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話し手:小池 聖一さん(広島大学文書館 館長 ※所属・役職は取材当時のものです。
ーはじめに、広島大学文書館の位置づけについてお話を伺います。
広島大学文書館(以下、文書館)は、広島大学50年史編纂にて収集された様々な資料を整理・保存し、法人文書(公文書)の管理を念頭に、平成16年の国立大学法人化と同時に設置されました。組織としては公文書室と大学史資料室の二室体制で運営し、広島大学にゆかりの3つの特殊文庫も有しています。
文書館は、広島大学がその活動の過程で作成した記録・文書のうち、継続的価値を持つものを管理、保存し利用に供するとともに、広島大学に関係する史資料を収集・整理・公開し、研究に資している学内共同教育研究施設です。
平成23年(2011)年4月より公文書管理法に基づく内閣総理大臣の指定を受けて、国立公文書館同様に公文書の保存・公開を行うことになりました。
外観
ー広島大学における公文書とは?
文書館の取組み・活動についても詳しくお聞きしたいと思います。
文書館における公文書とは大学が作成する法人文書(法人化以前の行政文書も含む)であり、基本的に組織的に使用する政策文書です(組織共用文書)。
よく“歴史に学ぶ”と言いますが、行政機関、独立法人における政策立案の多くは、保存されている公文書に基づく先例を基盤に行われています。このなかで、保存年限を過ぎたものが、特定歴史公文書として文書館で保存・公開されます。この為には、まず、公文書を無暗に廃棄されないようにする仕組みを作る必要があります。文書館では大学の財務・総務室総務グループと密接に連携し、現用記録の段階から文書管理に関与して、現用記録から特定歴史公文書となるまでを統一的に管理するシステムを構築しています。現用記録にアクセスできることは、国立公文書館を始め、他の国立大学法人の政令指定機関とも異なる点であり、広島大学だけの特徴です。
また、文書館では、文書管理者等に対する研修を行うとともに、校友会との連携や、公文書の利用促進を図るために教養教育科目として「広島大学の歴史」を開講、今では約1000名の学生が受講する講義に成長させるなどしてきました。大学院でも文書管理企画演習を行い、年2回の学内展示や公開講座等も行っています。
東日本大震災では被災した古文書や公文書の救出・修復が大きな課題となりました。この度、文書館と広島県立文書館との間で「災害等の発生に伴う史・資料保護に関する相互協力協定書」を締結し、組織として対応する仕組みも作りました。国立大学法人としてはもちろん、地域としても、国内初であり、先駆的な事例になるものと期待しています。
大学史資料室
中性紙保存箱の扉を開く様子
保存箱の中身
ーこの度、公文書管理法でいうところの「国立公文書館等」として、政令指定機関に認定されましたが、今後、行政や大学法人への参考情報をご教示願います。
内閣府の公文書管理委員会によるガイドラインにそって整備してきたのですが、幾つかの課題も感じています。その1つが、現用記録の取り扱いです。私どもは文書館創設時から現場での経験を通じて、公文書管理の学内スキーム作り、現用記録→非現用化→特定歴史公文書といった流れを整備してきました。この流れは、今ある歴史学のために行うというより、今を未来に残し、未来の歴史学に寄与することだと考えています。この点が公文書管理委員会では閑却されているのでは、と考えています。実際、文書館では、1年・3年・5年・10年・30年と保存期限が設定されている現用記録が期限満了の際、評価選別を行い、廃棄簿の記録をチェックするとともに、作成担当者と総務グループ、文書館の三者で協議し、重要な記録・文書については、文書館へ移管し、特定歴史公文書として保存しています。その際、文書館長は、総括文書管理責任者とともに、文書の最終的な廃棄権限を有しています。
アメリカのアーキビスト・シュレンバークは、現場を熟知し、実態に即した形での公文書管理を行いました。私も“現場で、自らが考えて、行動を起す”ことを強く意識しています。だからこそ、私たちは現場意識をもって、限られた予算の中ではありますが、「今」を将来に残し続けています。これからの国立大学法人は、東大の真似をして「牛後」としてのグローバル化を追求するだけでなく、地域特性に根差した…ローカルな力をもって個性を発揮すべきだと考えています。その根幹に位置し、同時に先例等の蓄積により、業務効率をあげる組織として文書館が必要であると考えています。政令機関認定に当っては、学内の事務組織(業務組織)との連携による、いいチームを作れたことがポイントであったと考えています。
手紙や文書の仕分作業の様子
手紙や文書の仕分作業の様子
ー最後に、今後の展望についてお話を伺います。
公文書管理法はこれから5年かけて、見直されます。単に、直訳型の理想を強要するのではなく、それを利用しつつも、日本固有の文書文化に即し、現場の立場から、日本型の文書管理・文書保存を作りだしていく必要性があると考えています。公文書管理法の見直しは、公文書館法・国立公文書館法の改正とセットで行うべきだと思っています。
文書館としては、公文書室による特定歴史公文書の管理・保存を充実させるとともに、大学史資料室・特殊文庫を擁する学術的資料の充実を通じて、大学の個性化に寄与していきたいと考えています。同時に、文書館を外に開かれた組織とし、大学だけでなく、地域における教育研究基盤としての整備も続けていきたいと考えています。
ー本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
業務内容
■法人文書の選別・整理
公文書室は、広島大学が作成した法人文書について、その重要度に基づき評価・選別を行い、特定歴史公文書として保管・公開しています。
■大学関係資料の収集・整理
大学史資料室は、広島大学に関係する個人文書(学術的資料)や、広島大学の沿革に関する記録、大学史にかかわる公刊行物等を収集・保存・公開しています。
■利用者サービス
閲覧及びレファレンスサービスを行います。
■調査研究活動特殊文庫
「森戸辰男記念文庫」「平和学術文庫」「梶山季之文庫」を有し、広島大学に関連する学術的資料を多角的に収集・保存し、一般閲覧及び研究を推進しています。
■教育活動
自校史教育として広島大学において教養科目「広島大学の歴史」の講義や大学院での文書管理企画演習等を開講しています。また、公開講座や学内展示、各種研修を実施しています。
取材・文:木本 拓郎 金剛株式会社 企画チーム
広島大学文書館
所在地:東広島市鏡山1丁目11
TEL:082-424-6050(代)
開館時間:9:30〜16:30
休館日:土曜日・日曜日・年末年始
URL:https://www.hiroshima-u.ac.jp/archives