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日本人の心と知恵を伝える場
北九州市立小倉城庭園
福岡県北九州市。
JR小倉駅周辺の賑わいからほど近い場所に、北九州市立小倉城庭園は静かに佇んでいます。
ここには庭園はもちろんのこと、日本の伝統文化を発信する各種施設もあり、かつての日本の生活を知るための重要な拠点となっています。
小笠原氏の下屋敷と庭園を再現
小倉城庭園は、小倉城に隣接した場所にあります。
小倉藩主小笠原氏の下屋敷跡に、当時の建物及び庭園を、江戸時代の記録や現存する大名屋敷・庭園を参考にしながら再現したのがこの小倉城庭園なのです。
庭園内には、遺構をもとに再現された伝統的な日本建築を体験できる「書院ゾーン」、茶の湯などの教室やその他講座を行う「体験ゾーン」、そして礼法や日本文化に関する常設展示・企画展示を行う「展示ゾーン」があります。
江戸時代に小倉を治めた小笠原氏の一族は、弓馬術を代表とした武家の礼法である小笠原流礼法を伝える家でもあります。
そのような縁から、庭園内には全国でも珍しい『礼法』に関する常設展を行う施設が設けられました。
小倉城庭園 庭園ゾーン、書院ゾーン紹介ムービー
先人の知恵から生み出された礼法
礼法と聞くと、難しそうな印象を抱かれる方も多いのではないかと思いますが、実際はどうでしょうか。
小倉城庭園館長・藤家 和夫さんは
「礼法は、思いやりや敬いの気持ちを表現するための『型』であり、「『共通認識』として作られた」のだと言います。
『相手がこういった行動をしてきたということは、こういった気持ちの表れなのだ』ということが一目で分かるようにする“共通認識”こそが礼法だったのです。
そのように聞けば、礼法に対するイメージもやわらかいものになります。
さらに詳しく小倉城庭園学芸員・立畠 敦子さんに聞くと、
「『礼法』は一方で身分の違いから生じたことは否めません。しかしその礼法という目に見える共通認識があることで、身分の差がある者のあいだで不要な軋轢を起こさないようにするものとしても機能しました。」
とのこと。
身分の差や立場の違いがある者の間で、敬意・恭順または不敬・無礼などについての認識の違いや勘違いが起こらないように、挙措、進退、言語が様々に決められてきたのでした。
「現代においてはこの“軋轢の回避”がクローズアップされ、『礼法は人間関係の潤滑油のような存在』と考えられています」
と立畠さん。
人間関係の潤滑油と聞けば、礼法についてイメージもしやすくなります。
さらには、
「礼法は、対人関係の中での軋轢や衝突を減らすための先人の知恵とも言えます。現代のように価値観がますます多様化する社会の中では、より活きるものだと思います。」
と立畠さんは語ります。
礼法は『対人関係をスムーズにしたい』という先人たちの願いと、そのために絞った知恵の結晶だったのです。
さらにそれは現代の私たちにとっても、より円滑な人間関係構築のヒントにもなります。
礼法を後世へ伝えていく大きな意義はそこにあるのではないでしょうか。
知恵を市井の人々へ
その証ともいえる作品が、小倉城庭園の展示ゾーンに展示されている『小笠原流礼法伝書』という絵巻です。
これは、小倉藩士から礼法を伝授されたと称して、江戸初期に水島卜也(みずしまぼくや)という故実礼法家が伝えた礼法の内容を、江戸中期に書き記したものです。
『知恵』である礼法が、武家のみならず市井の人々にも広く必要とされたことを示す例ではないでしょうか。
礼法の根底を考えてもらう場に
それらを見た方々に「なぜ礼法があるのか」を考えてもらい、礼法の根底にある『相手を敬う心をもち、人と人との軋轢を減らす』という日本人の心や知恵を伝えて行く場でありたい、と立畠さんは語ります。
生活文化に関する企画展
現在の企画展は『子どもの晴れ着とちりめん細工』展。
子どもの成長を願う親心が託された晴れ着やちりめん細工を展示しています。
晴れ着に施された工夫から、当時の風習や生活についても知ることができます。
生活に密着した文化や習慣、およびその起源である人々の想いや知恵という、いわゆる民俗学的な資料については、人から人へと主に口頭で伝承されてきたため、現代には文献が殆ど残っていない場合が多いとのこと。
そのため、当時の生活やその知恵・工夫を知るには、物が唯一のたよりだそうです。
今回の展覧会も、着物の縫取り一つに、日本人が考える死生観や土着的信仰を知ることができる貴重な展覧会であると言えそうです。
体験型の施設として
書院ゾーンでも、日本建築についての職員による解説を行っており、当時の大名の暮らしを体験できるようになっています。
さらには伝統行事の再現も行っており、毎年桃の節句の前後には『加冠の儀』というかつての成人式を、小笠原流礼法の作法にのっとって行なっているとのこと。
今年は地元の新成人女性約20名が参加し、たいへん華やかな式になったそうです。
庭園ならではの苦労
建物以外にも庭園という屋外の施設を有するがゆえに、自然や天候の変化による被害などもあるそうです。そのため職員の方々が日ごろから見回りをしているとのこと。
昨年の春には市民に開放している無料開放地区の門が、折からの突風で傾いたこともあったそうです。
また、書院ゾーンの建物では日中も雨戸を開けて庭園を見下ろすことができるようにしており、江戸時代の建物そのままの体験ができるのですが、一方で雨天時には周り廊下に雨が降りこむこともあるため、とくに気をつけて見回っているそうです。
今後の展望について
今後は、展示室の展示環境の整備や、書院ゾーンの充実を目指していらっしゃるとのこと。立畠さんにその展望を語っていただきました。
取材を終えて
小倉城庭園で主に伝えられているテーマとして『礼法』と『伝統的な生活文化』の二つがありましたが、そのどちらも起源は『先人の知恵』だったことを今回の取材で知ることができました。
そういった類のものを、しかも体験を重視して後世へ伝えてくれる施設は貴重ではないでしょうか。
『知恵』は後世に伝え、その時代に合った形に改良を加えられながら活かされ続けるものだと思います。今後もより多くの方に知ってもらいたいと感じました。
金剛株式会社 総務・人事・SRチーム 原田
北九州市立 小倉城庭園
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