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先人たちの『まっすぐな生き方』に思いを馳せる 日本二十六聖人記念館

日本二十六聖人記念館

この小高い場所から街を見下ろす公園は、かつて海に突き出た丘であったそうです。
そしてここは、二十六聖人と呼ばれる人々の殉教の地として有名です。

二十六聖人について

1597年、豊臣秀吉のキリシタン弾圧政策によって、26人のキリシタンがこの場所で処刑されました。
処刑から265年経った1862年に26人は聖人に加えられ、それ以来この殉教者たちは『二十六聖人』と呼ばれるようになります。
そしてその100年後の1962年、彼らの功徳をたたえ、殉教跡地に記念碑と記念館が建てられます。

今回はその日本二十六聖人記念館さまに伺いました。

信教問わず『まっすぐな生き方』を伝える場に

(一階展示室)

その一方で、キリスト教信者でない観光客の方の来場も同様に多いそうです。

しかし、キリスト教信者でない人がこの“殉教者の記念館”でどのようなことを学ぶことができるのでしょうか。
また、記念館としても、信者でない方々に対して何を伝えていきたいのでしょうか。

デ・ルカ・レンゾ館長にお話を伺ってみたところ、
「キリスト教信者の方に二十六聖人の宗教的な熱心さを学んでもらいたいのはもちろんですが、キリスト教信者でない人たちにも、『理念や信仰を曲げずにまっすぐ生きる』という、二十六聖人やキリシタンたちのような生き方の尊さを知ってもらいたいと思っています」
とのこと。
その意志を受けて館内の展示では、二十六聖人の殉教という史実を含む日本でのキリスト教史全般を、それまで予備知識がなかった人にも分かるように解説してあります。
これは二十六聖人をはじめとするキリシタンたちの“生き方”を知り、考える上で非常に重要な展示ではないでしょうか。

(デ・ルカ・レンゾ館長)

また、実は現地に伺うまで筆者は「殉教者の記念館というからには、殉教の残酷さを生々しく伝える展示物が多いのでは?」と身構えていました。
しかし実際はそういったものは意外にも少なく、残酷なものに抵抗がある人にとっても安心して閲覧できる展示であるように思います。
これもまた“殉教そのもの”でなく、“殉教者たちの生き方や精神”を伝えたいという館の主旨があるからこそではないでしょうか。

キリスト教の歴史を通して、文化交流を学ぶ

館内の一般展示室では、日本におけるキリスト教の伝来と、キリスト教文化の受容について展示されています。
キリスト教を通した西洋との交流によって日本に伝わった音楽・美術・教育などがいかに豊かであったかを知ることができ、新鮮な驚きがあります。さらには同時代の世界の様子についても学ぶことができます。

そしてこれらは、キリシタンの生き方を知る上で欠かせない背景でもあります。

弾圧を耐え抜いたキリシタンの想い

館内の特別展示室には、キリスト教迫害に関する展示物の中でも、『かくれキリシタン』と呼ばれる人々(迫害下で信教を守り抜くため、表向きは仏教や神道の信者を装いながらキリスト教信仰を維持した人々)が使用していたものが多く展示されています。

(『雪のサンタ・マリア』)

特に『雪のサンタ・マリア』と呼ばれる作品は、弾圧を耐え抜いた現物が残る貴重な絵画の一つです。
かくれキリシタンの人々が250年にわたる迫害の間も必死で守りぬいたこの絵画は、もし一瞬でも油断して見つかってしまっていれば現代に残っていません。「次世代にどうにか残したい」という本当に強い想いがこもっているものであると言えるでしょう。
この絵画を通じてかくれキリシタンの人々の想いの強さを目の当たりにすると、キリスト教信者でなくとも心打たれるはずです。

(マリア観音の一例)

