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話し手: 鈴木 聖志さん(株式会社鈴木伸幸建築事務所 代表取締役、一級建築士・設計専攻建築士)※所属・役職は取材当時のものです。
図書館を見学させていただきました。落ち着いたデザインで景観にとてもよく馴染んでいますね。
計画当初、駅前という立地から考えたときにふたつの考え方がありました。ひとつは、駅を降りた瞬間に視界に飛び込んでくるようなシンボリックな大型の建物。もうひとつは周囲の景観に溶け込むような低層の建物です。結果的には後者の考え方を採用しました。近隣にはたくさんの住民の方がお住まいですので、その方々の生活を守るためにも今まで通りの日照環境を保たなければいけません。また、棚倉町では歴史的な街並みや棚倉城の復興などが構想されていますので、将来の町全体の景観との調和から考えても、棚倉らしい落ち着いた建 物にしなければならないと考えました。
近隣との調和に配慮した低層の設計
外部デッキと大きくせり出した庇(ひさし)
土壁風の外壁
確かに、木の風合いや土壁といった和風のつくりが印象的でした。
実は外壁に使っているのは本物の土壁や砂壁ではないんです。本物の土壁は長年使っているとヒビが入ったりしてどうしても補修をしながら付き合っていかなければなりません。天然の素材はとてもいいのですが、公共建築物ですから住民の皆さんに負担がかからないよう維持管理費を極力抑える工夫も重要です。そこで、外壁などには天然の素材の風合いのある人 工の建材を採用しました。また、外部のデッキなどは子供たちが安心して遊べる場所にしたかったので、劣化したときにささくれの心配がある本物の木材ではなく、耐久性と安全性に 優れた合成木材を採用しました。雨がかからないように屋根の庇(ひさし)を通常より大きくせり出すような工夫もしました。 一方で、場所によっては自然のものにもこだわりました。たとえば、エントランスの壁や床面に採用しているのは天然の「大谷石(おおやいし)」です。もともと棚倉では壁や塀などで多用されていましたが、その多くが震災で倒壊してしまいました。 この「大谷石」の記憶をどこかに残したいという想いから、図書館の入口廻りの壁と床に採用しました。現代の建築技術でしっかり吊り込んで補強すれば壁に使っても問題ありませんし、比較的柔らかい石ですので、床材としてもとても足あたりがいい素材です。 ゆっくりと擦り減っていって10年、20年と風合いが変わっていくのも魅力です。時間が経過するにつれて「大谷石」が図書館の歴史を物語ってくれます。
天然の「大谷石」の外壁
安全性にも気を使われたと。
はい。耐久性と同様、安全性も重要です。東日本大震災の直後ですから地震対策には特に気を配りました。建物本体の構造計算はしっかりと行い、確実に新耐震基準に耐えるものになっています。今回採用した免震書架などもそういった安全への思いからです。当たり前のことですけど、大切な血税を使って作る建物ですから、我々には安全で長持ちする建物を作る責任と使命があります。
地震対策に配慮した免震書架
公民館併設ということで、音にも配慮した設計をされていると伺いました。
多目的ホールのひと部屋は軽防音構造にして、カラオケやダンスなどといった活動ができるような作りにしました。木造建築ですのでどうしても限界はありますが、壁・床それぞれに振動が伝わりにくい構造にしたり、図書室から一番離れた場所に配置したり、可能な限りの工夫を施しました。
景観との親和性、耐久性、安全性、機能性・・・本当にいろんな側面から熟考された建物なんですね。
私自身、出来上がった時に絶賛されたいとか、コンテストでいい賞を取りたいというような思いはありません。建築という仕事を評価してくれるのは時間だと思っています。10年後、20年後に「手間がかからなくていい建物だね」と喜んでいただけるような建物であってほしいと考えています。
館内全景
本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
取材・文:矢賀部 仁 金剛株式会社 社長室
※取材当時 (取材日:2014年8月25日)
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