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話し手:村上 岳さん(右)瀬戸内市民図書館もみわ広場 館長補佐、横山 ひろみさん(左)瀬戸内市民図書館もみわ広場 主査(図書館司書)※所属・役職は取材当時のものです。
瀬戸内市民図書館は、行政と市民による6年間の図書館整備事業を経て平成28年6月にオープンしました。ギャラリーや地域郷土資料スペースなどを併設した多機能型図書館で、オープン後も市民主導のイベントが数多く開催されるなど、絶えず賑わいが創出されています。今回は、それらの具体的な取り組みについて、それぞれの内容や狙いについてお話しを伺いました。
オリーブの庭 市民が思い思いにゆったりと過ごせる広場
写真撮影/中川正子
ー図書館整備事業の始まりを教えてください。
瀬戸内市は平成16年に牛窓町・邑久町・長船町が合併してできた市です。合併前の3つの町の図書館は、とても小さく蔵書数も限られていました。また閲覧をする場所も少なく市民がゆっくり過ごせるような図書館とは言い難く、合併後においても同様の状況でした。
そのような中で、瀬戸内市の図書館を考える「ライブラリーの会」などが設立され「学校司書を配置して欲しい」「公共図書館を充実して欲しい」といった市民の声が行政に届けられるようになりました。その結果、市は図書館の整備を市の重要施策と位置づけ「瀬戸内市新図書館整備検討プロジェクト」を発足したのです。
ー整備事業として、最初に幼稚園・保育園への移動図書館に着手されたそうですね。
図書館には全ての市民が来てくださる訳ではなく、利用者もさほど多くありませんでした。特に、小さい子どもがいる方は子どもをつれて頻繁に来館することが難しかったようです。そこで、移動図書館で幼稚園・保育園に出向くことにより、まずは子どもたち自身のために本を借りる体験をしてほしいと思ったのです。当時、移動図書館の担当は2人で、本の貸し出しとお話し会を開催していました。1日に多くて3か所、月に数十か所をまわりました。専用の移動図書館車両ではなく一般の軽ワゴン車であったため、出かけるたびに行う本の積み替え作業は肉体的にも大変な業務でした。
また、本を貸し出しする時に「子どもたちが選んだ本なので、お家に持って帰って、必ず一緒に読んでくださいね」と書いた「移動図書館だより」をお渡ししていました。子どもと保護者が一緒に本を読むことによって、本のある暮らしが、いかに豊かなものであるかを実感してもらい、そこから、少しずつ本のある暮らしが市民の中に浸透し、図書館ができた後の暮らしをイメージしてもらえればと思っていました。
ー図書館の基本理念を実現するために、どのようにして図書館整備事業を進めていかれたか教えてください。
図書館の基本理念は「もちより・みつけ・わけあう広場」です。普段の生活や仕事で突き当たった疑問や課題を「もちより」、その解決策や展望を「みつけ」、気づきや発見を図書館に集う皆さんで「わけあう」。そんな風に活用していただき、「あそこに行けばなんとかなる」と思ってもらえる図書館を目指しました。静かに本を読むだけではなく、活発な交流のなかから市民の皆さんの夢や願望が実現するような場所でありたいと考えています。
そのような図書館を作るために、市民同士で意見交換を行う「としょかん未来ミーティング」というワークショップを開催しました。図書館をつくるためだけではなくて、図書館ができてからの未来のことを考えていこうと思いを込めてネーミングしたものです。このミーティングは、原則的に事前申込制ではなく自由参加制にしました。ミーティングが始まるまで、どんな人が来られるかわからなくて、ドキドキしながらも、誰でもウェルカムという雰囲気を大事にしたかったからです。誰でも参加できるよう敷居を低くすることで、市民の皆さんに広く自分たちの図書館だということを感じていただきたいという狙いもありました。
