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二度の被災と工場新設から生まれる企業文化の芽吹き

金剛部式会社 新工場レポート(金剛株式会社)

新工場外観

はじめに
 2018年3月、熊本県上益城郡嘉島町に金剛株式会社の新工場が完成した。同年内には工場の本格稼働が始まり、2019年3月には熊本市西区上熊本から、製造部門や管理部門など事務系を含めた多数の部署が嘉島町の工場へ集約された。13㎞以上も離れた場所という職場環境の大きな変化に当初は戸惑いもあったが、徐々に機械設備だけではなく私たち社員も適応し始めている。
 当社では2016年4月の熊本地震に直面した際に「復興とは何か」を考えた。そして地震前の状態に戻すのではなく、未来を見つめた新しい企業像を描き、「創造的復興」を目指すことが、当社にとっての「復興」なのだと答えを導き出した。その実現のために当社では社内改革として新工場を建設し、意識変革を行っている最中だ。本稿では、創造的復興を目指し、挑戦と努力に奮闘する金剛の現在をお届けする。

金剛の工場の歴史

 まず、新工場についてお伝えする前に、当社の工場の変遷についてご紹介したい。
 当社では大きく分けて4つの工場を経ながら、会社を成長させてきた。
 最初の工場は、1957年に現在の銀座通り※1( 当時:熊本市上追廻田畑町)の倉庫に構えたスチール家具工場だ。工場の広さは500㎡ほどで、機械設備は当時としては最新式だったという。それから2年後の1959年には、増え続ける注文に対応するため、上熊本(当時:熊本市池田町)に工場を新設する。木造平屋建てで、広さは1656㎡ほど。裁断機、プレス、電気溶接機、九州で初めて採用された塗装の赤外線乾燥装置など、最新鋭の機械を導入した。さらに新設から8年の間に7回もの増築拡張工事を実施している。第7次工場増築拡張工事では静電式自動塗装機を導入し、塗装の完全自動化システムが完成した。そして1985年から1986年にかけて、操業を続けながら古い工場を少しずつ改造するスクラップアンドビルドの形で3つ目の工場新設工事が行われた。新しい製造設備を順次導入し最新のラインを組み上げ、生産力は旧工場時代に比べて一挙に2.5倍も増加した。
 そして、4つ目の工場新設が決定したのが2016年。同年4月に発災した熊本地震により出荷前製品や塗装設備など合わせて被害額は約20億円にも及んだ。塗装設備は被害が甚大で、修理のためには長期間の操業停止が余儀なくされる。そこで、当社は熊本県上益城郡嘉島町に工場の新設を決定する。2018年に完成した嘉島町の工場は未来志向型の生産システムを目指し、ハード面ではロボットによる自動化、ソフト面ではI oT化による生産ラインの工程管理の効率化を行った。時間あたりの生産性は旧工場よりも1.3倍の向上を見込んでいる。

※1 熊本県熊本市の繁華街である下通アーケードを交差する通りの名称

旧工場外観

熊本市の旧工場
現在は解体作業が進んでいる

地震直後の工場内

地震直後の工場内の様子
地震により雨漏りが酷くなったため出荷前製品にはブルーシートをかけて対応した


工場見学の変化

 常に先進性を求めて最新鋭の機器を導入してきた当社は、さまざまな場面でその姿をお客さまにお見せしてきた。その一つとして工場見学がある。
 当社の社史『金剛50年史』を開くと、最も古い記録で1961年に工場見学を行っている。創業者谷脇源資の出身地である徳島県美馬市(当時:穴吹町)から中学生が修学旅行で訪問したという内容だ。そのほか、1965年にはドイツからの工場視察団が見学に訪れるなど、当社では工場建設と同時に工場見学を常に受け入れてきた。2000年(H12)から集計している工場見学申請件数によると、2019年(R1)8月現在までで累計約700件※2もの団体が工場見学を申請している。
 工場見学申請件数の推移の中でも変化として顕著なのが、熊本地震が起きた2016年(H28)以降だ。震災直前の2015年(H27)と比較すると、2016年は2倍近くに増加、新工場の本格稼働が始まった2019年は8月現在で3倍に迫る勢いだ。(グラフ参照)

グラフ

 熊本地震後の工場見学は、震災の被害状況、被災から学んだ教訓など、復興に向かって歩み始めた企業の姿を伝えるようになり、工場見学のテーマの目玉となった。これまでの単なる製造業の工場見学から、復興に向かって頑張る企業の要素が工場見学に加わったのだ。さらに現在の嘉島町での工場見学では、被災から現在までの道のりに加えて、工場新設を機に導入した最新鋭のロボットを紹介している。当社の先駆的な取り組みをお見せすることで、
未来を見つめた先進的な会社であると感じていただければ何よりだ。

