矢印アイコン

PAGE TOP

  • LIBRARY

“カウンター越しのご縁”をつないで市民参加型図書館へ

和歌山市民図書館

 ※所属・役職は取材当時のものです。

まず、和歌山市民図書館の特徴を教えてください。

 当館は昭和56年にこの地に開館しました。蔵書数は435,390冊(平成28年3月末)です。
 館内には、和歌山市出身の作家・有吉佐和子文庫があります。生前有吉さんが実際に持っていた資料を、一人娘の有吉玉青さんがご寄贈くださったものです。「本棚を見るとその方がどんな方かわかる」とよく言われますが、作家としての有吉佐和子さんを知る上で大変興味深い資料です。
 もうひとつの特徴として、移民資料室があります。かつて和歌山県から海外へ移民する人が多かったということにちなみ、全国で唯一、移民資料に特化した資料室を設けました。先人の足跡をたどることができますし、移民が盛んであった当時の日本語新聞なども保管されているので、移住先で日本人がどのように見られていたのか、どのような苦労をしてきたのかを知ることができます。グローバル化が進む昨今ですが、過去に日本から海外へ移り住まれた方について知ることにより、今日の国際理解への足掛かりになるのではと考えています。
 そのほか、開館と同時に移動図書館の巡回を実施しています。また、市内5か所にあるコミュニティセンター図書室で貸出・返却・予約が可能です。貸出中の資料だけでなく、在庫の資料も予約でき、コミュニティセンター図書室や移動図書館で受け取ることができることも特徴かと思います。

イベントの数や参加者数が増加していると伺いました。

 はい。平成25年度からサービス改革に取り組みました。平成24年度には61件だったイベント数を、平成25年度には78件、平成26年度には100件に増やしました。イベント参加者の数も、平成24年度時点で1,279人でしたが、平成26年度には3,001人になりました。
 このサービス改革は、来館者数の減少に歯止めをかけたいと始めたものです。当時は市民の方の図書館認知度がとても低い状態でした。とにかく市民のみなさんに図書館を知っていただきたいと、これまで図書館に来たことがない層に、まずイベントという形で投げかけてみることにしました。
 イベントを企画する際にヒントになったのは、図書館にいらっしゃるお母さんたちの「赤ちゃんを連れていると迷惑がられないかと気をつかってしまって…。居場所がないんです」というお声でした。さっそく「幼児おはなし会」の回数を増やし、さらに対象年齢を下げた「赤ちゃんおはなし会」を開きました。また、親子で楽しめるコンサートや朗読会、英語絵本の読み聞かせ会、リトミックも始めました。図書館ですので、やっぱり本も借りていただきたくて、その時々のイベントテーマにリンクするような内容で、ユニークなディスプレイをした本の展示を行ってみました。こうして様々な工夫を続けていると、右肩下がりだった来館者数が徐々に上がってきました。
 初めてのコンサートは「本と音楽で楽しむジブリの世界」。ジブリの映画音楽のコンサートでした。演奏されている音楽にあわせて、その場面の絵本をめくって映写してみたところ、入場者300名を超える大盛況となりました。この演奏を担ってくださったのは音楽のボランティアの方です。ボランティアの中心になってくださったフルート奏者さんとは、図書館の朗読会イベントがきっかけで出会いました。朗読会の中でミニ演奏をして下さったのです。そして本や音楽やご趣味の話をうかがう中で「図書館でのコンサートっていいですね!」という話になり、この企画が生まれました。
 コンサートを担ってくださったフルート奏者さんは、その後も図書館の運営に興味を持ってくださり、お友達と司書の仕事や図書館の運営を知るためのワークショップを開いてくださって、今では「和歌山市民図書館友の会」(以下「友の会」)という市民団体になりました。
 図書館は人と人とが出会うのに適した場所のようです。本がとりもつご縁。まさに「図書館がつなぐ『 本と人 』 『 人と人 』 『 人とまち 』」です。これは新図書館の基本理念になっていますが、それを実感するようなご縁でした。

市民の方にボランティアとして参加して頂くために、どのような呼びかけをされたのですか。

 呼びかけると言うより、ご縁という感じが強いですね。カウンターでの他愛ない話、「こんなことおもしろいと思う」、「実はわたし、こんなことをやっていて」という中から、ひょっこり企画が生まれ、その方々に実際にお手伝いいただくことになりました。「英語絵本の読み聞かせ会」のボランティアさんとも、「友の会」設立に繋がるフルート奏者さんとの出会いを作ってくれた朗読会のボランティアさんとも、カウンターで出会いました。 “カウンター越しのご縁”という感じです。