市内の中・高の生徒が企画運営した「としょかん未来ミーティング」(子ども編)
開催当初は、今ある図書館や博物館をまわって、瀬戸内市の社会教育施設がいったいどうなっているのかを調査したり、有識者から、図書館がいかに市民生活の役にたつかを学んだりしました。ミーティングを重ねるごとに参加層が広がり、市民の意識が変わってきて「こんな建物、こんな部屋がほしい」という具体的な話が出てきました。それと同時に、市民全体にミーティング内容を知りたいという気持ちが高まってきたみたいです。地元の中高生で企画運営した「子ども編」は、企画運営委員を公募で決定しました。企画運営委員は、自分たちの学校の友達をミーティングに誘ったり、それぞれの学校で新しい図書館にどのようなことを望んでいるのかのアンケートを実施してくれました。結果、実現したものの一例が「チャットルーム」です。おしゃべりをしながらホワイトボードに書き込みができる共同学習室がほしい、という意見を反映したものです。その他にも、思い思いにくつろげるようにソファーが欲しいとか、トイレは大人用と子ども用の両方があった方がいいとか、子どもたちが一所懸命に考えた具体的な意見を数多く取り入れています。この企画運営委員に参加した当時の中高生たちは今では大学生や社会人となって活躍されています。自分たちの意見が反映された使いやすい図書館が建設されたこと、そしてその立ち上げに関わる事ができたことにとても大きな誇りをもっていると話してくれています。
ーギャラリーや郷土資料の展示スペースも併設する多機能型図書館という一面もあると伺いました。詳しく教えていただけますか。
「としょかん未来ミーティング」でも、瀬戸内市のことがわかるような仕掛けが欲しいという要望があり、瀬戸内市の合併の変遷や年表、郷土資料の実物を図書館内の各所に展示した「せとうち発見の道」を作りました。実物の郷土資料を目のあたりにし、関連する書籍や資料を調べることによって、自分たちの住んでいる「まち」について深く学べるようにしたいという狙いがあります。少し古い生活用具などの民俗資料は、高齢者が昔を懐かしんで脳を活性化させる「地域回想法」という手法の実践にも活用しています。
せとうち発見の道 瀬戸内市の「まち」を深く学べるスペース
郷土資料とその資料の展示
郷土資料についてすぐ調べることができる
また、瀬戸内市出身の世界的な糸操り人形師である竹田喜之助さんの功績を紹介するギャラリーを設置して欲しいという強い要望がありました。これを受けて実物の人形を展示しています。喜之助さんの業績を顕彰しながら、文化の振興と情操教育を図ろうとのことで、市民の実行委員会によって「喜之助フェスティバル」が開催されています。毎年開催される「喜之助フェスティバル」は今年で30回目をむかえ、刺激を受けた市民によるアマチュア劇団の活動も活発になっています。
竹田喜之助ギャラリー
瀬戸内市が誇る国際的な糸操り人形師の人形が展示されている
ー実に多彩で数多くのイベントを開催されています。どのように企画運営をされているのですか。
年間80本のイベントをおこなっていますが、何をしようかとアイディアがなくて困ったことはありません。市民によってつくられた図書館友の会「せとうち・もみわフレンズ」や、その他のグループや団体が、図書館に「一緒にやりませんか」と企画を次々に持ち込んでくださり、それが実現しています。「せとうち・もみわフレンズ」と共同で企画した「もみわ祭」は、行政と市民団体が一緒になった協働提案事業です。文化や芸術を学ぶために、子どもたちの合唱グループによるコンサートや、お父さんやおじいさんと一緒に絵本を楽しんでほしいという願いを込めた「読みメンのおはなし会」を開催しました。講演会なども開催し、例えば「まちづくり」の話を聞いて討論しています。他にも、地域ゆかりのアーティストによるトークセッションなども開催しており、市民から「次はあの人を呼びたい」という声が多く上がって、毎月恒例になったものもあります。