※2 製品検査やキャンセルを含めた全ての工場見学の申請件数

修学旅行の集合写真

1986年に行われた穴吹中学校修学旅行
創業者 谷脇源資を囲んでの記念撮影


新工場での工場見学

 当社の工場見学は、大きく3つの工程に分けて行われる。※3
 第一の工程は会社概要と自社製品の紹介だ。まず2018年3月の工場の落成式にあわせて制作した当社のプロモーションビデオを見ていただき、その中で金剛の歴史と、被災から新工場建設までの道のり、そして新たに導入した機械設備を紹介している。歴史を振り返ると、当社は二度の大きな災害に見舞われている。1953年6月に熊本市中心部を流れる白川が氾濫した水害と、2016年4月の熊本地震だ。水害では、製品が水没するなど致命的な打撃を受けたが、その後復旧工事に必要となる建設機械などを販売し損失を取り戻した。熊本地震では、被災前の状態に戻す「復旧」から、さらに進化を遂げる「復興」へと、新工場建設を決断した。私たちは「ピンチをチャンスに」何度も立ち上がってきた。

新工場での工場見学の様子

嘉島町に建設された新工場・二階ショールームで工場見学を行う様子

 PVのQRコード

クリックしてビデオを視聴できます

 ビデオ上映後は、当社が開発した「傾斜スライド棚」の加振実験をご覧いただいている。加振装置で地震の揺れを再現し、その有効性をお見せしている。本製品の特徴は、地震発生時に棚にわずかな傾斜が生まれる点だ。この傾斜が発生することで、図書資料の落下を軽減できる。落下図書によるケガの予防や避難経路の確保が可能となることで、復旧作業の負担を軽減でき早期開館にも貢献できるのだ。2018年には平成30年度九州地方発明表彰の中小企業庁長官賞を受賞し、その価値を認められた。

傾斜スライド棚の仕組み

傾斜スライド棚が図書資料の落下を軽減する仕組み


 第二の工程では、工場内にて、最新鋭の機械設備を間近でお見せしている。一番の目玉はベンディングロボットシステム。主に複雑な形状をした棚の小さな部品を自動で製作する設備だ。曲げ加工などが自動化したことによって、多品種小ロット生産にスピーディーに対応できるようになった。

※3 見学時間や、見学者数、目的、工場の生産状況などの兼ね合いで案内する内容が変更となる場合がある

工場内のロボット

ベンディングロボットシステム
材料つかみから、曲げ加工、搬出、金型の交換まで自動で行う


 第三の工程では、オフィスをご案内している。工場の機械設備の先進性を意識し、オフィスでも新たな取り組みを導入している。まずコミュニケーションの活性化を目的としたフリーアドレスデスクを導入した。以前は比較的静かだったオフィスが、フリーアドレス導入後は会話が増え、他部署と気軽にコミュニケーションを取れるようになった。そのほか事務所の一角に新設されたカフェスペースには、無料で使用できるドリンクサーバーを設けた。休憩時間は社員の憩いの場となっている。
 また、オフィスに設置された什器は、ほとんどが当社工場で製造したものだ。棚は勿論のこと、フリーアドレスのデスクも脚の部分は当社で作っている。フリーアドレス以外の固定席のデスク、オフィスに入って目の前にあるカウンターを兼ねた棚は、当社製品をカスタマイズしたものだ。
 以上のような工場見学を通して、見学者から後日いただいた手紙には「震災を乗り越えられた社員の団結力を感じました」「二度の被災にも屈さずピンチを変革のチャンスに変えてこられた金剛の不屈のDNAに感動しました」「『失敗を恐れず先進技術に挑戦する』という金剛の文化を肌で感じました」など大変有難い反応をいただいている。

フリーアドレスデスク

工場に導入されたフリーアドレスのデスク
デスクの脚は自社工場で製作している

カフェスペース

工場に導入されたカフェスペース
写真中央の「つみ木ばこ」は本棚、テーブル、パーテーションの役割を果たしている


これからの金剛

 当社は常に先進性を求め、ピンチをチャンスに変えて何度も立ち上がってきた。このような先人たちの挑戦と努力によって、お客さまからの「金剛のおかげで安心して働ける」といったお褒めの言葉や「グッドデザイン賞」「中小企業庁長官賞」などの数々の賞をいただくことができた。この金剛の歴史によって生み出された「安心感」や「先進性」の蓄積が、「安心と先進で社会文化に貢献する」という企業理念に体現している。これからもこの企業理念を掲げるためには、たゆまぬ努力・挑戦が必要だ。工場見学では、一見ハイスペックな機械設備や、そこから作り出される多様多種な製品のアピールだけのようにも感じられるかもしれない。しかしここには「先進性を追い求め」「困難に負けず何度も立ち上がる」金剛の遺伝子が刻まれている。このような金剛の社風・企業文化を、当社へお越しの際に感じていただけたら嬉しい。当社の工場は発展途上だ。これからさらに新しいことに挑戦し、問題点を改善していくことで企業としてより一層の成長を目指しながら「金剛の在り方」を追い求めていきたい。


(執筆日:2019年8月24日)
文:三木 すずか 金剛株式会社 ガバナンス局 社長室
※取材当時