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話し手:岩間 美樹 さん(右) 宮城県図書館 資料奉仕部次長(総括担当兼チームリーダー) 、太田 朋子 さん(左) 宮城県図書館 資料奉仕部 震災文庫整備チーム 主査 ※所属・役職は取材当時のものです。
被災地の県立図書館として震災関連資料の収集・保存・公開を行っている。館内には「東日本大震災文庫」を設け、5,542点もの資料を収集、うち4,586点を排架。チラシなどの1枚もの資料もファイリングし公開している。また、宮城県と県内全自治体が連携・協力し22万点を公開するデジタルアーカイブ「東日本大震災アーカイブ宮城」の事務局として、管理運営を担う。 ※1
※1 資料の点数は平成29年6月30日現在のもの。
東日本大震災の他にも、貸し出し可能な東日本大震災関連図書をまとめたコーナーもある
震災から6年が経過して
平成24年7月に開設した「東日本大震災文庫」(以下:震災文庫)に新たに集まる資料の点数は月日の経過と共に減少しています。震災当時の様子を物語る日誌やチラシ、それらを元に書かれた書籍は減り、復興に関する資料の占める割合が多くなってきました。そのような中、収集の対象とする資料の範囲は年々ひろげていて、福島第一原子力発電所の事故に関する書籍や他県の震災関連資料も収集しています。宮城県立の図書館だからといって宮城県に関わる資料だけを集めていても、東日本大震災の全貌は見えてこないからです。
県を含む全自治体が連携・協力している「東日本大震災アーカイブ宮城」(以下:震災アーカイブ)については、当館が事務局となって運営しています。これは「収集・保存・公開のプロ」である図書館がアーカイブの構築に力を発揮できる存在だと期待されているからです。しかし、各自治体では震災アーカイブの管理運営に直接携わっているケースは一部に限られていて、担当窓口は生涯学習課・総務課・秘書広報課・企画課・危機管理課・防災課など、それぞれの自治体で異なります。そもそも震災アーカイブの管理運営協議会に入っている館も少なく、各市町村の担当窓口は、それぞれの図書館と連携がされているとは限りません。震災アーカイブの運営について市町村によって現状が異なっているのが6年経った現在の実情です。だから尚更、事務局の宮城県図書館がまとめ役として震災アーカイブの「要」になる必要があると感じています。
当館では、震災文庫と震災アーカイブに携わる専任の職員2名、その他の担当と兼務している職員10名という体制で日々の業務にあたっています。震災から時間が経つにつれて携われる人数は減り、人手が足りているとは言い難い状況です。体系的に「まとめる」というのは労力、場所、人、お金がかかること。規模の小さい市町村立図書館では、多くの場合、震災関連資料を郷土資料のひとつとして収集します。だからこそ、当館のように大規模な館が東日本大震災に特化し、体系的な資料の収集・整理・公開を行わなければいけないのでは?と思っています。利用する側としても、ーか所に集まっている方が利用しやすいでしょうから。
震災アーカイブについては、利用者の方から「震災前の町の様子が知りたい」という問い合わせもあります。確かに、震災前に営まれていた日常に関する記録がないと「被災地が被災地になる前」のイメージが湧かないんですよね。震災関連資料とセットで見ていただくことで、「震災前の日常→地震・津波→被災→現在」といった時間の流れを感じられれば、資料や記録を見たときに、被災地のことを自分事として考えやすいのではないでしょうか。
写真提供:宮城県図書館
「毎年」行う企画展
震災文庫や震災アーカイブに蓄積された資料は、あくまでも「活用するための素材」。どのように利活用するのかは利用者の方に自由に委ねられています。ただ、レファレンスサービスとして「こういう資料がありますよ」と提供したり、「こういう風な見方、探し方、活用の仕方がありますよ」と紹介しながらサポートすることが必要なのではないかと考えています。 資料活用の一例として、当館では3月11日を含む期間に、「東日本大震災文庫展」を毎年行います。震災文庫に保存されている資料を中心に、時には他の施設や個人の方からお借りした資料を展示する企画展です。 毎年違うテーマを掲げて企画をするにあたって、「今年は東日本大震災をどういう観点から見てもらうか?」ということを念頭に置いて資料を選んでいます。また、年に一度の企画展は、普段棚に並んでいてもなかなか手が出ないような資料を紹介し、スポットライトを当てる絶好の機会でもあります。
