支えており、それにより、柱のない「土間」空間および片持ち13mの庇を実現しています。【写真C】 
 次に、新しく採用したごととして、外断熱工法を実施したことです。私たちCanは学校等の教育施設の設計を多く手掛けており、その設計では光や風等の外的な空気を積極的に取り込み、親自然的な環境を作ってきました。しかし、今回のようなミュージアム施設の場合、収蔵品保護および鑑賞環境の安定のために、外的な環境の遮断が要求されます。この二律背反の条件に対して、これまでの経験を踏まえ、パッケージングされた建物内に外的な環境をどう取り入れていくかがポイントでした。ミュージアム施設では特に自然光が敬遠されるため、発注者と共に検討を重ねました。結果として、高窓のある土間部の展示空間には光に弱い紙や書籍の展示を避けてパネル・モニターといった展示物を配置した上、窓には電動のブラインドを仕込み、建築空間の豊かさと展示空聞のスペックのバランスを取っています。また、庭園に面した長さ21mの壁を3mx7mの大きなベアガラス3枚で構成し、外部への視線の連続性や抜けを作っています。その大開口から眺める「万葉の庭」の、時間・天気・季節・歩く人々によって移り変わる風景や、様々な光の状態を感じることができ、外部環境を内部に取り込むことができたのでは無いかと思います。 
 工夫した点は、立地環境として周囲が住宅街に囲まれていることと南北どちらからもアプ口ーチできる必要があったことから、施設のファサード※1 を表、裏のない構成にしたことです。南側アプローチは、桜並木で知られる松川からの観光の立ち寄りを意識しています。庭でひと休み出来ることはもちろん、開館時はライブラリにも立ち寄れますし、無料ゾーンで休憩したり、北に通り抜けたりできるようにしています。反対の北側アプローチは、駅からの来訪や地域住民の立ち寄りを意識しています。そうなると、裏側に配置するべきパックヤードの外側からの見え方仁ついて、丁寧に検討する必要があります。内側でもパックヤードの動線が重ならないようにし、セキュリティに配慮して、収蔵庫を2Fへ配置することで、利用者が裏を感じ無いように工夫しています。 
磯谷 プロポーザルプランから、実施設計の骨格は大きく変わっていません。「蔵」と「土間」のコンセプトを基に、スペックの折り合いをつけるよう協議を重ねました。建物で使用している素材や意匠については、知事へのプレゼンテーションで、思い切った判断もいただきました。 
井原 知事の後押しもあり、県産材である杉材ルーパー、ガラス、アルミ鋳物、和紙を各所に取り入れています。特に、アルミ鋳物パネルは外壁や内壁に多く使用されています。アルミ鋳物パネルの表面は、和紙の様な背景の上に、ヤマボウシやイロハモミジ等の越中万葉の中に詠まれた植物の葉を散らし、文学館にふさわしい意匠を実現しています。これらのパネルは職人が1枚ずつ製作しているため、総数800校にも及ぶパネルは1枚として同じものはありません。製作の各プロセスにおいて試作品やモックアップを何度も作りながら仕様を決めていきました。【写真D】 
 
 

壁式コンクリート

【写真C】壁式コンクリート
 

1枚ごとに配置される植物

【写真D】1枚ごとに配置される植物

  
ー苦労したことは、どんなことでしょうか。 
  
井原 やはり、室内環境を安定させるためのスペックが高かったことです。その中で自然光を取り入れることについて、クライアントとどこに着地点を置くかということに苦労しました。 
 また、ミュージアム施設の場合、基本的な順路は一筆書きであることが多いのですが、この計画では蔵を左右に配置したことでシークエンス※2 は作りつつも決まった順路は作らないようにしています。その上で、どうやって管理運営していくかを建築的に対応しています。一般部の壁と統ーした管理用の扉や消火柱パネルのディテールの追求、常設展示スペースの出口に設置をした自動ドアへの床埋込エンジンの採用などにより、管理運営のために出て来ざるを得ない日常的なものを視線から極力排除し、抽象的な蔵のイメージを保持することで、非日常的な空聞を作っています。   
  
ー最後に、高志の国文学館への期待について伺います。 
  
井原 高志の国文学館は、単純な展示空間だけではない、研修室やレストラン、公園的なランドスケープを併設した複合施設です。文学に興味がある人はもちろん、興昧がない人でも、公園やレストランに行った際、ついでに文学に触れることで新たな発見ができる。そういったことを期待しています。文学館のためだけに来る人は元々文学に興味があるわけですから。1+1=2ではなく、3や4になるような色々なシナジー効果ができるといいですね。 
磯谷 文学館は美術館などと比較すると、まだまだ認知されていない施設でしょう。市街地にあり、公園や並木道に近い文学館なので、気軽に立ち寄れて、文学に馴染むことのできる存在であり続ける事を期待しています。 
  
 

コンセプトブック

コンセプトブック

ー本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
取材・文:木本 拓郎金剛株式会社 企画チーム
※取材当時 

株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ 名古屋オフィスCan
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