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話し手:吉住 磨子さん(佐賀大学美術館 副館長)、堤 達行さん(佐賀大学環境施設部長)、佐々木 奈美子さん (佐賀大学美術館 学芸員) ※所属・役職は取材当時のものです。
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ー佐賀大学美術館の概要について教えてください。
佐賀大学美術館は、佐賀大学と佐賀医科大学の統合10周年記念事業の一環である正門整備計画の一つとして建設されました。国立大学法人で単館の美術館を有しているのは東京芸術大学に次いで2例目となります。国立大学法人の総合大学としてはもちろん初めてです。建物の規模は鉄骨造2階建て、建築面積1,471.50m2、延べ床面積1,736.79m2です。設計業務が始まったのが2011年12月。1年間の設計期間を経て、2013年1月に着工し同年8月に完成しました。オープンは2013年10月2日でした。現在、開館からちょうど1年といったところです。当初、設計にあたっては3つのコンセプトを掲げました。1つめは「人々の活動が主役となるオープンミュージアム」です。これは、佐賀大学や地域の人々の活動が垣間見られる開放的で親しみやすい美術館を意味します。2つめは「フレキシブルな展示空間」です。様々な展示形態に対応する移動式大型展示壁を備えた展示室を目指しました。3つめが「佐賀大学の顔、大学と地域の交流の場」です。大学正門に位置し地域交流の場、大学広報の場そしてキャンパス全体を活性化する役割を担う場として位置付けをいたしました。これらのコンセプトを満足する美術館ができたと思います。
ー美術館が出来る前、同様の機能を有した施設などはあったのでしょうか?
美術館建設以前は類似の施設はありませんでした。同窓生の作品や交流関係のある大学からの寄贈作品などは学内各所に点在して展示されています。その他、同窓生の作品はキャンパス北側にある同窓会館にも収蔵・展示されております。ただ、同窓会館は公開を目的とした施設ではないので、美術館に類した施設というものは無かったと言えます。
美術館とは別なのですが、附属病院では「院内画廊」と称して寄贈された作品を病院の廊下に展示する取り組みがされています。前院長であり現在の美術館の館長である宮﨑館長が始めたもので、今年で早や4〜5年になります。患者さんのアメニティの改善やお見舞いの方にとっても癒しになればという思いが込められています。これから病院の改修が進められるのですが、この展示はさらに充実させる方向で検討が進んでいます。
ー統合10周年事業の一環ということですが、なぜ「美術館」だったのでしょうか?
佐賀大学における美術教育の歴史は半世紀以上前にさかのぼります。1953年4月、佐賀大学に「特別教科(美術・工芸)教員養成課程」という高校の美術教員養成を主目的とした課程が開設されました。全国で七大学に設置され、九州では佐賀大学のみでした。現在は文化教育学部美術・工芸課程と名称を変えていますが、当時の通称を残して「特美」と呼ばれています。特美は60年を越える歴史の中で多数の美術教員や作家、デザイナーを輩出するなどして実績を重ねてきました。教育機関としての人材輩出に加えて、長年にわたり地域住民と一体となった芸術活動も継続しています。そのため、「特美」はその名称とともに地域の方々に大変親しんでいただける存在となっています。このような内外両面での特美の実績を背景にして、佐賀大学の強みを検討したとき「美術・工芸」というキーワードが浮上してきました。もちろん客観的な事実や数値に基づいた検証も行いました。「安定した入学志願者数の維持」「九州美術・工芸教育界のリーダー(九州唯一の特別教科教員養成課程)」「理論と実践の両面に強い学校教員から大学教員や作家も多く輩出」「所属教員や在学生・卒業生の全国レベルの活躍」など。検証したいずれの事項も美術・工芸を強みとして裏付けるに十分な評価結果を得るに至りました。
ー運営面などにおける公共の美術館・博物館との違いはなんでしょうか?
教育機関ですから学生にとっての展示の実践の場として活用しています。佐賀大学美術館は「オープンミュージアム」のコンセプトの通り、ガラス張りの外観で非常に明るい作りになっています。他方、展示室内部は作品に外光が当たらないよう移動式大型展示壁で空間を再構成できるようになっています。柔軟性が高い分、高度な水準の展示の工夫が要求されます。加えて5mという天井高をどのように活用するか、これも決して容易ではありません。それだけに、ここで実践を積むことは学生の将来にとって大変有意義であると思います。
それと、当初のコンセプト通り地域密着というスタンスは大事にしています。大学が主催する企画展示の合間には、市民や卒業生が企画した展示にも積極的に取組んでいます。市民の方の意識も非常に高いです。施設利用には専門委員会の厳しい審査を通過しなければならないのですが、すでに多くの方々に大学美術館を利用していただいています。
ー文化意識が高い土地柄ということでしょうか。
はい。そのとおりです。佐賀には約400年前に創業した有田焼をはじめ、唐津や有田など日本でも有数の陶磁器の産地があります。また明治期には岡田三郎助や百武兼行をはじめとした佐賀出身の画家が日本の近代美術を牽引してきたという歴史があります。佐賀は地理的にも恵まれた環境にあります。隣接する大川は家具の一大産地で佐賀とは交流が深かったそうですし、明治期の近代美術を支えた久留米出身の画家、青木繁も佐賀で一時期を過ごしました。こういった歴史的、地理的事情と、佐賀大学に開設された特美がうまく繋がったのではないでしょうか。特美自体も開設以来、多くの人材を輩出し、地域と一体となった活動を重ねる中で、少なからず佐賀の文化的風土の醸成に貢献してきたのだと思います。
ー2年後には新しい学部設置の動きもあると。
平成28年4月に県立有田窯業大学校(佐賀県西松浦郡有田町)の佐賀大学への統合を予定しております。佐賀大学は、ちょうど全学的な改組の時期にあたり、これに合わせて、現在の文化教育学部を改組し、教育学部(仮称)と芸術学部(仮称)の新設を目指しています。芸術学部(仮称)は芸術表現コースと芸術マネジメントコースの2コースを予定していますが、改組後、佐賀大学美術館が大学の内外で果たす役割は一層重要になることと思います。
ー佐賀という土地が擁してきた文化的風土、特美の歴史、今回の美術館の開設。そして、2年後の芸術学部(仮称)開設。今後がとても楽しみですね。
本日はありがとうございました。
(取材日:2015年5月29日)
取材・文:矢賀部 仁 金剛株式会社 社長室
※取材当時
PHOTO GALLERY
佐賀大学医学部附属病院の廊下に展示された絵画。「院内画廊」として親しまれている。
「オープンミュージアム」のコンセプトに沿ってガラスを多用した外観。
フレキシブルに展示空間を再構成する移動式大型展示壁
大型展示壁は5mの高さを有する
貴重な作品を保管する収蔵庫
佐々木さん、吉住副館長、提部長
佐賀大学美術館
所在地:佐賀県佐賀市本庄町本庄1番地
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
夏季休館期間…8/13〜15
冬季休館期間…12/27〜1/5