日頃からカウンターでのお客様との直接のコミュニケーションを大事にしているからこそ、市民参加につながるきっかけや、参加しやすい雰囲気ができたのかもしれませんね。
 そして、そうやって市民の方が図書館の運営に参加してくれるようになってきた頃、ちょうど新図書館構想が出てきたとのことですが。

 はい。平成27年に、「図書館がつなぐ-『 本と人 』 『 人と人 』 『 人とまち 』-」を基本理念とする新図書館基本構想を策定しました。この基本構想を受けて新図書館の基本計画を策定するために、市民の方のご意見を取り入れようと、現在の図書館の利用状況などのアンケートを実施しました。また、計画に市民の意見を盛り込むために市民参加型のワークショップを開催しました。

新館構想ありきで市民の方が集まったわけではなく、それ以前から市民参加のしっかりした基盤が出来ていたというのは印象的です。
ワークショップについても詳しく教えてください。 

 まずは当館ホームページでの告知やチラシなどで、ワークショップに参加してくださる市民の方を広く募りました。そうして集まってくださった方々は普段あまり図書館に来たことない方が意外にも多かったのですが、皆さん故郷をなんとか盛り上げたいという熱い思いを持って臨んでくださっていたように思います。
 ワークショップは計4回開催されました。1回目はオリエンテーション、2回目で街歩きをして実際に市内を見てまわり、3回目にその結果をマップにし、4回目でまちと図書館をつなげるためのアイデアをまとめるという流れでした。4回のワークショップの結果、新図書館に期待されることを示すキーワードは、「イベント」「交流」「本(特集なども含む)」「文化」「和歌山の情報」「子育て」「観光」等に絞り込まれました。この中の「和歌山の情報」は、ワークショップ2回目で実際に街歩きをしてみて出てきた意見でした。自分たちで街を歩くことで街の資源を再発見すると同時に、それらに関する情報発信がないという現状の課題にも気が付いたのです。
 こうして出てきた市民の皆さんのご意見をできる限り盛り込んだ新図書館の基本計画が、先日公表されたところです。

新館に期待することや、今後の展望を教えてください。

 ワークショップでも挙がった「文化」や「和歌山市の情報」を発信する役割として、図書館としても有吉佐和子文庫と移民資料室のさらなる活用を考えたいと思います。
 有吉佐和子さんは地元が輩出した作家さんですので、以前から市民の皆さんの中にもファンの方が多くいらっしゃいました。先日、有吉佐和子さんの娘の玉青さんが「図書館総合展2016フォーラムin和歌山」で講演をしてくださったのですが、その際にも市民の皆さんが本当に喜んでくださいました。有吉佐和子さんご本人だけではなく、一人娘の玉青さんもまた市民の方に愛され慕われている様子を目の当たりにしました。有吉さんが和歌山市の皆さんにとって本当に特別な方なのだということを改めて実感した出来事でした。図書館として、そんな有吉さんが残してくださった資料をもっと活用していかねばならないという思いを強くしました。 
 また、「友の会」とは別に、ワークショップ終了後に「みんなでつくる未来の図書館」(以下「みん図書」)という団体も立ち上がり、新しい図書館のあり方について考えるイベントを開催して 下さって くださっています。新館に反対するのではなく、一緒にやっていこうとしてくれる市民団体が二つもできるのは大変珍しいことのようです。先日、両団体と図書館職員が一緒に展示架を作りましたが、今後も協力しあっていきたいと思っています。
 新図書館については、これから設計業務へ入っていきますが、「ワークショップが終わったから、あとは出来上がりを待っていてください」ではなく、今から更に新館に向けてできることを行い、皆さんと一緒になって新館へのレールを敷いていきたいと思っています。
新館は平成31年の10月にオープン予定ですが、開館後も市民の皆さんと一緒に育てていけるような図書館にしていきたいですね。

新館が出来るのを待つばかりではなく、市民の方も一緒になって作り上げることができるというのはとても魅力的ですね。貴重なお話をありがとうございました。

和歌山市民図書館の公式サイトはこちら