「もみわ祭」のチラシ 開館2周年記念イベントを開催
「もみわ祭」のオープニング風景
子どもたちの合唱グループによるウェルカムコンサート
ーホームページ上に「せとうちデジタルフォトマップ」を掲載されています。市内各地で撮影されたとっておきの一枚を市民が投稿し、広く共有するというものですが、このアイディアはどこから生まれたものですか。
以前から、市がもっている情報、実物が出せないもの、古い写真をオープンに利用してもらうために、図書館が主体となってデジタルアーカイブを提供したいと思っていました。また、「変わっていく瀬戸内の姿を写真に残していこう」とする地元のグループからも賛同をいただき、多くの写真を提供していただきました。その他にも、いろんな所からアドバイスを受けながら、市民が自由に写真を投稿・活用できる「せとうちデジタルフォトマップ」ができたのです。その後、市内の名所旧跡や市が収蔵している民俗資料や公文書などの資料をWeb上で見られる「せとうち・ふるさとアーカイブ」というものも作成しています。
せとうちデジタルフォトマップ 郷土の魅力ある風景の写真を提供している
c瀬戸内市
ー図書館が主体となって地域のデジタルアーカイブを構築されているのは実に珍しい取り組みですね。一方、本のレイアウトや見出しの付け方など実空間としての図書館づくりの方でも一風変わった取り組みをされているとか。
書架の見出しが特徴的だとよく言われます。棚づくりには、利用者にとって使いやすくしたいという職員の意図を反映していますので、レイアウトの仕方も個性的です。いわゆる十進分類法といった図書館のセオリーを崩すことも認めています。 例えば「母が笑っているのがいちばん」という見出しがついた棚があります。子育て中は、ついイライラしてしまいがちですが、子どもが求めているのは、お母さんの笑顔だと思い、お母さんがホッとできたり、励まされる本をこのコーナーに集めています。見出しは、職員がそこに並んでいる本の背表紙を観察し、そこから得た情報や印象をもとにつけています。必ずしも本のタイトルや分類表示にとらわれることなく、固い表現にしたり柔らかい表現にしたり、全体のバランスを見ながら強弱をつけています。
とてもわかりやすい見出し 母に対する子どもの願いが表現されている
ー開館から2年。市民との連携にこだわり続けてきたわけですが、振り返ってみていかがですか。
市直営の図書館であるため、市民と連携をしやすく柔軟性があるのではないかと感じています。また、3年後、5年後の近い未来だけではなく、今いる子どもたちが大きくなった時の「将来の瀬戸内」のビジョンを長い目でみながら図書館の運営を心がけています。1日1日、この図書館が瀬戸内市民の図書館になっていくようにと思いながら仕事をしています。利用者や貸出も増えてきており、やりがいを感じています。
もみわカフェ 明るく開放された空間で、ちょっとしたおしゃべりができる
ー行政と市民がいっしょになって、意見を出し合いながら整備計画を推し進め、誰もが訪れたい図書館をつくられました。この協働作業は、図書館がオープンしても、一貫して継続されており「将来のまち」に向かって確実に進化していると確信しました。
本日は貴重なお話を聞かせていただきましてありがとうございました。
(取材日:2018年6月29日)
取材・執筆:坂井 一隆 金剛株式会社 社長室
※取材当時
PHOTO GALLERY
瀬戸内市民図書館 もみわ広場
所在地:岡山県瀬戸内市邑久町尾張465-1
TEL:0869-24-8900
開館時間:火・水・土・日・祝日 …午前10時~午後6時、
木・金 …午前10時~午後7時
休館日:月曜日(ハッピーマンデーを含む)、
祝日(ハッピーマンデーを除く)の直後の平日、
毎月最終水曜日(祝日のときは前週の水曜日)、年末年始、 特別整理期間
URL:https://lib.city.setouchi.lg.jp/
瀬戸内市民図書館もみわ広場のオリジナルグッズ