想いを伝えるための工夫

このように、記念館に展示されているものは非常に強い想いがこもったものたちです。レンゾ館長はそれらをとても大事にし、その想いを伝えるべくさまざまな工夫をなさっています。
かくれキリシタンの子孫の方から寄贈された島原の民家は、弾圧当事実際にかくれキリシタンが住んでいた家でしたが、寄贈された時点ですでに崩壊しかけていたとのこと。そこで館長は現地まで行き、猛暑のなか家の部材の一部を運んできて、写真のような「かくれキリシタンの家」の復元コーナーを設けたそうです。

(かくれキリシタンの家の復元コーナー。
柱は実際にかくれキリシタンが使用していたもので、隠し扉と聖母像が施されています。)

『栄光の間』のメッセージ

そして記念館二階へ上がると、二十六聖人の遺骨が置かれている『栄光の間』という部屋に行き着きます。

(『栄光の間』)

キリシタンにとって殉教とは『栄光』であり、非常に栄誉なこととされます。遺骨は信仰を貫いて亡くなったという『栄光』の証明でもあるため、この『栄光の間』と名づけられた部屋に飾られているのです。
「他の絵画などは外しました」
とレンゾ館長が言うように、展示物も少ない部屋となっています。
そのような中、マリア観音の数体が壁際に置かれています。
その理由について、レンゾ館長はこう語ります。
その考えのもと、殉教者の遺骨と、隠れキリシタンの信仰を象徴するマリア観音を同じ部屋に置いているのです。

(二十六聖人の 一人、聖ディエゴ喜斉の腕の遺骨)

自然の光を取り入れる設計になっている『栄光の間』には、厳かながらも穏やかで静かな雰囲気が漂い、他の部屋と違った時間が流れているようにも思えます。信念を貫いて生きたキリシタンたちの生き方にじっくり思いを馳せるには最適な空間ではないでしょうか。
“キリシタンのまっすぐな生き方を知ってもらいたい”というこの記念館の主旨を、空間全体で表しているようにも感じました。

国内初の巡礼所指定をうけて

日本二十六聖人記念館は2012年6月8日、国内初の巡礼所に指定されました。それ以来、来館者数は約2倍に増加しているとのこと。巡礼者はもちろん、国内の修学旅行生、近隣のミッションスクールの幼稚園生から近年増えている海外観光客まで、ますます多様な人訪れるそうです。
そのような中、来館者が多様であるからこそ、展示物の意味を伝えることが難しいという一面もあるようです。
「修学旅行生などには、聖人の遺骨も『気持ち悪い』と言われてしまったりします」
とレンゾ館長も苦笑いするようなケースもあるのだとか。
しかし、どのような来館者に対しても、
「その人その人に合わせて、押し付けすぎないような説明をするよう気をつけています」
とレンゾ館長。
二十六聖人記念館は門戸を広く開き、人々の来館を歓迎しています。

今後の二十六聖人記念館

そのような同館の今後の課題や展望を、レンゾ館長に語っていただきました。

取材を終えて

レンゾ館長は取材の中で、
「もともと伝えたいのはモノの価値だけでなく、それに託された精神的な部分です。が、展示できるのはモノだけ。このギャップがあるので、最初から緊張感はあります」
と語ってくださいました。これはどの文化施設にも共通する悩みでもあるかもしれません。
とりわけ二十六聖人記念館の展示物にはキリシタンの人々が命をかけて遺したものが多く、モノに託された精神が非常に強い分、緊張感も大きいのではないかと感じました。
そのような同館の魅力は、キリスト教に関する知識のない人に対しても非常にオープンであることではないかと思います。キリスト教の教えそのものを押し付けるのではなく、教えに忠実に生きた人々の姿勢を、来館者に合わせながら伝えてくれる貴重な場です。今後ますます多くの人に知ってもらえればと思います。

(金剛株式会社 総務・人事・SRチーム 原田)


日本二十六聖人記念館

〒850-0051長崎市西坂町7-8
URL:http://www.26martyrs.com/
TEL: 095-822-6000