毎年行う理由は、「去年までは胸がいっばいで見られなかったけど、今年は見てみようかな」という人がいるかもしれないからです。6年経った今でも、海に行けない人がいる、3月11日のことを話題に出せない人がいる…。そんな現実の中で、展示の内容にも広報の方法にも配慮が必要です。「絶対見てください!」とは言えないですよね… 。難しいです。それでも、震災を振り返り、忘れないためにも毎年続けていくつもりです。
閉架書庫では、6年経った現在も余震に備えて落下防止対策のヒモを巻いたままにしている
館内2階展示室にて年に一度行う「東日本大震災文庫展」の様子
写真提供:宮城県図書館
特別展 「復興の道標ー東日本大震災文庫展Illー」 (平成24年9月7日〜11月25日)
東日本大震災文庫展Ⅳ 「小松左京が遺したもの ー震災の記憶・未来へのことばー」 (平成26年3月1日〜6月27日)
東日本大震災文庫展VI 「いつまでも忘れないために 一未来へ伝える記憶と記録ー」 (平成28年3月11日〜6月24日)
託された資料は信頼の証し
そして、企画展の狙いがもう一つ。展示を見て、「私が持っているものも震災関連資料なのかしら?」と気が付いていただき、新たな資料の獲得へつなげることです。図書館が震災関連資料を集めていること、そして寄贈していただいた資料を活用していること。その二つを知ってもらうことも、大切な活動です。寄贈していただいた資料を企画展で展示していたところ、寄贈者の方から「活用してくださってありがとうございます。感動しました」と置き手紙があったことも…。寄贈者は、自分が図書館に託した資料がきちんと大切に扱われているのか、活用されているのかどうか、知りたいのではないでしょうか?
バックヤードにある未整理の資料
専任職員がいるのは他館に比べれば恵まれているものの、震災文庫と震災アーカイブを運営していくためには、人手が足りているとは言えない
写真提供:宮城県図書館
図書館が集める震災関連資料は書籍のように購入するものだけではなく、寄贈されるものも多いので慎重に扱わないといけません。寄贈された資料は「未来へ残さなくちゃ…!」と思って記されたもの、撮影されたもの、保存されていたもの。だから、震災文庫のバックヤードにまだまだ未整理の寄贈資料があるのは心苦しいんです。できるだけ早く整理して、公開できるものに関しては、多くの方に活用していただきたいと考えています。
震災関連資料を収集している宮城県内外の図書館でも、震災関連資料収集活動に携われる職員の人数が減り、一般予算をやりくりしながら継続しているようです。だからこそ、「東日本大震災文庫」と「東日本大震災アーカイブ宮城」は、県立館である宮城県図書館として続けていかなければならないことだと、館として強く認識しています。
原資料とデジタル資料。館内の震災文庫とインターネット上の震災アーカイブ。保存している資料の種類や場所は違っても、大事なものを預かっているという意味では一緒。宮城県図書館を信用してもらって託されている以上は、責任を持ってどちらも運営していかなければなりません。図書館が未来へ残してくれると思うから、寄贈してくださる方がいるのです。託す人は、どこに託すのかは自由。地元の市町村図書館でもいいし、国立の図書館、専門図書館だってあります。そんな多くの図書館の中で、宮城県図書館を選んで託してくださっているのです。ですから、そういう意味でも、残していかなくちゃいけないんです。
東日本大震災はまだ終わっていません。だから、これからも関連資料を集め続けなくてはいけないし、集め終わる日は来ないでしょう。現在担当している身としては、まずとにかく失われる前に資料を集めて、未来に生きる人たちヘ残すのが最優先です。6年しか経っていない今はダメでも、100年経てば公開できる資料があるかもしれないし…。だからまず、集める。一度失われてしまった資料は、もう二度と見られませんから。
震災記録の収集・公開の重要性を訴える図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」(2012年3月から実施)
岩手県立図書館、宮城県図書館、福島県立図書館、仙台市民図書館、岩手大学図書館、東北大学附属図書館、福島大学附属図書館、神戸大学附属図書館の計8館が呼びかけ団体として名を連ねる
(取材日:2017年7月21日)
取材・執筆:宮脇 薫子 金剛株式会社 社長室
※取材当時
宮城県図書館
所在地:宮城県仙台市泉区紫山1-1-1
T E L :022-377-8441(代表)
開館時間:火曜日から土曜日 午前9時から午後7時まで
日曜日・祝日・休日 午前9時から午後5時まで
子ども図書室はいずれの日も午前9時から午後5時まで
児童資料研究・相談室は水曜日~土曜日の午前9時から午後5時まで
休館日:月曜日(月曜日が祝日・休日にあたるときは翌日)・館内整理日(1月4日)・特別整理期間・年末年始
U R L :http://www.library.pref.miyagi.jp/