文化財IPMメンテナンスに関するご説明

文化財、IPM、保存環境管理

日常管理で保存する

 四季がある日本は、諸外国に比べ高温多湿であり、年間を通して温度湿度が大きく変化します。特に、5月~10月には生物的劣化の危険領域に入ります。この変化に富んだ気候は、文化財を保存している室内環境にも少なからず影響を及ぼします。

 また、近年の建造物の高気密性という特性により、内部に発生する様々な汚染因子からの影響も十分危惧されます。もともと日本の文化財は紙や木で出来たものが多いことから、様々な要因による劣化が起こりやすい条件を先天的に持っています。

 文化財の保護のため、金剛はお客様と共同でリスクをコントロールし、IPM(総合的有害生物管理)も考慮した環境改善をご提案します。

 金剛の社員には、文化財IPMコーディネーター及び文化財中菌害防除作業主任者(共に財団法人文化財虫害研究所資格認証)資格取得者が多数います。

環境保全サイクル
筧、バナー

基本的な考え方と日常管理

文化財IPMメンテナンスは、化学薬剤だけに頼らないで計画的、日常的に生物加害を防除し、総合的に管理していく方法のことをいいます。
文化財害虫・カビの調査や監視 (モニタリング)、清掃などの日常管理が求められます。

1.回避 Avoid

文化財害虫・カビを寄せ付けない効果的な清掃とクリーニング

文化財害虫による被害は、
■外部からの侵入
■適度な湿気、ゴミなど文化財害虫の餌となるものがある
■清掃しにくい場所、暗所
などの条件が揃うと発生する傾向があります。


カビを生やさないための基本的な対策法は、 相対湿度を60%RHより低く維持することです。
外壁、床面、 空調機の冷気が直接あたる所などの結露しやすい場所は、特に注意が必要です。
収蔵棚については、 一番下の棚板は最低でも100mm、可能ならばそれ以上床面より高く上げると効果的です。

文化財害虫・カビを寄せ付けない清掃とクリーニング

2.遮断 Block

文化財害虫やネズミが侵入するルートの遮断

■建物の開口部や隙間より侵入してくる文化財害虫やネズミを防ぐ
建物の開口部や隙間には、 網戸や防虫ネットを付け、文化財害虫の侵入を防止します。

■借用資料や新収蔵資料の受け入れ時に付着してきた文化財害虫の侵入を防ぐ

■清掃を日常的に行い、 文化財害虫の好物である栄養分・繁殖場所を除去する
展示類や梱包類の資材の放置は、 文化財害虫を誘引する要因となります。

■水分の除去
温度・湿度の管理
結露の防止:外気の影響を受けやすい部分は、 室内との温度差ができるため、 結露が生じやすくなります。

■室内に塵埃を持ち込まない
収蔵庫など収蔵区画に入る場合は、 塵埃を持ち込まないように出入り口に粘着マット、 室内履きを設置する、など。

3.発見 Detect

早期発見が重要、 またその記録は不可欠

■建物の開口部や隙間より侵入してくる文化財害虫やネズミを防ぐ
日常点検で早期発見し、 拡大の阻止と対処を早い段階で行います。

■モニタリングトラップ調査
動きまわる文化財害虫の監視を目的としています。
文化財害虫の種類・数を採取日と一緒に平面図に書き込むことで、定期的に捕まる文化財害虫の種類・数を把握することができます。

■目視で日常点検
ライトを斜めから当てると、 埃やカビが浮かび上がり観察しやすくなります。

■専用機材で把握する
浮遊菌調査・落下菌調査など

4.対処 Respond

収蔵資料に安全な方法を採る

■文化財害虫被害
文化財害虫が発生した際は、直ちに文化財害虫の拡散・被害を阻止するために隔離し、
駆除の対象や被害範囲、文化財の材質を考慮した適切な方法で対処します。

■カビ被害
ほかの収蔵資料に被害が移らないように隔離したうえ、発生場所の水分除去・湿度を下げることが重要です。
カビを放置しておくと、さらなるカビの増殖や文化財害虫を誘引することになります。

5.見直し Review

日常管理による予防対策

文化財害虫の餌やカビの原因となる埃を定期的な清掃で取り除きましょう。
カビに対する基本的な対策は、水分のコントロールです。 湿気だまりを作らず、 相対湿度を60%RHより低く維持することです。
また、こまめな掃除や作品のクリーニングは、カビの胞子や栄養源を豊富に含む汚れや埃を除去するので非常に有効です。

環境保全調査のフロー

まずは、現状を知ることから始めましょう。
把握した状況に応じて最適な対策を立てることが、総合的(効果面・環境面・経済面)にみて有効かつ負荷が最も少ないと考えます。

環境保全調査、IPMメンテナンス

防塵・防カビ作業

埃は文化財害虫・カビの温床となります。 部屋のコーナーの一部や棚の死角など、目の届かない場所は埃がたまりやすい特性があります。
金剛はIPMコーディネータによる文化財虫菌害予防のための防塵・防カビ作業の支援を可能にしました。
実施プランの作成や御見積などお気軽に金剛営業担当者にお声かけください。

収蔵庫IPMメンテナンス作業図解

収蔵庫IPMメンテナンス作業は、 ①事前調査→② メンテナンス作業→③事後調査の順に進めていきます。
収蔵庫設備メーカーである金剛をはじめ、PCO会社・関連の専門会社と連携して実施します。
※PCOは、 Pest Control Operatorの略称で、虫駆除専門技術者を示します。

防塵、防カビ、IPMメンテナンス

①空調吹き出し口・排気口

空調吹き出し口、排気口、清掃

埃やカビが付着しやすく、長時間使用しないと文化財害虫の温床となる可能性もあります。
カバーを外して、バキュームで集塵し、クロスで拭きあげます。

②照明器具

照明器具の拭き上げ、IPM

静電気を帯びやすいため、埃が付着しがちです。
クロスで拭きあげます。

③見切り・巾木

見切り、巾木、清掃

見切りや巾木は、埃がたまりやすい場所です。
バキュームで集塵後、クロス拭き上げを行います。

④木製壁面・フローリング

フローリング、木製壁面、清掃

微細な粉塵が付着しやすいため、板目に合わせて、バキュームで集塵・クロス拭きあげを行います。

⑤収蔵棚

収蔵棚、足高仕様、清掃

天板部や棚の裏、棚の下は人目につきにくいところであり、塵埃が多く堆積していきます。
バキュームやモップ等で丁寧に仕上げていきます。
なお、棚下は100mmほど空間があると、スムーズに作業が行えます。(足高仕様)