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話し手:菅井 啓太(株式会社坂茂建築設計 ディレクター)
聞き手:原田 亜美(金剛株式会社 社長室)
今回の設計でのご担当範囲について伺います。
建物の設計だけでなく、美術館に必要な什器や家具の設計など、全般を担当しました。デザイナーとともにサインの計画も行っています。
大分県立美術館の設計上の特長について教えてください。
中の様子が外からよくわかる、非常にオープンで自由度の高い美術館であるということです。
美術館1Fのアトリウムにある水平折戸を開くと、美術館の前の昭和通りとアトリウムが一体になり、中と外の両方を使って街のイベント等も開催できます。また、アトリウムや外でのイベントに連動して形を変えられるよう、美術館1Fの展示室はすべて可動壁でつくっています。それに伴い、ショップやカフェのブース、サイン等も動かせるように設計しました。美術館の2Fはペデストリアンデッキによって、昭和通りを挟んで向かい側にある「OASISひろば21」という既存の複合文化施設と直結しています。
オープンな美術館を設計された経緯についてお尋ねします。
今回の美術館に関して大分県からは「OASISひろば21とペデストリアンデッキなどで繋ぐ」という条件に加えて「二つの施設が相乗効果を発揮できるような提案を盛り込んでほしい」という要望が出ていました。
それを受けてまず思い浮かんだのが、両施設の間の昭和通を歩行者天国にし、街のイベントなどを開催するイメージでした。そして、そのようなイベントに連動して館の中と外が一体の空間になり、館内にもイベントスペースを展開できるような、物理的にオープンで自由な美術館を提案しました。物理的にオープンな設計にすることで、人々が街の一部として日常的に訪れやすくなるのではないかとも思います。以前から、従来の美術館の多くが館内で何をしているのか見えないことに疑問を持っており、もっと身近に利用してもらえる美術館はできないかと考えていたことが、今回の提案の下地になりました。
そして「オープンな美術館」の実現にむけ、道路と館内を繋げるための水平折戸や、外と連動して使えるアトリウム、可動壁でつくる1F展示室などの設計を固めていきました。また、カフェやショップ、情報ゾーン、教育ゾーンなど、フリーで利用できるスペースがアトリウムに面するようにしました。展覧会を見ない人でも楽しめる美術館にすることが狙いです。
今回の設計コンセプトについて「街に開かれた美術館」という言葉がよく使われていますが、ただ開いているだけではなく、人を引きずり込んでしまうようなイメージです。(笑)
そうした特長を実現するために、苦労した点や気を付けた点はありましたか。
やはり1Fの水平折戸が開くことを考慮し、外気をいかに遮断するかという点には細心の注意を払いました。1F展示室の可動壁はただのパーテーションではなく、普通の外壁と同等の防火性能や気密性能を持つものにしました。さらに可動壁には自動扉をつけて風除室をつくることができるようにし、外気が入りこむことを極力防いでいます。3Fのエスカレーターを上ったところにも自動扉をつけ、エアカーテンも用意しました。
今回の美術館には他にも新しい試みがたくさんありましたが、それらの性能についてももちろん注意しました。特に水平折戸は一から設計したので、5,000回の開閉試験やサッシの気密性・水密性テストを行うなど、検証を重ねながら作っていきました。
こうした技術面での大変さとはまた違った苦労もありました。館長も学芸員もまだ決まっていない状態での設計でしたので、実際に現場でどう使われるのか、どのような仕様が必要とされるのか等をすべてこちらで想像しながら設計し、むしろこちらから使い方を提案していかなければならなかったのです。
そうしてできあがった大分県立美術館に、今後期待することはありますか。
とにかく色々な使い方ができるように設計していますので、難しいところもありますが使いこなしてもらい、どんどん美術館を盛り上げて頂きたいです。既に「こんな使い方があったのか」とこちらの想像を超えた使い方もありました。例えば2Fの使い方。ワークショップ用に設計した椅子を2Fでの展示の際の展示台として活用されていたことや、ワークショップ用のはさみなどの文房具類を使っていない間、アトリエの壁に綺麗に並べて掛けて絵画のように見せていたことなどには、目から鱗が落ちる思いがしました。
そして今回、美術館を作ったわけですが、もっと広い視点でいえば、大分の人たちが集まることができるような“場”を提供できたのではないかと思います。今後、この大分県立美術館や周辺の施設を通して地域の日常生活がより豊かな方向へ変わってくれれば嬉しいですね。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。今後が楽しみですね。
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